アントの失踪
隊長が決まったところで、何か特別なことをするのかといえば、そういうわけでもない。
オレ達は別に、日頃から活動したりはしないのである。これでは、オレ達が『隊』である意味がない気もするのだが……。まぁそれは置いておこう。
「たいちょおたいちょお~」
「なんだ、うっせーな」
間抜けな声で、モースがオレを呼ぶ。オレはかなり不機嫌そうな表情で、モースの方へと視線を振った。
「あのさぁ、オレっちいいこと思いついたんですけどぉ~」
コイツの言う『いいこと』は、当てにならない確率の方が高いのだが……。まぁいい、隊長として、聞くだけ聞いてみようじゃないか。
「なんだ? 言ってみろよ」
「ん。えぇ~とぉ、今日の活動として……リア充な昆虫達を、皆殺しにするというのは、どうでしょ~?」
「却下だ!」
オレは、間髪をいれずにそう答えてやった。
モースは表情を歪めながら、「えぇ~?」と不満そうな声を出す。
「なんでダメなんスかぁ~?」
「ダメに決まってんだろ! 殺しはタブーだ!」
「え? じゃあ~、撲滅しに行くってんのなら、よくねぇ~?」
「よくないっ! あと、そういう言葉は控えろよ? アントが真似しちまうだろ!」
まったく、ああ言えばこう言う……。困った蛾だぜ。
ともあれ、オレの必死の反論のおかげで、モースもある程度は分かってくれたようだった。
「ちぇっ、分かったよ。じゃあ今日もボケーっと一日過ごせばいいんだな」
別にそんなことは言ってないだろ……。すぐに拗ねるなよ、子供みたいだろ……。
そういえば、今までモースとばっかり喋ってて気付かなかったが……アントとフライルはどこに行ったんだ?
慌てて周りを見回すと、フライルはすぐ近くで昼寝中だった。しかし、アントの姿はどこにもない。
「ん? どうしたん、ビィ」
「いないんだ……」
モースの問いに、オレはぽつりと呟くように返す。モースはその声が聞き取れなかったらしく、「あんだって?」と聞き返してきた。
「いないんだ、アントがいない!」
オレが叫ぶと、それが聞こえたのかフライルがむっくりと起き上がった。
「いない? 誰がだ?」
「ふ、フライル! 聞いてくれ、アントがいないんだ……」
オレはすがるように、立ち上がったフライルの手を握る。その様子を見たモースが、「おーおー仲良しだねぇ」と茶化してきた。むろん、「ちげぇ!」と怒鳴りつける余裕は今のオレにはなく、
「ど、どうでもいいだろ……」
消え入るような声で、そう答えるしかできなかった。
「あいつは小さいから、お前には見えてないだけだろ。探せばすぐに見つかるさ」
フライルは落ち着いた声でそう言い、辺りを注意深く見回し始めたのだが……オレは、全く納得できなかった。
いつも慎重で大人しくて、オレ達と一緒の行動をとりたがるアントが……勝手にオレ達から離れるなんてこと、今までに一度でもあっただろうか?
ましてや、オレにも見つけられないところに行くなんて……。
「お~い、ぼーっとしてないで、ビィも一緒に探してくれよぉ~っ」
モースに声をかけられたが、それに答える余裕さえない。
「アント……」
自然にアイツの名を呼んでいた。
そして、気付いた時には、オレは大空へ飛び立っていた。モースとフライルの姿が、どんどん小さくなっていく。
「アント……絶対、見つけてやるからな……」
激しい胸騒ぎを感じ、オレはアントの身に何かが起こったのではないかと予測した。
どこに行くかなんて、全く決めてないのだが……オレはとにかく、早くアントを見つけ出そうという一心で、川に沿って上空を飛んでいった。




