保護 & 私とモースくん 2
やがてオレとフライルは、事件発生の現場に辿り着いた。
「アント、アント!」
オレは咄嗟に、ぐったりと地面に横たわっているアントに近づく。そして、肩の辺りを掴み、がくがくと何度も揺さぶってみた。
「しっかりしろ、アント!」
大声で名前を呼ぶが、返事はおろかピクリとも動かない。
オレは怒りと悔しさに押しつぶされ、思いっきり地面を殴りつけた。何度も、何度も、血が出るんじゃないかと思うぐらい。
まだ諦めたらダメだとは思ったが……もう言葉が出ねぇよ!
「っ……く……ち、ちくしょう……」
自然と口から、呻き声が漏れる。目からは細い涙が溢れ出ていた。
「なんっ……で……アント、がっ……」
他の奴だったら良かったってわけじゃない。赤の他人だったら良かったってわけじゃない。
ただただ、なんでアントがこんな目に合わなくちゃいけないんだって、そう思った。
笑っていたアントを返せ! オレを慕ってくれてたアントを返せ! 仲間を大切に思って、いつも優しかったアントを返せよ!
人間は勝手だ。こんなことやがって、でも、きっとこれだけじゃ済まなくて……他の虫も、次々に殺されていくのだろう。
人間は、虫の気持ちなんて分からないんだ。もちろんオレ達昆虫だって、人間の気持ちは分からない。
でも! オレ達は人間が危害を加えてこない限り、攻撃したりはしねぇだろ!
「……ビィ」
「何だようっせぇな!」
オレのことを心配して声をかけてくれたフライルにさえも怒りを感じる。
「その態度はないだろう。まぁ……今は仕方ないがな」
「今は……ほっといてくれよ……」
「そういうわけにもいかない。一旦ここから逃げるぞ」
に、逃げるってなんだよ……。オレがそう聞こうとした瞬間、
「蜂だ!」
「ハエもいるぞ!」
人間の声が、やや遠くからだが聞こえた。またオレ達を狙っているのか。
「……アントはどうすんだよ」
「担いで一緒に逃げるしかないだろう。お前に無理なら、俺が持つ」
そう言うとフライルは、決して小さな種類ではないアントを、四本の腕でしっかりと抱えた。オレが持とうかと一瞬考えたが、多分無理なのでここはフライルに任せる。
人間二人の足音が迫る中、オレとフライルは素早く上空へと飛び立つ。その後で人間が駆けつけ、
「おい、いなくなったぞ!」
「ちくしょう逃がしたか!」
悔しそうに悪態をついていた。
「とりあえず、あの公園に戻るぞ」
フライルの言葉に、オレは「ああ」と頷いた。
ここから公園まではそう遠くない。急げばすぐに着くだろう。
アントは保護したからこれ以上の危害はないが……バターちゃんとモースは大丈夫だろうか? 二匹だけで勝手に行動して、まんまと人間に殺されたりしてないだろうなぁ……。
新たな不安を抱えながら、それでも前を向いて、オレは公園へと飛んだ。
♢
「とりあえずさ、あの公園に戻った方がいいんじゃねぇ?」
「……です、よね」
モースくんにそう言われ、私は控えめに頷いた。
本当のことを言えば、戻るのはちょっと気まずい。ビィくんに顔を合わせるの、緊張しちゃうし……。
私がふっきれずにいると、モースくんは「う~ん」と唸ってから、いきなり話題を変えてきてた。
「そうだ! アゲハちゃんはビィのことが好きで、アツ~イラブレターを書いたんだよね」
アツくはないけど……大体理由は合ってるので、素直に頷く。
「じゃあさ、なんであんな地味~な奴を好きになったのか、教えてよ」
「び、ビィくんは地味じゃありませんっ!」
モースくんの一言にカチンときて、思わず大声をあげてしまった。モースくんは私を見つめながらしばらく黙っていたけど、やがて何度も首を縦に振りながら何かに納得していた。
「なるほどねぇ……」
「何がですか。それと、ビィくんを好きになった理由は、誰にも話しませんよ」
「んん? いや、何でもぉ……」
怪しげな笑みを浮かべるモースくんを、私は自然と睨んでいた。それに伴い、口調もきつくなる。
「言いたいことがあるのなら、言ってくださいよ」
「別にぃ~?」
「もう! 何なんですかモースくんは!」
私がやや小さめな声で怒鳴ると、モースくんは何が面白いのかくくっと笑いを噛み殺したような声を出す。
「キミ、なかなか面白いね。ビィのカノジョはやめて、オレっちのカノジョにならない?」
と、突然何を言い出すのかと思えば……ふざけるのもいい加減にして!
「嫌です!」
あっさり私にふられたモースくんは、特別落ち込んでもいないようで、
「ま、だろうと思ったけどねぇ~……」
実にかる~く受け流していたのだった。やっぱりさっきの、冗談だったんでしょ?




