セキニン & 無防備な隊長 & 一味違った日の出
走り出したはいいが、オレは自分達の失策に気づいた。
「なぁみんな、今思ったんだけど、今日はどこで寝ればいいんだ?」
「「「「……あ」」」」
やっぱり他の奴らもそのことを忘れていたようで、全員ぽっかりと口を開ける。だよなぁ、そうじゃないかと思ったんだよ……。
「そういえば、決めてなかったね……」
たははと乾いた笑みを浮かべながら、小陽がオレへと視線を振った。
「オレもすっかり忘れてたんだ」
オレはそんな小陽に、すまなそうな顔を向けた。小陽は「別に、刺捉くんのせいじゃないよ」と首と手を同時に横に振るが、
「もぉ~、隊長がボサッとしてたらダメじゃあ~ん」
高蛾はここぞとばかりに、思いっきりオレを茶化してきた。んだよコイツは!
「お、お前だって忘れてただろ? なんでも責任をオレに押し付けんじゃねぇよ!」
「それじゃ刺捉が隊長の意味ナイじゃん?」
なんだよ、じゃあお前は、隊長が全ての責任をとってくれるとでも思ってんのか? 人生そう甘くはないんだぞ?
変なところがしっかりしているのか、それともただ単に自分は悪くないと言い張りたいだけなのか、高蛾はなんとしてもオレ一人に責任を押し付けようとしてくる。
そんな高蛾を制したのは、意外にも愛花ちゃんだった。
「高蛾くん、そんなに刺捉くんを責めたりしたら、かわいそうですよ」
「お? アゲハちゃんは……あ、もうアゲハじゃないんだったけ。……可愛い子猫ちゃんは、刺捉の見方をするのかなっ?」
「かっ、可愛い子猫ちゃんとはなんですか!」
バカにされたと思ったらしく、愛花ちゃんは顔を真っ赤にして怒った。
「褒め言葉だよん?」
「私をバカにしているようにしか聞こえませんでした!」
高蛾を睨みつけながら憤慨する愛花ちゃん。ここまで彼女を怒らせるなんて、高蛾はなんていけない男なんだろうと……オレは呆れた。
怒れる愛花ちゃんは、能天気野郎にかかればすぐにほったらかしを受け、
「とにかく、セキニンとってもらわなくちゃねぇ~?」
ニンマリとキモイ笑みを浮かべながらオレに顔を近付ける高蛾に、
「き、聞いてるんですか? 高蛾くん! 大体あなたはいつも――」
必死で説教していたが、もちろん高蛾がそれを聞いている、なんてことはなかった。
♢
ピースフル市の市役所内で、熱心に殺虫剤を撒く元怒和がいた。
元怒和は黙って、廊下の端から端まで、隅から隅までやり残しのないように、殺虫剤を拭き付けていく。
「はぁ……なんでオレがこんなこと……」
その作業が気に食わないのか、元怒和はため息と共に愚痴をこぼし始めた。
「くっそ、夜中だっていうのに、こんな雑用押しつけやがって……」
やがて、手にしていた殺虫剤の中身がなくなり、元怒和は缶を何度か振ってから、中身が空っぽなことを確認した。そして、先ほどの隊長室へと戻っていく。
「ったく、隊長が夜更かしなんてするから、オレがこんな目にあっちまうんだよ」
隊長室の前へと到着した元怒和は、最後にそう吐き捨ててから、軽くドアをノックした。
「隊長、失礼するぞ」
しかし、数秒待っても返事はない。
「おい隊長……いるんだろ?」
言葉を変えて呼びかけてみるも、返事はなかった。それどころか、隊長室からは物音一つ聞こえない。
中にいるはずの隊長が返事をしない……元怒和は顔色を変え、ドアを先ほどよりも乱暴に叩いた。
「隊長、隊長! いるんだろ? 返事ぐらいしたらどうだ!」
しかし、いくら待っても返事はなかった。
元怒和の頭に、一瞬にして不安が広がる。
「さやか――――――――――――――――――――っ!」
元怒和の声が建物内に響き渡り、続いてバーンというドアの開く音が続く。それは、遅くまで残って仕事をしていた市役所職員達を驚かすのに十分な音量だった。
ドアを蹴り開けて半ば強引に部屋へと飛び込んだ元怒和が、まず最初に目にしたのは、
「さやか……」
机の上に突っ伏して寝息を立てる、さやかの姿だった。
ノックの返事が返ってこなかったのは、彼女の身に何かがあったのではなく、彼女が寝ていてその音が耳に届かなかっただけだということを、元怒和は理解した。
「な、何だよ……」
元怒和の体からは力が一気に抜け、立っていることもままならなくなり、元怒和はその場に座り込んでしまった。
そんなことは露知らず、幸せそうに寝ているさやかを見た元怒和は、
「バカじゃないのかさやか……。こんなとこで寝たら、翌朝体が痛くなる」
微かに笑みを浮かべながらそう呟き、さやかへと近づくと、彼女の体を軽々と持ち上げた。そして、世に言う『お姫様だっこ』で、さやかを柔らかそうなソファーへと寝かせる。
自分がいかに無防備かということを知らないさやかは、ソファーの上で体の向きを変えると、何事もなかったかのようにまた寝息を立て始めた。
「……ふん、無防備な奴だ」
元怒和はそれだけ吐き捨てると、隊長室の隅に設置されている棚へと向かい、中から三つの殺虫剤を取りだした。そして、
「他の男の前でそんなことしたら……間違いなく襲われるぞ」
さやかに向かって最後にふっと微笑みながら、隊長室を出ていった。
♢
オレ達はその後も寝る場所を見つけられず、夜通し起きていることになってしまった。
現在夜明けが始まったようで、東の空が薄らと明るくなってきていた。
「ったくぅ~、隊長のせいで一睡もできなかったじゃんか」
「まだ言うか、クソ高蛾! お前一睡もできなかったって言うけど、夜行性だから起きてても平気なんだろ?」
未だにオレを攻めてくる高蛾に、オレはチョップを食らわした。高蛾は頭を押さえ、おおげさに呻く。
「ああ、今ので頭蓋骨が折れちゃった~。どうセキニンとってくれんのかな? ん?」
「嘘付け! さっきから責任責任うるせぇぞ!」
いつもに増してしつこすぎるぞ、高蛾……。いい加減大人しくしたらどうだよ?
そんなオレと高蛾を、白い目で見つめる雑斗。
「俺からすれば、お前達二人ともうるさいぞ……」
「ほら、雑斗もうるさいって言ってるだろ!」
ここぞとばかりに、オレは調子にのってしまう。すると今度は、オレが雑斗に後頭部をはたかれた。というか、殴られた。
ゴッ! と固い音がして、オレの顔は前のめりになる。
「ちょ! いきなり何すんだよ!」
「お前がうるさいのが悪いんだろう」
「ちっとは手加減したらどうなんだ! 雑斗はいつもいつも――」
オレが言いかけたのを、愛花ちゃんが制止する。
「待ってください、今は喧嘩なんかしてる場合じゃないはずです。それに、ほら」
愛花ちゃんは空を指差し、オレと雑斗、加えて高蛾に向かって微笑んだ。
最初はなんだ? と愛花ちゃんの行動を疑問に思っていたオレだったが、彼女の指差す方を見ると、ふっと気持ちが晴れるのが分かった。
東の空は、日の出のおかげできれいな赤色に染まっていた。
普通赤色で太陽というと、日の入りや夕焼けを思い浮かべるかもしれない。しかし、これは確実な日の出だ。
「……きれいだね」
オレのすぐ横で、小陽がため息混じりに呟く。このため息が呆れではなく、感動から吐かれることについては、オレも分かっていた。
今までこんなこと気にしていなかったが……いつもと同じはずの日の出も、こうして人間になって見てみると、何か違う気がする。そう思っているのは、まさかのオレだけか?
いや……きっとみんなも、オレと同じなんだろうな。
オレは黙って、徐々に明るくなり青くなっていく空を見つめていた。それは、オレの心に、癒しと感動を与えてくれたぜ。
「さ~て、いいもの見させてもらったし、そろそろ再出発するか!」
数分後のオレ達は、またいつも通りのまとまりを取り戻していた。
オレの声には、「おー!」だの「はい!」だのと、個々の返事が返ってくる。
ここまで来たんだから、ゴールは近いはずだ……。待ってろよ、虫をこの世から消そうとしている、哀れな心を持つ人間達よ!
オレは前だけを見据え、仲間と共に、たいぶ近くなった町へと駆け出した。
キャラクター紹介 7
《飛岡高蛾》
身長:152㎝ 髪色:茶 目の色:黒
モースが擬人化した姿。
ジト目にピアスと、見た目は完全にチャラい系の男子。
《音瀬雑斗》
身長:170㎝ 髪色:灰 目の色:赤
フライルが擬人化した姿。
赤く切れ長の目は、威圧感がある。
《蝶野愛花》
身長:155㎝ 髪色:紫 目の色:黒
バターが擬人化した姿。
男なら誰もが振り向くであろう、スタイルも良い美少女。




