集合
そして約束の日曜日。
オレは指定された通りの場所、時間で、バターちゃんを待っていた。しかし……。
「おっ、遅くねぇ……?」
つく悪態をついてしまうほど、バターちゃんが来るのは遅い。
もうとっくに九時を三十分も過ぎているのに、彼女は未だに現れない。
意外と時間にルーズなんだな……意外にな。
オレが近くに設置されている時計を見上げたその時、
「お待たせしました~」
またも息を切らして肩を上下させながら、約三十分遅れでバターちゃんがやって来た。
本来ならここで、「遅れたらダメだろ」とちゃんと言っておくべきなのだが……。相手がバターちゃんでは、言うに言えない。
泣かせちゃったりしたら、悪いからな。
仕方なくオレは、なるべく平静を装いながら、
「いや、オレも今来たとこだから、気にすんな」
手をあげてバターちゃんを出迎えた。
本当は時間どおりにここに来て、貴女を待ってたんですけどね!
「あっ……ビィくんも今来たんですか? なら良かったです! ……ビィくんを待たせたりしたら、失礼ですもんね」
いや、実は超待ってたんですよ……。あと五分したら、帰ろうと思ってましてねぇ……。
オレはバターちゃんの言葉に心の中で突っ込みを入れながら、それでもなるべく優しい笑みを浮かべて、
「よし。じゃあ……まずは遊園地を見て回ろうか?」
昨日の計画に沿って、そう提案した。しかし彼女は、
「いえ、まずは本屋さんに行きましょうか」
昨日は一言も口にしなかった、『本屋』という単語を口にしてきた。いっ、いきなり予定変更かよ!
オレは楽しそうに笑みを浮かべるバターちゃんを見ながら、女ってみんなこういうもんなのかねぇと呆れていた。
いや……別に今のでバターちゃんを嫌いになったわけじゃないぜ?
ただ、自由奔放なんだなぁって……感心してただけだ!
「? ビィくん、行きましょう?」
女……昆虫で言えばメスに呆れかけていたオレの顔を、バターちゃんが笑顔のまま覗き込む。この体勢になると、仕方ないのだろうが顔が近くなる……。オレとしては、めちゃくちゃ嬉しいけどな。
「あ、ああ、そうするか」
オレは慌てて頷き、
「……ほい」
すっと、自然にバターちゃんへと手を差し出す。
デートといったら、手を繋ぐのが定番だろ? 人間のカップルも、そうやってイチャついてるしな。
そうそう、人間界では、彼氏や彼女がいる人のことを『リア充』というらしい。ん? ちょっと違うって? ……オレはそう学習したんだけどなぁ。
一方でバターちゃんは、自分に差し出されている手を不思議そうに見つめ、
「な……何でしょうか?」
オレへ尋ねてきた。
ははぁ……バターちゃんは、まだこういう経験は少ないのか……。もちろん、他の男と手を繋いでデートしたりなんて、してほしくないけどな。
鈍いバターちゃんのために、オレは小さな声でボソボソと言う。
「ほら……人間達も、こうしてるだろ……? 仲良しの男女は、こうやって手を繋ぐもんなんじゃねぇのか……?」
言ってる内にだんだんと恥ずかしくなり、最後の方は声にもなっていなかった。
しかしバターちゃんには、オレが何を言いたいのかが伝わったらしく、
「そ、そうなんですか……。それなら、私達もそうしましょうか」
やはりちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめて、オレの手を包むように握ってきた。
うっ……なんて幸せなんだ、オレって奴は……。
今思ったことなのだが……オレはずっと、自分って非リア充だよなぁと思っていた。しかし、こうして可愛い女の子と手を繋いでデートしてるって……超リア充じゃね?
もちろん、人間には嫌われてるぜ? だけどよ……それ以上に、幸せの方が大きい気がするんだよな。
「えへへ……なんだか恥ずかしいですね」
はにかみながら、バターちゃんはオレの方を見る。オレもバターちゃんを見返し、
「へへっ、慣れれば大丈夫だ。……きっとな」
自分でも分かるほど、かっこつけて言ってみた。
図書館までの道のりは、そう遠くない。十分もあれば、すぐに着いてしまうだろう。
オレは図書館までのこの時間を、大切にしようと思った。
バターちゃん……なんて可愛いんだ……。マジでオレの彼女にしたい……。
そんな考えが、オレの頭の中をぐるぐると回る。もし、周りの奴らがオレの頭の中を覗いたりできるようになったら、オレはかなりキモイ蜂になっちまうな。
しかし……ここまで可愛い娘は、今までに見たことがない。
人間には『アイドル』という可愛い娘達の集まりみたいなのがあって、テレビに出て歌を歌ったりするみたいだが、バターちゃんは彼女達にも余裕で勝る可愛さだ。
こんなこと言ったらアイドルに失礼だが、はっきり言わせてもらせうと、そんじょそこらのアイドルより、バターちゃんの方が億倍可愛いと思う。
「ここですよね、確か」
おおっと、アイドルだのバターちゃんだののことを考えていたら、いつの間にか図書館に着いていたようだ。
オレはバターちゃんの質問に頷いて答えてから、今度は彼女に質問する。
「でもこれ、どうやって入るんだ?」
いくら自動ドアという便利なドアだったって、オレ達昆虫にまで反応するドアは滅多にないだろう。
となると、オレ達は中に入れないということになる。
しかしバターちゃんは可愛く微笑むと、「大丈夫ですよ」と言って、一人の人間を指差した。
「あの人、図書館に入るみたいですから、あの人と一緒に入っちゃえばいいんですよ」
「そうか」
ナイスだバターちゃん。確かに、人間を利用すれば、簡単に館内に入ることができるな。
時間にはルーズでも、頭の働きは早いようだな。ますます好きになったぜ。
オレ達二匹は人間のすぐ後ろに付き、何食わぬ顔で自動ドアをくぐった。自動ドアは結構長い時間開いているようで、オレ達が通った後も、少しの間まだ開いたままだった。
こうしてオレとバターちゃんは、無事に館内に入ることができたのだった。




