オレとアントの秘密(?)の会話 2
とりあえず、アントの質問には答えてやることにする。
「ん、まぁ……そうだなぁ……。今のところは、いないかな……」
「そ、そう……」
せっかく答えてやったというのに、アントは微妙そうな表情を浮かべた。嬉しいと悲しいが混ざり合ったような顔……とでも言おうか。
「おい、アント? 一体どうしちまったんだよ」
なんだか様子がおかしい気が……大丈夫か、コイツ?
「やっぱりお前、例の事件で疲れが……」
「あっ、あのっ!」
オレが言いかけた言葉は、アントのいつもより若干高めの声に遮られた。その声に、オレはドキッとしてしまう。
こ、コイツの声って……よく聞けば、女みたいだよな……。
またしても変な考えが、頭をよぎってしまう。い、いけねぇいけねぇ!
「ん? どうかしたのか?」
涙目のまま至近距離でオレを見つめてくるアントに、オレは問いかける。
アントは何も答えずに、ただじっとオレを見つめているだけだった。何がしたいんだか、言いたいんだか、オレには理解できない。
そのまま静寂が場に満ち――気付いた時には、もうアントの目から涙はなくなっていた。きっと、乾いてしまったのだろう。
「アント、話がないんなら、もう寝たらどうだ? さずかのオレも、そろそろ眠くなってきたしさ」
しびれを切らしたオレが最初に口を開く。
「お前もちゃんと睡眠はとれよな」
「そっ……そうだね」
アントはすぐにオレの意見に同意し、それからやや気まずそうに、
「じゃあ、その……まずはこの体勢、どうにかしようよ……」
視線をあちらこちらに飛ばしながら、小さな声でそう言った。……そういえばそうだったな。
オレは「あいよ」と短く返事をし、アントから体を離した。すると、アントからは「ふぅ」と安堵の息を漏らすのが聞こえた。
そんなに怖かったのかね、オレ……。
昼間と同じようにショックを受けながら、オレはまた、その場に寝っ転がった。さっき見た時よりも、星が綺麗だ。町の明かりが少なくなったからだろう。
「じゃ、アントもほどほどで寝ろよ」
「あっ……あっ、ちょっと待ってビィくん!」
今度こそ寝ようと思っていたところを、アントに止められる。なんだよ、ったく……。
オレは悪いと思いながらも、わざと不機嫌な声を出した。
「あ? あんだよ」
「ごめんっ、最後に一つだけ、いい……?」
「あん? ……別にいーけど?」
ま、アントの頼みなら、仕方ねぇな……。
つくづく思うが、オレはアントには甘い。アントって、何となく怒れない奴だし、守ってやりたくもなるし……何ていうかな、弟みたいなもんなんだよ。
ちょっと不機嫌なのと眠いため、目を細めて怖い顔をしているオレとは対照的に、アントはやけににこにこと作り笑いを浮かべながらオレを見ていた。……不気味な気がするのだが、気のせいか?
訝りながらアントの言葉を待っていると、アントはどこからともなく、一通の手紙を取り出した。
それはやけにデカく、アントが一匹で持てて――というか持ち上げて――いるのがすごいと思うほどだった。まぁ、アントは蟻だから怪力持ちなんだけどな。
そして彼は笑顔を崩さないまま、その手紙をオレに手渡してくる。
「……な、何これ?」
当然オレは、アントに問うた。アントはさも当たり前のように答える。
「ビィくん宛ての手紙だよ」
「いや、それはそうだろうけど……誰から?」
ま、まさか可愛い女の子からのラブレターか? はたまた、屈強な男からの挑戦状?
オレの頭の中に、いくつもの文面が思い描かれていく。
「う~ん、たぶんビィくんが考えてる内容で、合ってると思うよ」
アントはふふっと含み笑いすると、
「それ、ビィくん宛てのラブレターだよ」
可愛くにっこりと笑って、今オレが椅子に座っていたら転げ落ちるぐらいの、衝撃の台詞を口にした。
まっ……マジで?
オレは感動で、もう少しで泣いてしまいそうになった。さすがに泣かなかったけどな。
でも、本心を口にすれば……すっげぇ嬉しい。今までの嬉しかったことランキング、一位か二位に入るよコレ!
オレだって男だ。女の子から手紙をもらうだけでも嬉しいのに、それがラブレターだったりしたら……。
もう本当に、死んでもいいよって気になっちまう。
「あ、アント、それ……本当か?」
疑うのは悪いと思っててながらも、そう聞かずにはいられなかった。
オレの食い入るようにな質問に、アントはこくりと頭を縦に振る。そして、
「ビィくん……今、どんな気持ち?」
向こうからも質問をしてきた。
アントを前に恥ずかしい気持ちもあったが、今は嬉しさが先立っていた。オレは満面の笑みを浮かべ、全力でこう答えてやったぜ。
「超嬉しいぜ! ……もう死んでもいい!」




