穏やかな居場所に陽気なアイツ
殺虫剤を逃れたオレとアントは、場所移動を考えることにした。とりあえず、人ん家の花壇に植えてある花にとまるのは、避けておきたい。
そうだ、まだ言ってなかったっけな。
最初にオレが、『平凡とはちょっと違うかもしれない』って言っただろ? あれだけじゃあ、なんのことか分からないって奴もいると思う。だから補足しておくぜ。
確かにオレは、毎日のんびりと暮している。だけどな、たまにああいう風に、殺されかける日があるんだよ。嫌になっちまうよな。
人間って奴は勝手だ。非常に勝手だ。
ちょっと花を借りて休んでただけなのに、オレはまだ何もしてないのに、いきなり毒薬撒きやがって。オレのこと、怖いって思う気持ちは分からんでもないが……もう少しお手柔らかにできないもんかね。
「ビィくん? 大丈夫?」
「ん? あ、ああ、悪いな」
ついぼーっとしてて、アントが呼んでいるのに気付かなかったようだ。
「やっぱりさっきの……。薬、かかっちゃったんじゃない?」
「馬鹿言え。かかるわけねーってあんなもん」
オレの素早さに勝てる人間なんて、到底いねーだろ。
「そう。なら、いいんだけど……」
アントが心配そうな表情を浮かべた。
おいおい、そんな顔すんなよ。オレは平気だし、おまえも平気なんだから、めでたしめでたしだろ。心配しすぎなんだっつーの。
そんな適当な会話を交わしながら、オレ達二匹はいつの間にか、河原のそばまで来ていた。
ここは、オレのお気に入りの場所でもある。周りは大きく開けていてあまり家がなく、そのため人が来ないからだ。
騒がしくもならないし、オレが狂気の目で見られる……なんてこともない。
それに、アントが潰される心配もなくなるしな。いいこといっぱいだぜ!
「よしアント、ここにすっか」
「うん、そうだね」
一応アントに確認をとり、オレは高度を落としていく。オレとアントの体が、ゆるやかに地面に近づいていく。
地面スレスレまで来て、オレはアントから手を離した。彼の体は、トン、という効果音が似合うほど、軽く地面に落とされる形になった。
最近は、というか日常的にあまりこういうことはしないのだが、オレも地面に着地してみる。超久しぶりの地面の感触に、一瞬ドキリとしてしまった。
……気持ちいい。
柔らかい土と、ちょっと湿った雑草の感触は、なぜだか懐かしさを感じさせるものだった。
オレはしみじみとした気分で、地面の感触を楽しみ――、
「おっ、ちーっす! 今来たのか~ぁ?」
そんなおちゃらけた声に邪魔された。
聞き覚えのある……というか、いつも聞いているこの特徴的な声。この声の主は、オレもアントもよく知る奴だった。
「ああそうだよ、モース。おまえも来てたのか」
気がつけばオレの周りをひらひらと優雅に飛んでいるコイツは、アントと同じくオレの同志である、蛾のモース。
蛾というのはなんだか暗いイメージがあるが、コイツは全然そうではなく、むしろかなり明るい性格をしている。
「てかさぁ、ビィ何してたの? なんかウットリしてたけどっ。……まっさか~ぁ、この年になってお漏らしかぁ?」
「ばっ……ちげーよ! 地面の感触を懐かしんでただけだ!」
オレがすぐさま反論すると、モースは「ふ~ん」と棒読みで呟き、
「なぁんか妖しいけど、ま、いっかっ」
うすら笑いを浮かべながら、無駄に陽気な声でそう言った。
オレとしては、今のおまえの言い方だと、『まぁよくない』んだけどな。妖しいってなんだ? 妖しいって。
キャラクター紹介 2
《モース》
分類:蛾 一人称:オレっち
名前の由来:蛾の英語(モース)から
ビィの仲間で同志。
夜行性だが、昼間も活動している。いつの時間に休んでいるのかは、本人しか分からない。
陽気な性格をしており、言葉は今どき。チャラ男ともいうべきだろう。
また、ビィのことは普通に『ビィ』と呼ぶが、他の虫には決まってニックネームを付ける。ネーミングセンスはあるのかないのか。




