初夏の花見&突然の遭遇
「きれいだな……」
時間にして昼ちょっと前。オレ達は花を見に、とある河原の近くに来ていた。
オレの第一声は、素直な感想だった。
「でしょう? 私、この場所が大好きなんです」
バターちゃんも上空から、一面に広がる色とりどりの花を眺めながら、うっとりとした声色で言う。
河原から坂になった道を上って来ると、この場所に来ることができる。多くの河原が、このような造りになっているだろう。
そしてここは、理由は分からないのだがたくさんの花が植えられ、歩道の脇を彩っていた。
種類にして、ガザニア、アジサイ、カーネーション、キンセンカなど……初夏に咲く花たちが、晴れた空の下で見事に開花していた。
「バターちゃんが好みそうな場所だな」
「そうですね、私、蝶ですもんね」
本能的に、こういう場所を好くもんなのだろう。むろんオレも、花は嫌いじゃない。ただ、オレはミツバチじゃねぇからな……花に何するってわけでもないのだ。
しばらくの間何も喋らずに、オレとバターちゃんは黙って花を眺めていた。
愛しの女の子と二人で、こうやって花を眺める……なんて幸せなんだ。やっぱりオレ、非リア充昆虫隊を卒業しようかなぁ……。
またまた危ない考えが、オレの脳裏をよぎる。と、その時だった。
「……?」
ふいに、横から視線を感じた。横からといっても、オレの隣にはバターちゃんしかいないはず。と、いうことは……。
「どうしたんだ?」
「っ! あっ、いえ……」
オレに視線を寄こしていたのはやはりバターちゃんだったようで、オレの問いかけに彼女はびくっと肩を震わせた。
「ご、ごめんなさい……他の虫からの視線、気になりますよね……」
バターちゃんは申し訳なさそうに謝罪してきたが、オレは特に気にしてなかったので、
「別に? なんか用あるんだったら、言ってくれよ」
そっけなく、そう答えておいた。その言葉にバターちゃんは、異常に反応している。
表情が引きつってるし、何か言いたげだし……本当に、なんもないんかなぁ?
心配になったオレは、もう一度だけ、聞いてみることにした。
「バターちゃん、ほんとに何にもないのか?」
するとバターちゃんは、さっきとは違う答えを返してきた。ぶるぶると体を震わし、かなり緊張しているというのを態度に出しながら、
「いえ……その……何もないというわけでは、ないです」
遠まわしにだが、『貴方に話があるんです』と言っているようにオレには聞こえた。なら、バターちゃんが『これは言いたい』と思うのなら、この場で言ってもらいたい。そうしないと、何となくモヤモヤするだろ?
「なんだ? なんでも聞くぞ?」
「で、でも……別に後でも、大丈夫なので……」
「バターちゃんはよくても、正直なところオレはよくない」
オレがきっぱりと言うと、「どうしてですか?」とバターちゃんが首を傾げてくる。
「これは自分勝手な理由だが、オレはバターちゃんに我慢させるという行為をさせたくない。バターちゃんが、オレに言いたくても言えないようなことがあったら……言えなくさせてるのは、オレの責任だからな。……だから迷ったら、どんな些細なことでもいいから、言ってほしいんだ」
我ながらいい台詞だ。オレは自分に感心してしまう。
はたから見れば、コイツどんだけ自惚れた虫なんだよ……と思うところだろうが、今はほっといていただきたいぜ。
一方バターちゃんは、まだ何かを躊躇しているようだったが――オレの素晴らしい台詞で腹を決めたのか、ぐっと俯けていた顔を上げ、
「でしたら言います! 私――、」
オレへのメッセージを、告げようとした。しかしその声は、
「あれっ? ビィくん?」
聞き覚えのある声に打ち消されてしまった。
オレはその声に驚き、顔ごと地面へと視線を向ける。続いて、そこにいたのがオレの知人であることに驚き、
「おっ、お前っ……どうしてここにっ……!」
語尾を跳ね上げさせながら、そう口にした。
バターちゃんも声の主を見て目を丸くし、口に手を当てながら、
「あ、あなたは……」
小さな声で呟いていた。
そうか……バターちゃんも、コイツと会ったことあるんだもんな。だって、バターちゃんはコイツにオレ宛てのラブレターを渡したんだもんな。
ラブレターだということは知っていたが、その内容を全く知らないコイツは、
「ビィくん……こんなところで、何してるの?」
可愛らしい仕草で、不思議そうに首を傾げていた。




