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我ら非リア充昆虫隊!  作者: 玉本綜
第一章「人間達の思い」
36/38

人間としての名前&警官との遭遇

 オレ達の名前というのは、結構ぱっぱと決まってしまった。

「じゃ、一回確認するぞ~」

 オレの声に、「は~い」だの「お~」だのと気の抜けた返事が返ってくる。オレは返事を確認し、ついさっき決めたばかりの、みんなの人間としての名前を呼んだ。

「じゃあまず……蟻井小陽ありいこはる

「はっ、はいっ!」

 蟻井小陽ありいこはる……これは、アントの名前だ。アントは蟻ってことと、体が小さいってことでつけたのだが……なんか、女みたいな名前になっちまったな。

 しかし、アントはそんなことは全く気にせず、嬉しそうに返事をしてくれた。

「次は……蝶野愛花ちょうのあいか……ちゃん」

「はい!」

 ついちゃん付けしてしまうのは、人間としての名前を呼ぶ時でも、彼女のことを意識してしまうからだろう。

 蝶野愛花ちょうのあいかちゃんとは、バターちゃんのことだ。聞くからに可愛らしい響きだし、漢字で書いたら美しくも見えるな。

 ちなみにオレ達は、漢字もバッチリ使えるんだぜ! ……まぁ、人間のようにはいかないけどな。

「次! 飛岡高蛾とびおかこうが

「へ~い」

 返事くらいちゃんとしろよな、モース!

 飛岡高蛾とびおかこうがという名前は、ちょっとキツかったかもな……名前的に。モースは蛾だからと思い必死で考えたのだが、なんとか使えそうなのはこれぐらいしか浮かばなかったという始末だ。

「じゃあ最後な! 音瀬雑斗おとせざつと

「……おう」

 これはフライルの名だ。音瀬雑斗おとせざつと……この名前をどうやって付けたかを説明するのは、オレもできるだけしたくない。

 実は雑斗という名前は、『雑音』からきているのだ。音って字は、苗字に入ってるけどな。……ほら、フライルの羽音って、正直うるせぇだろ?

 そのため、フライルは不機嫌ぎみなのである。そりゃそうか、なんたって『雑音』なんだもんな。

 オレ以外の全員の名前を呼び終え、本当の最後に自分の名を確認する。

「そしてオレが……蜂谷刺捉はちたにさとるか」

 こんな名前、珍しいと自分でも思う。いや、読み方じゃなくて、漢字がだ。

 普通『さとる』だったら、もう少し分かりやすい漢字がいっぱいあるだろう。だけどオレは、あえてこの字を選ぶことにした。

 『刺』――この字をいれたかったからだ。理由は、よく分かんないんだけどな。

 これで全員の名前が明らかになった。これからは、人間としての名で、隊員とバターちゃんの名を呼ばなくてはならない。

 なんだか、一気に悲しくなってくるな。きっとみんなも、そう思っているのだろう。

「なぁ……刺捉」

 そんなことを考えていた矢先、フライルが……いや、雑斗が話しかけてきた。

「なんだよ?」

 雑斗はふと視線を少しだけ下げてから、

「……呼んでみたかっただけだ」

 ぶっきらぼうだが、悲しさの混じった声色でそう言った。その言葉に、オレは「そうか」と返すことしかできない。

 オレ達の間には、何か気まずい空気が流れている。誰かがこれを打ち破らないと、いつまでたってもドンヨリというか、モヤモヤとした雰囲気のままだ。オレは、そんなのは嫌だった。

 誰も何も言わないんだったら……オレから話題を出そうか……。そんな考えが頭をよぎった、その時だった。

「君達!」

 いきなり後ろから声をかけられ、オレ達は一斉に足を止める。

「そこで何をしている!」

 ざっくざっくと地面を踏みしめる音が近づき、途端にオレの目にまばゆい光が差し込んできた。その明るさに、思わず目を細める。

 オレ達に声をかけたのは、二十代後半ほどの警官だった。性別は男で、体格は特別いいわけでもないが、まぁまぁ身長はある。

 制服をきっちりと着こなし、警官の模範のような人だった。

「オレ達に、何か用ですか?」

 代表して、オレが警官にそう尋ねた。

「用って……君達のような子供達が、こんな真夜中に外を出歩いているのを見かけたら、声をかけるのは当然だろう?」

 警官はにっこりと優しげな笑みを浮かべながら、オレ達にゆっくりと近づく。

「どぉ~すんだよ、刺捉ぅ。ケーサツのおっちゃんに見つかっちゃったじゃんか~」

「ば、バカッ! あまり大きな声でそういうことを言うな!」

 そういうことは、心の中で叫んでおいてくれ。今はオレ達も人間。向こうにもちゃ~んと、オレ達の声は届いてるんだからなっ!

 『おっちゃん』とか、軽々しく口にすんな!

 今の高蛾の一撃で、さらに緊張感が高まるオレ。ど、どんな言い訳をすればいいんだ……?

 冷や汗を滝のように流しながら固まっているオレの肩を、愛花ちゃんがポンと軽く叩いた。これだけのことでも何かあったのかと感じてしまい、オレの肩はびくっと上に跳ねた。

「刺捉くん、ここは私に任せてください……」

 愛花ちゃんが、オレの耳に口を寄せて耳打ちする。任せろと言われて、素直に任せていいのか迷ったオレだったが、

「わ、分かった……」

 今は頷くことで精一杯だった。

 首を縦に振ると、額に張り付いていた汗が頬へと流れ落ちるのが分かった。

「あの、警官さん」

「何だい?」

「私達……実は、帰る場所がないんです」

 バターちゃんの口から突然飛び出したその言葉に、警官は目を丸くした。

「な、なんだって……? じゃあ君達は、孤児なのかい?」

 小陽が「孤児?」と首を傾げたので、オレは「親とか親せきがいない子供のことだ」と軽く説明してやった。

 警官は驚愕の表情を浮かべているが、愛花ちゃんは全くの逆で、

「そうなんです。私達には、親もいませんし、兄妹も叔父や叔母もいません」

 淡々と言葉を紡いでいた。

 今、愛花ちゃんが言っていることは、あっているといえばそうなる。人間としてのオレ達には親なんていないし、親戚すらいるわけがないんだからな。

 しかし、それが何だってんだって話だ。別に一生人間でいるわけでもないんだから、頼れる奴らなんて、非リア充昆虫隊やバターちゃん、それにスワローちゃんで充分だ。

「そうなのか……孤児、か……」

 警官は腕を組み、顔をしかめた。

 しかし愛花ちゃんは、こんなことを言って何を企んでんだ? オレは気になって、愛花ちゃんの耳元に口を近付けた。

「そんなこと言って、どうするんだ?」

 すると愛花ちゃんはふっと微笑みながら、

「まぁ見ててくださいよ、うまくやってみせますから」

 自信ありげにそう答えた。オレ的には、愛花ちゃんがそう言うのなら、信じてみようって気になるな。……べっ、別に恋人だからとか、そんな補正がかかってるわけじゃないぜっ?

 愛花ちゃんは警官へと向き直り、うろたえている警官へきっぱりと言い放った。

「そういうわけですので、もし宜しければ、私達を警察署に泊めていただけませんか?」

「なっ――?」

 驚きを素直に顔にする警官……って、おいおい! オレだって驚くわ!

「お、おい、蝶野……」

「何ですか雑斗くん」

 一旦話し合おうという意味だろう、雑斗が愛花ちゃんへと近寄り、軽く手招きをする。

「ちょっとこっちへ来い」

 別に怪しい意味などなかったのだが、それを見た警官は、

「むっ! 男が女を呼びよせるとは……。まさかっ、誘拐か? そして挙句の果てには、家に閉じ込めておく気だなっ?」

 なんか変な妄想へと走ってしまった。

「は? いや、俺はただこいつに言いたいことがあっただけで……」

 慌てて雑斗がその誤解を解こうとするが、警官は全く聞き入れなかった。むしろ妄想を炎上させてしまった。

「言いたいことだと? まさか、警官を前にして告白する気じゃあるまいな! なんとリアルが充実しているんだ!」

 この人……完全に意味を取り違えている。第一、さっきオレ達は孤児だって聞いただろうが。もしそれが本当であったら、そんなんでリアルが充実してるわけねぇだろ!

 突っ込みたいのを我慢し、オレは雑斗に耳打ちした。

「お前のせいでややこしくなっちまった。ここは逃げるしかねぇな」

「お、俺のせいだとぉ……?」

 何か言いたげな雑斗だったが、このままボサッとしてると警官に事情聴取されそうだったので、ここはオレに従うことにしたらしい。黙って愛花ちゃんの手を掴むと、

「逃げるらしいぞ。……お前の計画は失敗に終わったようだがな」

 吐き捨てるようにそう言った。愛花ちゃんは残念そうな表情を浮かべたが、

「そうですね、ここは、刺捉くんの判断に従いましょう」

 しっかりと頷きながら、そのことを小陽と高蛾にも伝えていた。

「待ちたまえ、今から事情聴取を始める!」

 なぜか鬼のような表情を浮かべ、怒りをあらわにしている警官へと、高蛾が親指を立てた。

「じゃあねケーサツのおっちゃん!」

 お前……こういう時だけかっこつけんだからよぉ……。いい加減そういうの卒業しろよな。

 オレは呆れながらも、とりあえずその場から駆け出した。すぐに追ってくるだろうと思っていたが、警官はその場でギリギリと歯ぎしりをしながら、オレ達を見送るだけだった。

キャラクター紹介 6


蜂谷刺捉(はちたにさとる)

身長:156㎝  髪色:金  目の色:黒

ビィが擬人化した姿。

薬が悪かったらしく、腕が四本ある。


蟻井小陽(ありいこはる)

身長:140㎝  髪色:黒  目の色:黒

アントが擬人化した姿。

身長も低く、女のような可愛い顔をしている。

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