隊長
なんだかんだで、今日も『非リア充昆虫隊』は集まった。もちろんこの、『非リア充昆虫隊』というのは、オレ達四匹のことな。
「あ~っ、今日は何するのぉ~っ?」
モースが、実にかったるいといった口調で尋ねる。……なんでコイツは、こんなにやる気がないんだ。
「何するのって言われてもな。オレだって分かんねぇよ」
「え~? 班長しっかりしてよぉ~」
「なんでオレを班長にすんだよ!」
そんな話、一度も聞いてねぇぞ! モースの野郎、いつも勝手に話を進めたり、決めごとを決めちまったりするんだから……。
こういうタイプって、集団行動した時に嫌われるんだぞ?
「で、でも、ビィくんならきっといい班長になれるよ!」
「あ、アント……お前までそんなことを……」
「俺も賛成だ」
「フライル……お前もかよ……」
決してオレには無理強いさせてこないアントと、普段から周りの奴らの意見をちゃんと聞くフライルさえも、オレに『班長』という責任を押し付けようとしてくる。
はぁ……まったく、なんなんだよ……。
オレががっくりと肩を落として意気消沈していると、
「あっ、オレっち達って非リア充昆虫『隊』だから、ビィは班長じゃなくって隊長か。あっはー、じゃあシクヨロ、たいちょお~」
追い打ちをかけるように、モースがオレの肩をポンと叩いた。
何が「シクヨロ」だ! 言葉づかいがちょっと古いってんだよ!
「あ、あの、そんなに固くならなくても、大丈夫だよ? 隊長っていっても、まあ……仮みたいなのでいいんじゃない?」
「じゃあお前がやってくれよ……」
オレを慰めてくれようとしたのだろうが、今ではそれは逆効果だ。
オレに冷たい視線を向けられたアントは、かなり戸惑いながら首を左右に振りまくり、
「えっ……ボク?」
最後に自分を指差して、目を丸くした。オレは短く、「そうだよ」と答えてやる。
「そっ、そんなぁ……ムリだよ、ボクに隊長なんて……」
戸惑うアントに、オレはニッと微笑みながら言ってやった。
「大丈夫だ。お前はいつも真面目だし、虫のことを考えることもできる。……お前だから、できることなんだ。オレは、お前のこと……信じてるからさ」
「び、ビィくんっ……」
オレの台詞に感動したのか、アントは目に涙を浮かべながら――なぜか顔を赤らめて、恥ずかしそうに下を向いてしまった。
ふっ……我ながら今の台詞、かっこ良かったと思うけどな。
「おーい、ビィくぅ~ん? もしかして、自惚れちゃったりしてますかぁ~?」
今のオレには、こんなあからさまなモースの嫌味も、全く聞こえていなかった。すなわち―― 自惚れていたってことになる。
「と、いうわけで、隊長はアントに決定しました! みんな、拍手~っ!」
「いやいや、勝手に決められても、こっちは困るんですけどぉ~……」
ノリノリで司会的なことをするオレに、モースが氷のような眼差しを向けながら突っ込んだ。
「さっきオレっちのこと、超メイワクそうに見てたけどさぁ……ぶっちゃけ、ビィもメイワクなことしてんじゃぁ~ん?」
「迷惑か? これ」
オレの問いに答えたのは、意外にもフライルだった。
「ああ、迷惑だ」
ええっ……? フライルまでもが、オレの行動や言動を、迷惑だと思っているだとぉ……?
オレはちょいショックを受けながら、確認のためにアントに聞いてみる。
「お前、今……迷惑してるか?」
「迷惑っていうか……別に、迷惑ではないんだけど……」
アントは視線をあちこちに移し、答えずらそうにしながら、でもなんとか一言だけ絞り出した。
「ちょ、ちょっと困ってる、かな……」
「そうか。ならやめよう」
「け、決心はぇぇ!」
モースは今までの余裕たっぷりな表情を豪快に崩し、オレに指を差しながら、ずいぶんと失礼なことを口にし出した。
「おまっ……オレっちやフライル番長が『迷惑だよ』って言ってる時はそれを認めなかったくせに、ショタ男くんが『困っちゃうなぁ~』って言ったら……すぐに『ならやめよう』って……!」
「うるせぇな、何をそんなに驚いてんだよ。それとモース、フライルのことを番長って呼んだり、アントのことをショタ男って呼んだりするの、いい加減やめろよ」
「は、話をそらそうとするな話を!」
モースはあわあわとオレの周りを旋回し、
「とっ、とにかく、罰としてビィに隊長やってもらうかんねっ! それでいい? 異議なし?」
訳の分からんことを言いだした。罰ってなんの罰だよ。
しかし、オレが反論する前に――、
「ボクは、異議なし」
「俺もそれでいいと思うぞ」
他の二匹から、肯定の意見が出てしまった。
お、お前らよくも裏切ったな……。後で覚えとけよ……!
……と、いうわけで、
「じゃあ、隊長はビィにけってぇ~い! ひゃっはー、決まりーヨ!」
なぜかテンションがアゲアゲなモースの言う通り、オレが隊長に任命されてしまったのだった。




