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我ら非リア充昆虫隊!  作者: 玉本綜
第一章「人間達の思い」
31/38

バターちゃんの怒り&復活

文字数増やしてみました。

その点に関してご意見がありましたら、お知らせください。

                 *



 公園に戻ってきたオレ達だったが、そこにあの二匹の姿はなかった。

 バターちゃん……まだ怒ってるのか……? もうオレと顔合わせたくないとか……。彼女がそんなことを思っていそうで、胸がチクリと痛む。

 フライルも辺りを見回していたが、やがて視線をアントに落とした。

「あいつらとは別行動になっちまったし、アントはこんな調子だし……俺達、大丈夫なのか?」

「急に何言い出すんだよ」

 珍しく、フライルが肩を落としているのが分かる。

 オレは乾いた笑みを浮かべながら、強がるようにフライルを慰めた。

「心配すんなって、ここに頼もしい隊長様がいるじゃねぇか」

「お前が隊長だから不安なんだ」

 ちょ……! だったらなんでオレに隊長を押し付けたんだよ?

「だったらあの時反論してくれれば良かっただろ!」

「……アントを困らせた罰として、いい方法だったからな。つい賛成しちまっただけだ」

「なら今すぐフライルが隊長をやれえええええええ!」

 憤慨しているオレをよそに、フライルはふと上空を見上げている。その目は、何かを言いたそうだった。

 だけどオレは……会えて何も聞かなかった。というか、こんな怒ってる状態で聞けるわけねぇけどな。


 それからしばらく、オレ達はバターちゃんとモースを待っていた。しかし、数十分待ってところで、二匹は現れなかった。

「まったく……何してんだよ、モースは!」

 だんだん苛立たしくなってきたオレは、腕を組んで片方の足でじだんだを踏んだ。その途中、何度もフライルに「うるさいぞ」と注意されたが、やめる気にはなれなかった。

 むしろ注意されたことによって、余計にイライラしてくる。

「あぁもう! 真っ昼間からオレの彼女奪ってんのか? あのチャラ男は!」

「まだ彼女は、お前の彼女ではないだろう」

「……いいんだよ細かいことは!」

 バターちゃんは、もうオレの彼女みたいなもんだ! いや……そこまでいかなくても、ガールフレンドってとこだな!

「そんなことで、いちいちイライラするな。見ているこっちが腹立たしくなる」

「フライル、それは嫉妬だな……」

 お前には彼女もガールフレンドも好きな娘もいないから、リア充っ気が出てきているオレに、嫉妬してるんだろ? あ~あ可哀そうに、人間からも昆虫からも好かれないなんてなぁ……。

 オレが肩をすくめて呆れていると、上空に、こっちに向かってくる何かが見えた。フライルも気付いたようで、オレを殴ろうと振り上げていた手を下げる。……助かった。

 よ~く目を凝らしてみると、それがバターちゃんとフライルであることが分かった。

「おぉ~い。ビィ~、ばんちょお~」

 モースの気の抜けた声が、だんだんと近づいてくる。

 やがて二匹はオレ達のとまっているシーソーまでやって来て、そこにとまった。

「ビィくん……」

 オレをチラッと見たバターちゃんは、すぐにオレから顔を逸らしたが、

「その……さっきは……ごめんなさい……」

 消え入るような震える声で、呟くように謝った。

 やれやれ、女の子から謝ってもらうとは、オレもダメな男だな。そう思い、オレもすぐに謝り返す。

「いや、オレの方こそゴメン。……怖いもんは怖いよな」

 するとバターちゃんは、涙の溜まった目をオレに向け、

「いいえ……私が悪かったんですから、謝らないでください」

 ニコリと微笑みながら、そう言った。

 そんなオレ達のやり取りを黙って見ていたモースが、祝福するように手を叩き始めた。

「いやぁ~、やっぱり本物のカップルはいいねぇ~」

 なっ……か、カップルって……バカ何言ってんだお前! 確かに彼女かもしれないけど、そんなはっきり口にされたら、恥ずかしいだろうが!

 そっと窺うように横に目をやると、バターちゃんも口に手を当てて顔を真っ赤にしていた。……やっぱ恥ずかしいよな。

「モース……オレ達は、まだカップルなんかじゃねぇよ」

「え~、ホントにぃ? オレっちには、ラブラブカップル……略して『ラブカ』に見えるけど?」

 なんじゃそりゃ……な~にがラブカだよ。ネーミングセンスねぇな。

 オレが呆れていると、バターちゃんが一歩モースの前に歩み寄り、彼の目をじっと見据え出した。その瞳には、何か強い意志が見える。

「ん? どうしたのアゲハちゃん」

「私達……カップルに見えますか」

 超真顔で、しかも感情のこもっていない声色で、バターちゃんはそう質問した。って、おいおい!

「カップルに見えますかって、そんな見えるわけな――」

「見えるとしたら、それはお似合いってことですか?」

 必死でバターちゃんの言葉を遮ろうと試みたが、オレの力では止めることはできなかった。

 真面目な表情のバターちゃんとはうらはらに、モースは面白そうに口角をニヤリとつり上げる。オレはその笑みに、思わずぞくっとしちまったぜ。なんか、意地悪いこと言ってきそうでよ……。

 しかしモースが口にした言葉は、そんなオレの不安を裏切るものだった。

「いや、見えん」

「え……」「は?」

 バターちゃんとオレの声が重なる。

「さーせん! 今の、本気にしちゃった系? ……もっちろんウソぴょ~ん!」

「な、何なんですか! じゃあ私とビィくんは、不似合いってことですか?」

「そんなことは言ってないけど? 一言も、ねっ」

 なんだよ……ジョークかよ。オレの内心は、ほっとしたような残念なような、よく分からない微妙な気持ちになった。

 しかしバターちゃんは、なぜか怒りにブルブルと肩を震わせている。

「そ、そうですか……お似合いじゃないですか……」

 その瞳に、今度は怒りの炎が映る。……完全に目が燃えている、正直怖ぇ。

 そ、それに……バターちゃんは、何にこんなにも怒ってるんだ? モースがバターちゃんのなんの地雷を踏んだのか、オレには理解できなかった。

 ……こんなんだから、『鈍い』って言われちまうんだよな、きっと。

 オレはあえて何も言わずに、黙ってバターちゃんの次の言葉を待つことにした。待つことにした……のだが……。

 その数秒後、その判断を後悔することになる。

 しばらく黙って俯いたまま、怒りを溜めていたと思われるバターちゃんは――、

「あはは……笑っちゃいますよね……冗談なんて……」

 声までビブラートをかけたように震わせた後、

「私……騙されちゃいましたよ……」

 くっと下げていた顔を上げ、怖い笑みを浮かべるその顔を、モースへと真っ直ぐに向けた。

 そして、一瞬の静けさの後、


「私とビィくんが不似合いって、どういうことですか―――――――――――――っ!」


 今まで聞いたこともない大声で、思いっきり怒鳴ったのだった。 


 その後。

 感情が怒り一色に染まってしまったバターちゃんはフライルに任せ、今度はオレがモースを怒鳴りつけていた。

「だから、あんまり冗談を言ったらダメだって、前にも言っただろ!」

「いやぁ、あんなに怒るとは思ってなかったからさぁ~」

「ジョークが嫌いな虫もいんだよ! ちゃんと他の虫のことも考えろよなっ、この自己中!」

 少々言い方がキツイかもしれないが、モースにはこれくらい言っておかないと、同じ失敗を何度でも繰り返すからな。むしろ厳しいくらいが丁度いいのだ。

 モースは口先をとんがらせ、明らかに不満そうな表情を浮かべている。

「なんだよぉ~、全部オレっちが悪いっていうのかよぉ~」

「お前以外に、誰がバターちゃんを怒らせたんだ?」

 確実にお前しかいねぇだろ! こんな時ぐらい、素直に反省したらどうだ?

 しかしモースに反省の色はあまり見えず、やがて彼は面白そうに表情を歪め始めた。

「どうしたんだよ、その笑い……気持ち悪ぃぜ?」

 オレが辛辣な台詞を口にしたにも関わらず、モースのニヤケは納まらない。オレが怪訝に思う中、モースはニヤけたまま、かなりスローペースに言葉を紡ぎ始めた。

「でもさぁ~、ビィと不似合いなのがイヤっていうのはさぁ~、裏を返せば『お似合い』がいいってことだよねぇ~」

「なっ……!」

「それってぇ~、やっぱビィのことが好きだからじゃないのぉ~?」

 バカ何言ってんだ、そんなわけないだろ! ……まぁ本心は、そうであると思いたいんだけど。

「まっ、これはオレっちなりの考えだから、合ってるとは限らないよっ」

 合っててほしい……けどな。

 オレが静かに心の中で願う中、背後からは騒がしい声がBGMのように聞こえていた。

「だから! 私はビィくんと不似合いなんですかっ? そういうことですよね?」

「落ち着け! モースも言ってただろ、そんなことは言ってないって」

 残念だが、バターちゃんの本当の気持ちに、オレが気付いてやれることはないと思う。もちろん、その逆も無理だろうな。

 他の虫の考えや思いなんて、そう簡単に分かるもんじゃねぇんだよ。

 そういえば……忘れていたわけではないが、アントの容態は変化なしなのだろうか?

「おい、フライル。アントの様子は……」

「……アントなら起きたぞ」

 はぁっ? 一体いつの間に復活したんだよ、オレ聞いてねぇぞ! 慌てて首を左右に振ると、バターちゃんを必死に慰めているアントの姿があった。

「あ……アント!」

「あっ、ビィくん、おはよう」

 おはようじゃねぇ! なに普通に朝の挨拶してんだ! もうとっくに昼過ぎてんだぞ?

「回復したなら、なんで声かけてくれねぇんだよ!」

「かけたよ。だけど、ビィくんがモースくんと喋るのに夢中で、気付かなかっただけだよ」

 アントの言葉に、フライルも頷く。

「俺も言ったが、お前のモースへの怒鳴り声にかき消されてしまったからな」

「なっ……ぐっ……」

 何やってんだよオレ! 自分への怒りと呆れで、まともに声を出すことすらできない。

 歯ぎしりするオレの横に、アントは小さい歩幅でやって来た。そして、背中にポンと手を置くと、

「ちゃんとボクのことも心配してね……?」

 にこりと微笑みながら、そう言ったのだった。

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