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我ら非リア充昆虫隊!  作者: 玉本綜
第一章「人間達の思い」
35/38

虫撲滅隊 & 名前を変える

                 ♢



 ビィ達一行が擬人化を果たし、市街へと急いでいたまさにその時。

 ここ、ピースフル市にある一番大きな建物の中で、びくっと何かに反応した人物がいた。

 その人物は、建物の中でも一番大きな部屋にいた。その部屋は豪勢な造りになっており、一見しただけでは市長室と間違えられてもおかしくないだろう。

 しかし、実際は違った。

 この建物は、ピースフル市の市役所。まだ建てられたばかりで新しく、外も内も傷一つついていない。

 階は五階まであり、周辺の市や町の役所よりも一回り大きなものだった。

 そして、その人物がいる部屋のドアには、『虫撲滅隊隊長室』と書かれた木製のプレートが下げられていた。

 『虫撲滅隊』――それはその名の通り、この世に存在する虫を撲滅するために作られた部隊である。

 その隊長室に、一人の人間がノックをして入ろうとしていた。

「失礼する、隊長」

 そう声をかけたのは、まだ幼そうな男の子だった。年の頃にして、十歳ほどだろう。

「あー、入っていいよ」

 男の子に帰ってきた声は、やる気のなさそうな声だった。

 男の子はガチャリとドアを押しあけ、部屋に入る。そして迷わず、隊長と思われる人物が座るイス、そしてその前に置かれた机へと近づいていった。

「隊長、活動はもう始めてるらしい。とりあえず近場に殺虫剤撒いてるって報告があったな」

 男の子に『隊長』と呼ばれて振り向いたのは、中学生ほどの女の子だった。

 髪が短く鋭い目つきをしているため、男に間違われてもおかしくはない顔つき。そしてその顔は、不機嫌一色に染まっていた。

「ふーん、そうなんだ。連絡ありがとね、元怒和もとぬわ

「別にこんぐらいお安い御用だ」

 名を元怒和もとぬわというその男の子は、かなり大人びている雰囲気だった。背はさほどないが、声が低く、活発そうな喋り方をあまりしない。

 目は三白眼で、生まれつきなため仕方ないのだが、目つきが悪く見える。

「そういえば隊長……なんか不機嫌じゃないか? どうしたんだ」

 隊長の異変に気付いたのか、元怒和がそう声をかける。

 尋ねられた隊長は、「うん……」と力なく頷いた。

「実は、なんかいや~な予感がしてね……。この建物の中に、虫がいるのかなぁ?」

「さやからしい予感だな」

「だから! 『さやか』って呼ぶなって言ってんでしょ!」

 隊長は、名と『さやか』いう。しかし彼女は、名前を呼ばれるのを嫌がっていた。

 怒鳴られた元怒和は一瞬だけ動揺したが、すぐに落ち着きを取り戻し、

「あぁ……悪かったな、隊長」

 額に手を当てめんどくさそうに頭を振りながら、謝罪した。さやかは「それでよし」と偉そうに頷く。

「で? 虫がいる気がするって?」

「そうなの……。ああああああっ! キモイキモイ! 考えたくもないよ、もおおおおおお!」

「あまり怒るな。そんな風に怒ってると、牛になるぞ」

 急に大声をあげ始めたさやかに対しても、元怒和は冷静だった。

「だーっもーっ! なんで元怒和は苗字に『怒』って字がはいってんのに、いつも冷静なのーっ?」

「オレも知らねぇよそんなこと!」

 少しだけ冷静さを欠いた元怒和が、さやかに指を突きつけながら声を荒げる。

「第一、名前とか見た目で人を半断するなっ! その人に失礼だろう!」

「だってあんた目つきも悪いし」

「だから見た目で判断するなと――!」

 しばらく二人の言い合いは続くのだが、それを止める人はいなかった。


「……で? 要するに建物内に虫がいそうだから、殺虫剤を撒いとけということだな?」

 やっとのことで言い合いも治まり、元怒和が最後を締めくくるように言った。さやかはうんうんと何度も頷き、

「そうそう、そういうことよ!」

 人差し指を立てながらそう言った。

「虫なんてねぇ、この世に必要ない生物なの! だから一刻も早く、そんな奴らを消さなきゃね!」

「まったく……隊長の虫嫌いには、オレも呆れるな」

「なっ……なんであたしが呆れられなきゃなんないのっ?」

 元怒和の何気ない一言に怒りをおぼえたさやかが、目の前の机をドンと殴りつける。その威力は結構強く、自分でやったのにも関わらず、さやかは「いって~」と拳をさすっていた。

 そんなさやかにさらに呆れたのか、元怒和は額に手を当てながら、やれややれとでも言うように首を何度も横に振る。

「あぁもう隊長は……。しっかりしてくれよ」

 そして何事もなかったかのように、部屋を出ようと踵を返した。

「ちょ、ちょっと! だからなんであたしが、あんたに呆れらんなきゃいけないのって聞いたんだけど!」

「呆れられるようなことをしたり言ったりするからだろ」

「ガキの分際で何言ってんの? あんたあたしに逆らう気?」

「隊長もまだ中二じゃねぇか。偉そうなこと言えない年なんじゃないのか?」

 何を言っても言い返されてしまうさやかは、「ぐぐぐ」と唸りながら奥歯を噛みしめていた。

 一方で余裕の元怒和は、

「まぁ……オレはいつでもさやかの見方だけどな」

 最後に無表情のままそう言い残し、ドアを開けると外へ出て行ってしまった。さやかはその背中を睨みつけながら、

「去り際だからってかっこつけんじゃねーよ! 元怒和春人(はると)副隊長―――――――――っ!」

 楽しそうに叫んだのだった。



                 ♢



「そういえば、ビィくん」

 闇の中を走りながら、バターちゃんがオレに顔を向けた。

「なんだ?」

「人間って、名前には苗字というものがあるらしいんですが……私達、そんなのないですよね?」

 苗字、か。確かにオレには『ビィ』という名前はあるが、その前につく苗字はない。

「それに、今までの名前のまま人間達と話し合おうなんて、無理だと思いますよ」

「どうしてだ?」

「私達の名前が、人間らしい名前ではないからです」

 ……なるほどな、確かにバターちゃんの言う通りだ。

 虫を殺そうとしている組織や、それが難しいなら、この際そうでない人間でもいいから話そうとしても……まずは自己紹介が必要だしな。

 そんな場面で、「オレの名前はビィです」なんて、おふざけでも言うことはできない。

 オレはしばし考え、一つの提案をした。

「だったら、今から新しい名前を考えないか?」

「「「名前を考えるぅ?」」」

 オレを除くその場の全員が、一斉に声を揃える。……なんか、オレがKY(くうきよめない)みたいじゃねぇか。

「急になぁに言い出してんのかなぁ? ビィ~クン?」

 あぁもう、うざってぇなモースは! 今から説明してやるから、顔を近付けるのはやめてくれ。

 下方へと顔を向けると、やや遅れながらも、アントが不思議そうな顔をして走っていた。続いて情報へ向けると、フライルも眉間にしわを寄せて難しい顔をしている。

 やっぱりみんな分かんねぇよな……。

 自分一人だけが分かっているという何か嬉しい感情を抱きながら、オレは自慢話をするように説明を始めた。

「バターちゃんが今言ってくれたように、人間の名前のつくりとオレ達昆虫の名前のつくりは違うわけだ。だから今から、人間にも堂々と名乗れるような、人間としての名前を考えるんだよ!」

 オレがそこまで言うと、みんなやっと分かってくれたようだった。

「つまり、苗字と名前を、人間風につくるんですね!」

 これを新鮮なことだと感じたのか、楽しそうな笑顔を浮かべるバターちゃん。そうそう、オレが言いたいことは、簡単に言えばそういうことだ!

「人間としての名前か……面白そうだな」

 ニヤリと不気味な笑みを浮かべるフライルは、オレより少し先を走っている。

 名前騒動で、オレ達のテンションは、夜中だというのにガンガン上がっていった。

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