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我ら非リア充昆虫隊!  作者: 玉本綜
第一章「人間達の思い」
32/38

オレ達にできること

 その夜。

 オレはなかなか寝付けずに、ぼーっと星空を眺めていた。別に星の観察がしたいわけでも、今日はオレ達と寝たいと言ってここで寝ているバターちゃんの寝顔を見たいわけでもない。後者はちょっと興味アリだけどな。

 ……いやっ、下心なんてないぜ? 本当に、全く。

 この時間になると、道路を行き交う車も少なくなり、家や店の明かりもじょじょに減ってくる。

 とは言っても、ここは現代社会だ。一日中明かりがついてる店――主にコンビニらしいな――や、日付が変わってもスピードを出して走っている車もいる。

 人間達は、忙しいみたいだ。オレらなんかよりも、ずっとな。

「はぁ……」

 誰に聞こえるわけでもないが、深いため息を一つついてみる。

 なんか……すっきりしねぇなぁ。心の中が、変にモヤモヤするっていうかさ。

 嫌な予感がする、とでも言おうか。

 はっきりとではないが、今まで生きてきた中でも味わったことのない、緊張や不安というマイナスな感情の塊のようなものが、心の中で渦巻いていた。

 だけど、今オレの話を真剣に聞いてくれて、かつ信じてくれる奴なんていない。

 オレ自身も、誰かに話したいってわけじゃないし、折り合いをつけてひとまず寝るか……。

 地面に寝っ転がり、星の数でも数えながら眠りに着こうかと思った、その時だった。

「……おい、こっちだ」

「……!」

 微かに聞こえた人間の声とその意味に、オレは素早く反応して身を起こした。

 また狙われてるってのかよ……! しかもこんな夜中に……!

 それに、オレはこうして起きてるからいいとして、他の奴らはどうすんだよ! オレの頭は、完全にパニック状態だった。

 そうこうしている内にも、人間はオレ達に近づいてくる。

「本当だ、そこにいるな」「昼間の奴らじゃないのか?」

 声からして、相手は三人のようだ。すなわち、種類は分からないが、オレ達を殺すための武器も三つ――。

「くっそぉ……!」

 人間に昆虫の声は聞こえないが、自然と声を潜めてしまう。オレは足音のする方を睨みつけた。しかし、その足音の大きさは大きくなるばかりで、やむことはない。

 どうする……どうする、オレ!

 もうここで死ぬしかないのか……。オレが頭を抱えた、その時だった。

「噛みつきアタッーク!」

 可愛い声と共に、何者かがオレのすぐ横を通り抜けた。こ、この声と技名は……まさか!

「アント!」

 オレがその名を叫んだ瞬間、

「痛ぇ!」

 人間の野太い悲鳴が、オレの声に重なった。

 そうだ……きっとアントが、人間の脚に噛みついたんだ。今の季節、人間は短いズボンをはくからな。続いて、

「ヒュウ! いいぞー、ショタ男く~ん!」

 冷やかしてるのか褒めているのか分からない、モースの声。

「も、モース! 今のアントの攻撃……もしかしてお前が指示したのか?」

「そっ。だってオレっち夜行性だし。今までずっと起きてたしぃ~」

 でかしたぜモース! お前は最高だ! ……今はな。

 確認するように周りを見ると、フライルとバターちゃんも起きていた。

「また来たようだな、しつこい奴らだ」

 腕を組みながら不機嫌に言葉を吐き捨てるフライル。

「蟻さん……いえ、アントさんは大丈夫でしょうか……?」

 呼び方を変え、アントを心配するバターちゃん。

 そうだ……アントは大丈夫なのか? 上手く攻撃できたのはいいものの、人間が乱暴に動いて振り落とされたりしてないだろうか。

「アントーっ、平気かーっ?」

 心配になり声をかけてみるが、返事はオレの足元から返ってきた。

「ただいま。ボクはけが一つもしてないよ」

「な、なら良かった……」

 安心して、つい気が抜ける。しかし、油断は禁物だ。

 アントが攻撃したのは三人の内の一人で、後の二人はピンピンしてるはずだ。それに、蟻に噛まれたぐらいじゃあ、大してケガもしないだろうしな……。

「おい、何があった?」

「何かに噛まれた……いててて……」

 人間が仲間のことを心配している内に、オレ達はその場から逃げることにした。

 アントはフライルが背に乗せ、オレを含めた他の三匹は自らの羽で飛ぶ。周りが静かなだけに、フライルとオレの羽音はうるさいくらいに響いていた。


「なぁ、フライル……」

「なんだ」

「オレ達、このまま逃げてるだけでいいのか……?」

 密かに考えていたことを、オレはフライルに告げた。さっきからモヤモヤしているというのは、これのことかもしれないな。

 フライルは眉をしかめ、怪訝そうな表情を浮かべる。

「逃げるしか方法はないだろう。俺達は昆虫なんだ。人間を説得できるとでも思っているのか」

「……それが納得いかねぇんだよ」

 オレが呟くと、

「番長の言ってることは、正しいと思うんだけどなぁ~」

 モースが間に入ってきた。しかし、今はコイツに構っている場合じゃない。

 オレはモースの言葉を丸っきり無視して、フライルに理由を述べてやった。

「だって、いくらオレ達が昆虫だからって……このまま何もしないで逃げてるだけじゃ、何も変りゃあしないんだぜ? 確かにオレ達の言葉は、人間には通じない。近寄ったって、殺虫剤ぶっかけられるだけで、存在を受け入れてすらもらえないかもしれない。……だけど、」

 オレはここで、一旦言葉を区切った。

 息を吸い直し、自分の気持ちがちゃんと伝わるように、心の底から叫んだ。


「だけど! 何か方法はあるはずだろ! 人間の計画を阻止する、方法がよぉ!」


 その一声で、オレは注目の的になってしまった。そこにいる全員が、オレのことを凝視している。

 やっべ……変に気合入れすぎちまった。

 失いかけていた冷静さを取り戻したオレだったが、すぐにそれは興奮へと変ってしまうことになる。

「ありますよ」

 バターちゃんの、そんな一言でな。

「な、何だって?」

 驚いたオレは、すぐに聞き返す。バターちゃんはいたって普通の口調で、スラスラと解説を述べていった。

「確か、スワローちゃんが虫を擬人化できる薬を持ってました」

「す、『スワロー』ちゃん……?」

 聞いたことない名前だな……一体誰だ?

 オレはそうとう『悩んでます』みたいな顔をしていたのだろう。バターちゃんは「ごめんなさいっ」と謝りながら、慌ててその『スワロー』ちゃんについて説明してくれた。

「スワローちゃんというのは私の友達で、シジミチョウの女の子です。本名は、コービッキュ・バタライル・スワローちゃんというのですが、長すぎるので……」

 こ、こーび……なんだ? まぁいいか、スワローね。

「それで……虫を擬人化できる薬ってのは、何なんだ?」

「その名の通りの意味です。虫を、人間の姿に変えることができる薬ですよ。ちなみに、その逆も持ってるみたいなので、虫の姿に戻ることも可能ですよ」

 なんかすげぇ薬だな……。人魚姫みたいじゃねぇか。

 でも、その薬と人間の計画を止めるのと、なんの関係があるんだ?

「それで、その薬をどうしろっていうんだ?」

「はい。その薬を……私達が飲むんです」

「飲むの?」

 びっくりして聞き返してしまった。の、飲むって……じゃあオレ達が人間になっちまうじゃねぇか!

 しかしバターちゃんは微笑みながら、指を一本立ててから説明を加える。

「私達がその薬を飲めば、人間になることができます。そうすることによって、人間と会話をしたりすることができます。行動ももっと楽になります。そうすれば、人間の計画を阻止することも……可能ではないでしょうか?」

「な、なるほど……」

 それは一理あるな。人間と会話ができるってことは、計画の必要性とかも話し合えるってわけだし、最悪の場合手も足も出せるってことだよな……。

 オレはこのバターちゃんの考えに、賛成することにした。

「オレはそれでいいと思うぜ。みんなはどう思うよ?」

 真っ先に手を挙げたのは、バターちゃん。

「私はこの作戦の提案者なので、もちろんこれでいいと思っています!」

 続いてフライル。

「俺も賛成だ。他に方法がないなら、人間になるのも仕方ないだろう」

 続いてモース。

「オレっちもそれでいいよぉ~。チョ~いい感じじゃねぇ? この作戦」

 最後に、怖々とだったがアントも手を挙げた。

「みんながやるのなら、もちろんボクもやるよ!」

「よし、決まりだな」

 全員一致の意見で、この作戦は実行されることになった。

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