私とモースくん & "カノジョ"
♢
「うっ……うぅっ……」
何処へ行くというあてもなく、私は泣きながら飛んでいた。
なんで私、あそこであんなこと言っちゃったんだろう。なんで、「私も行きます」って、勇気を出して言えなかったんだろう。
これじゃあ本当に、自分が良ければそれでいいって思ってる虫みたいじゃない。
バカバカバカ、自分のバカ!
必死に自分のことを自分で責めるも、全くすっきりしない。……そんなの当たり前か。
「ひっ、く……」
やがて私は、見たこともない景色が目の前に広がっていることに気付いた。すなわち、私が一度も来たことがない場所。
「ここは……?」
目に溜まった涙を拭いながら問うてみるも、それに答えてくれる虫なんていない。
どうしよう、私……迷子になっちゃったの? 心細くなって、辺りをキョロキョロとせわしなく見回してみる。しかし、知っている虫も風景も見当たらない。
――怖い。
私の頭の中に、その二文字が浮かび上がる。自然と体が震えだし、目に映るもの全てに恐怖心を抱いてしまう。そんな時だった。
「よっ」
「ひいっ?」
ポンと軽く肩を叩かれ、思わず甲高い声が出てしまった。……た、タイミングが悪すぎです!
恐々と後ろを振り返ると、さっき知り合ったビィくんの友人、モースくんが、私の肩に手を置いたまま特徴のある笑みを浮かべていた。……なんかちょっと怖い。
「も、モースくんじゃないですか。何しにここへ……」
「ん? いや~、フライルに頼まれちゃってさ。アゲハちゃん探して、なぐさめておけって」
アゲハちゃんって……私には『バタフライトル』もしくは『バター』っていう名前があるんだけど……。まぁいいか、モースくんはこういう虫なのだろう。
「は、はぁ……頼まれたんですか」
私が小さく呟くと、モースくんは私の肩に乗せていた手を離し、
「そっ。まぁ~ったく虫遣いが荒いよねぇ~。オレっち困っちゃうよぉ~」
全く困ってなさそうにそう言った。
「モースくんは、私を探してなぐさめるのは……めんどくさいですか? だから、困ってるんですか?」
「別にそんなんじゃないけどさっ」
実に分かりにくい虫だ。だけど、彼と話していると、不思議と元気が出てくる気がする。
私はそんなモースくんの方をきちんと向いて、まずはお礼を言うことにした。
「モースくん、探しに来てくれて……ありが、」
「おっと、そこから先は言わなくていいぜ」
……? せっかくお礼を言おうと思ったのに、言わなくていいって……。何でだろう?
疑問に思っていると、モースくんが指を一本立てながら、自慢げにだが語り始めてくれた。
「何を隠そう、オレっちはこんな性格なんで、あんまし感謝されないんだよねぇ~。だから、お礼を言われ慣れてないっていうかさ……」
か、感謝されないって……。まだ会ったばかりだからよく分からないんだけど、他の虫に無関心ってことなのかなぁ?
とはいえ……こうして来てくれたんだから、「そうですか。じゃあ何も言いません」で終わらせるのは失礼だと思う。
「でも……せっかく来てくれたんですから、お礼くらい言わせてください!」
「うひょう、めっずらし~ね。……キミ、『変りモン』だってよく言われない?」
こ、今度は『キミ』ですか……。モースくんは、私を何だと思っているの?
まぁ、そんなこと気にしててもどうにもならないので……私は首を横に振りながら、
「いえ、言われませんけど」
少し口調を冷たくしながら答えた。その口調の変化に気付いたのか、モースくんが私の顔を覗き込みながら、若干面白そうに聞いてくる。
「あれ? もしかして、怒らせちゃった?」
その問いに私は――自分でこんなこと言うのはおかしいかもしれないけれど――ガラでもなくツンとそっぽを向きながら答えた。
「別に、怒ってなんかないですけど」
♢
「……なぁ、ビィ」
「ん? どうした、フライル」
上空に飛び立ち現場を目指すオレに、並走するように飛んでいるフライルが話しかけてきた。
「お前、彼女のこと、どう思っているんだ?」
「カノジョ? ……あぁ、バターちゃんのことか」
なんで急にそんなこと聞くんだ、フライルらしくない。
オレはそう思ったが、今の気持ちを素直にフライルに伝えてやった。
「完全にオレのタイプの娘で、正直に言うと……好きだな」
オレが言い終えるか終えないかの瞬間、フライルに頭をはたかれた。結構強烈で、バシッと音が鳴る。
「いってぇ! いきなり何すんだよ!」
「お前が馬鹿なことを言うからだろう」
……お、オレがいつバカなことを言ったんだっ?
「そんなこと言ってないぜ?」
オレはそう言ってみるが、フライルはそれを聞くとフッと嫌味ったらしく笑い、
「気付いてないのか。やっぱりお前は鈍感だな」
頭にくる一言を投げつけてきやがった。
お、オレが鈍感だとぉ……? 言ってくれんじゃねぇか、フライルめ……。
一瞬本気でブン殴ってやろうと思ったが、オレが手を振り上げた瞬間に感づかれて返り討ちにあうので、とりあえずぐっとこらえておくことにした。




