人生初のラブレター
次の日の朝。
オレは誰よりも早起きして、昨日アントから受け取ったラブレターを読んでいた。
昨日の内に読んでしまっても構わなかったのだが、もう辺りはかなり暗いし、眠かったしで今日にまわしたのだ。
まだ他の奴らは誰も起きていなく、しかし陽の光はすでに明るい。少なくとも、手紙を読むのには十分な明るさだった。
「うへへ……」
ラブレターに目を通しながら、オレは自分でも気持ち悪いと思ってしまうような声で笑った。
いや、しょうがねぇんだって! 男だったら、こうなっちまうだろ! だってオレ、人生初のラブレターなんだぜ?
多少気持ち悪くても、そこは目をつぶっていただきたい。
ラブレターの内容は、こんなものだった。
ビィくんへ
今度の日曜日、一緒に遊びに行きませんか?
とはいえ、急にこんな手紙がきても、ビィくんは混乱してしまうでしょう。
なので一日前の土曜日に、一度お会いできますか?
時間は、午前十時ごろで。
都合が悪かったら、来なくても構いません。その時は、またお手紙を書かせていただきます。
また、都合で時間に遅れるという場合もあるかと思います。
私はビィくんが時間どおりに来なくても、一時間ほど待ってますので、大丈夫です。
それ以上遅れるという場合は、欠席ということで判断させてもらいます。
そうそう、まだ書いてなかったですね。
集合場所は、みどり公園で。
それでは、お会いできるのを楽しみにしています。
差出人の名前はなく、何ていう名前の子か分からないのだが……。
オレはとにかく嬉しくて嬉しくて、何度も文を読み返していた。
文面から察するに、きっとしっかりした娘なんだろうな……。でも字体は丸っこくて可愛いし……。
あんな子かな、こんな子かなと、様々なタイプの女の子を思い浮かべてみる。
もちろん、全員昆虫なんだけどなっ。
と、オレが顔を少しだけ赤くしながら妄想に浸っていると……、
「ちょり~す。……あれ? 何見てんのビィ」
「おわーったったった!」
珍しく早起きなモースが、後ろからオレを覗き込んできた。オレはとっさに、読んでいた手紙を封筒にしまう。
「はっ、早起きだなモース」
「なぁ~んか目が覚めちゃってねぇ。……それより、今隠したの、なに?」
モースはオレの手元に視線を落としながら、淡々と言う。
「う~ん、なんだろねぇ。手紙みたいだったけど……ビィにわざわざ手紙書く虫なんて、この地球上に存在すんのかねぇ?」
そこまで言うか! オレってそんなに価値のない虫だったの?
「失礼な奴だな、オレだって手紙ぐらいもらうぜ!」
「でも、オレっち達昆虫が手紙書くのって、かなり大変だよ? 便箋とかないし、鉛筆もないし~……ほら、そういう道具は人間の目を盗んで、こっそり使わないとじゃん?」
「そ、そうか……」
モースに言われて、オレはふと考え直した。
そうだよな、考えてみれば、オレ達昆虫は人間に比べて体も小さいし、ましてや文房具なんて使わない。第一、そういった店がないんだからな。
だから手紙を書くとすれば、まずは人間の家に忍び込み、手紙セットを探し、クソデカくて重たい文房具を持って、全身運動で書かなきゃいけないんだからな。
最後にそれを、自分で持ち出さなくてはならない。
確かにこれは超めんどくさい。ここまでしてオレに手紙を、しかもラブレターを出す女の子なんて、本当にいるのか?
オレがモンモンといろんなことを考えていると、
「ほいっと」
モースがオレの手から、いとも簡単に手紙を取り上げた。
「あっ? おっ、おい、返せよ!」
「や~だよ。……どれどれぇ~?」
じ、自分がされて嫌なことは、人にやるなって常識があるだろ?
モースは封筒から手紙を取り出し、黙ってそこに書かれていることを読み始めてしまった。くそ……コイツらには秘密にしておこうと思ったのに……。
少ししてラブレターを読み終えたモースは、ニンマリと面白そうな笑みを浮かべ、
「よかったじゃあ~ん? 人生初の、ラ・ブ・レ・タ~」
思いっきりオレをバカにしてきた。こっ、コイツ……調子に乗りやがって!
オレはあえて何も言い返さなかったが……思いっきりモースを睨みつけ、心の中で精一杯バカにしておいてやったぜ。
へへっ、いいだろう、羨ましいだろう。所詮お前はラブレターも貰えないような、負け組男子なんだよ。
……そうやってオレをバカにしてるのも、ほんとは悔しいからなんだろう?




