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我ら非リア充昆虫隊!  作者: 玉本綜
第一章「人間達の思い」
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死の匂い

「アント」

 近づいていったオレがそっと声をかけると、アントはオレをゆっくりと見上げた。

「こんなとこで、一匹で何やってんだよ」

「……たまには、一匹もいいかなぁって……」

 アントは頭を掻きながらそう言うが、そんなの嘘に決まってる。

 なぜって、アントは『みんなと一緒』が好きだからだ。いつも誰かと一緒にいるのが好きで、そうすることによって安心感を得て――。それがアントだからだ。

 前に、アントが一匹で散歩に行ったって聞いて、オレは驚いてただろ?

 あの時も言ったかもしれないが、それほどアントが孤独を好むという行為が珍しいということだ。

「嘘つくなよ」

 だからオレはそう言って、かる~くアントの頭をはたいてやった。アントが「いたっ」と声をあげる。

「うぅ……いきなり何するの?」

 目に涙を少しだけ浮かべながら、アントはオレを上目遣いに見つめてくる。オレはその可愛らしい視線にドキドキしてしまい、アントの目を見返してやることができなかった。

 それでも、伝えたいことはちゃんと伝える。

「アントお前……いつもみんなと一緒にいたがってるだろ? そんな奴が、急に『一匹もいいかな』なんて……おかしいじゃんかよ」

「ぼ、ボクはただ……」

 何かを言いかけたアントの口の前に、オレは人差し指を立てた。押しつけるように、ぶっきらぼうに。

 アントはすぐ目の前に立つオレの指を、寄り目になりながら凝視していた。

「そんなに怯えるなよ、『ちょっと黙ってろ』って言いたいだけだぜ?」

「それって……『きょうはく』?」

「ちげぇ!」

 何でそうなる! それじゃあまるで、オレがアントを誘拐しようとしている変態みたいじゃねぇか! 誰が好き好んでそんなことやるかよ!

 きょとんとしているアントに、オレは若干キツイ口調で言い放つ。

「オレはそんな変態じゃねぇ! それに、お前なんか脅迫して、オレになんの利益があるんだ? オレは昔っから、無駄なことに時間をかけたりしねぇよ!」

「あっ……うん、そ、そうだよね……ごめんね……」

 案の定アントは弱気になりながら俯いてしまい、

「あ~、小さい子を泣かせてる男がいまぁ~す。ケーサツ呼んじゃおっかなぁ~?」

 その様子を見ていたモースが、ケタケタ笑いながら茶化してきた。

 なっ、泣かせてなんかねぇし! よく見ろこの夜行性が! お前は昼間は目が悪くなるのか?

 事を大げさに言うモースのせいで、バターちゃんまでもがアントのことを心配し出し、

「ビィくん……少しは手加減してあげた方が、いいと思いますよ……?」

 オレに残念そうな眼差しを向けてきた。

「違うんだバターちゃん! オレは別に、コイツを泣かせたりは……」

「ジャストは違くても、ラストタイムは泣かせてましたよぉ? あの、鷹さんと闘った後の~!」

 モースお前、何言ってんのか分からんぞ……! 英語の使い方、間違ってる気がするんだが。

 するとフライルがオレの意図を読み取ったかのように、宇宙虫――もといモースの、日本語として変な文章を翻訳してくれた。

「つまり、今はソイツを泣かせてないとしても、この前は泣かせただろ? ……ってことだろ?」

「おおうっ、せぇ~かぁ~い! さっすが番長、頭いいっスね!」

 大げさに驚き、四本の手を全て使って拍手をするモース(バカ)。

 なんでもいいけど、フライルのこと『番長』って呼ぶのやめろよな……いい加減。

「あっ……あれはオレが悪いんじゃなくて、アントが勝手に……!」

 反論しようとしたオレが、声を荒げながらそこまで言った時だった。


「おい、こっちに虫がいっぱいいるぞ!」


 背後から人間の声がし、続いてバタバタと騒々しい足音が近づいてくる。何やら、数人の人間達がこちらへ向かって走ってきているらしい。

 そこでオレは、今さっき聞こえた人間の言葉を思い出した。

 ――『こっちに虫がいっぱいいるぞ』……? オレ達を見つけて、駆け寄って来たみたいだが……。一体、なんのためにそんな行動をとってるんだ?

 オレが考え付くよりも早く、何かを感じ取ったらしいフライルが、

「飛べ!」

 短く叫んだ。

 一瞬、なぜそんなことをするのかと戸惑う。しかし、すぐにその答えは分かった。

 モースにもそれが伝わったようで、ソイツも勢いよく空へと飛び立つ。続いてオレも飛び、不思議そうな表情を浮かべるバターちゃんも、とにかくフワリと宙に浮き――、

「アント!」

 アントだけが、地上に残された。くっそぉ……アントは蟻だから、飛べっつっても飛べないのか……。

 オレは急いでアントへと手を伸ばす。しかし、


 シュ―――――――――――――――――。


 その手の先を白い煙が包み、オレは驚いた拍子に手を引っ込めてしまった。

 こ、この煙は……。オレにはこの煙に見覚えがあった。というか最近、コイツのせいで死ぬかと思ったという体験をしたことがある。そんな危険なヤツを、オレが忘れるはずがない。

 そうだ、コイツは……殺虫剤だ! しかもかなり強烈なブツだな……。

 この臭いは、虫が死んだ時に出るイヤ~な匂いだ。ほとんどの虫が、この匂いを不吉だと感じ嫌うらしい。もちろんオレだって、こんな匂い大嫌いだ!

 煙は瞬く間に上空へと舞い上がってくる。アントの姿は、煙に紛れて完全に見えなくなっていた。

「あ、アント……!」

「ビィ! とにかく逃げるぞ!」

 アントのことが心配だったが、この状況ではアントを救出することはおろか、近づくこともできない。

 それに……ここでオレまでやられたら、誰がアントを助けるんだ……!

「かならず、助けに行くからなーっ!」

 心を鬼にして、オレは『逃げる』という手段を選んだ。

 それを確認したフライルが、先陣を切って飛んでいく。続いてモース、バターちゃん、最後にオレと続いた。

 待ってろよアント……お前は、このオレが守ってやるから……。

 オレは、嫌みのように晴れ渡った青い空を睨みつけながら、三匹の後に続いた。

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