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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

均衡

作者:

静動やら左右やら善悪やらの

均衡がついに崩れてしまうと、

人間は壊れる。


おれの人生が変わったのは、

知らない男が

おれと知らない人間たちを人質に、

銃を持ちバスに立て籠った日のことである。


息子を祝う為に早めに用事を終えた日の、

偶然の遭遇だった。


苛立ちが焦燥に変貌し、

正義感が無謀に飛び付き、

だが相手の隙を捉え

武器を奪った瞬間には、

頭の中の隅の方では、

まるで映画のようだ

と、考える余裕すらあった。


他人との交流で不信感を募らせても、

身に覚えの無い罪に咎められても、

嫁とお袋の間にくだらぬ争いがあっても、

おれは常に正しい判断を下して

上手く生きてきたつもりだったが、

その時ばかりは

不思議と躊躇いが無かったのだ、

他人を撃つということに。


おれの銃弾は相手の死の淵まで

一瞬にして届いたが、

空気の振動が

おれの右の鼓膜を破ったのだ。


尤も

その瞬間は達成感に包まれたので、

それに気が付いたのは

バスではない別の車の中であった。


悪人を殺したおれは、

悪人に成って仕舞った。


暫く時が経った今では、

当時鞄から逃げ出したかのように失くした物に

息子はどこかで気付いて喜んでくれただろうかとか、

おれのせいで収拾のつかない言い争いを

女達はまた始めてしまっているのかとか、

そんなことばかり考えている。


おれのこの先のことなど、

殆どはもう、何うでもいいのである。


強いて挙げるならば、

夢か幻かとも思えるが

男の断末魔の叫びが今でも度々襲い、

片方の耳はまだ皮肉にも健在で、

本当ならそちらももう

塞いでしまいたいということ位のものだ。


確かにあの時、

おれは男を殺したはずだが、

同時に

おれ自身も壊れてしまったのかもしれない

と、思う瞬間がある。

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