横着者達の挽歌
あるところに、横着者の男がいました。
彼は仕事をしていませんでした、働くのがとても面倒だったのです。
いつも両親の仕送りを頼りにしつつ、彼自身はいつか働くといっておいて、働く素振りなど欠片もありませんでした。
彼は、テレビを見るのが好きでした。
しかし彼は動くのが面倒だったので、テレビの電気をつけるのも一苦労でした。
リモコンも壊れていたので彼の家にはありませんでした。
今更修理する気も買い換えるお金の余裕も、彼にはあるわけがないのでした。
しかしテレビは見たかったので、どうすれば面倒なく電源をつけられるのかを考えました。
いっそつけっぱなしにしようかと考えましたが、それでは電気代が余計にかかります。
彼は、うーんと病気の人間のように気味悪くしばらく唸っていましたが、突然起き上がりました。
「そうだ、そもそも俺がテレビに出れば一々電源つけなくてもいいんじゃないか!」
それから五年後、彼は一躍人気のタレントとして活躍するようになったそうです。
あるところに、横着者の侍がいました。
刀を振り回すだけで、大義も何もない侍でした、そのくせ大食らいです。
あまりにもどうしようもない性格なので、農民達からもとても嫌われていました。
しかし、あまりにも怠惰を極めた彼は、いよいよもって刀を振り回すのが面倒になりました。
でも、これがないと住民達に示しも威厳もつきません。
刀のない彼など、ただ偉そうなごくつぶしにしか過ぎません。
どうすればよいのか、彼はしばらく悩みました、そしてひとつの結論が出たのです。
「そうだ、手で持つのではなく、我が身体の一部にしてしまえばよいのだ、なんだこんな簡単なこと」
侍はそう思い立つと、農民に声をかけました。
「これお前、この刀でワシの背中を貫け」
「え、お侍ぇさん、どうしちまったんですかい?」
「うるさいぞ貴様、斬られたいのか。こうすればワシはわざわざこの手で持たずとも、貴様らに刃を向けることが出来るのだ。さあ、早ようせぬか」
「へ、へえ……何考えてるだか知らねぇけど、御免しますぜ!」
「はははぁ! これでワシは」
侍は見事に刀で身体を貫かれ、すぐに死んでしまいました。
刀を突き刺した農民も、その後処刑されてしまいました。
あるところに、横着者のヒーローがいました。
彼は、一々向かい来る敵を倒し、人々から讃えられる生活に飽きてしまったのです。
必殺技を叫ぶことも、空を飛ぶことも、というより戦うことすらも面倒くさくなっていました。
あまりにも面倒になったので、ヒーローはある日敵にこういいました。
「降参する、だからお前達の仲間に入れてくれ」
ヒーローが寝返ったその後、世界は荒廃の時期を迎えました。
悪党達が町を闊歩し、人々は略奪の鬱目に毎日のように24時間あう羽目になってしまいました。
しかしその後、立ち上がった市民達によって組織はあっけなく壊滅させられ、世界に平和が戻りました。
その時、寝返ってただ寝るだけの生活を続けていたヒーローは、市民達によって捕らえられ、もっとも酷い殺され方をしました。
以来世界では、誰もヒーローという存在を讃えるものはいなくなりました。
とあるところに、横着者のイヤホンがありました。
イヤホンは音を出すのに一々力を使うのが面倒になってしまい、ある日音を一切とめてしまいました。
翌日、イヤホンは捨てられました。
とあるところに、横着者の私がいました。
私はとても横着な人間で、いよいよ空気を吸うのが面倒になってしまいました。
でもまだ死にたくありませんでした、まだ私は若かったですし、当たり前のことです。
しかしある日、とてつもなく空気を吸うのが面倒になった日がありました。
私はどうすればいいか考えました、よし、なら今日だけ、ちょっとだけ、空気を吸うのをやめてみよう。
まあ死なない程度に空気をちょっと吸えばいいんだ、よし、やってみよう。
………………。
あーそろそろ苦しいなあ、でも今吸うのもなんだか面倒くさいな。
でも、なんかそろそろ苦しいなあ、でもやっぱりちょっと今は空気を吸う気しないなあ。
うーん、ちょっとやばいかな? いや、でもなんだかやる気でないな、まあもうちょっと後でも大丈夫でしょう。
流石に苦しくなってきたなあ、でもなんだかもう肺が動いてくれないな、もう少しだけ、もう少しだけこうしてよう、にしてもこう考えると息するってこんな面倒くさいことだったんだな。
あー、面倒くさいな……。
そして私は、いつの間にか息を吸わなくてよくなっていました。
オチが読めるシリーズ。隙の無い名探偵同様それぞれのネタのオチがわかりやすい一作。なら少し書き直してから出そうかと思いましたが、今後の自分のステップアップのためにあえて出してみました。