空の闘い 3
「はっ、威勢だけはいいようだな!」
ハチクマはオレをバカにしたように鼻で笑うと、オレの突進をひらりとかわした。
まぁ、体当たりしたところで……ダメージなんて全然ないんだろうけどな。
「ちっ! モース!」
「あいよっ!」
その言葉だけで、モースは何をすればいいのか分かったみたいだ。いつもはアホなことばっかしてるのに、ピンチになると、意外と頼りになるんだからよぉ……。
モースはアントを背中にのせたまま、ハチクマに真正面から突っ込んでいく。
「へっ、ま~た体当たりかい、ちっとは頭使ったらどうだ?」
ハチクマは当然のように、モースの攻撃もかわそうとして――、
「させるか!」
フライルによって、その動きは阻止された。
フライルはモースに気をとられているハチクマの隙をつき、彼の耳元へと入り込む。そして、羽を細かく動かし、羽音を一層強くたて始めた。
「うわっ?」
突如耳元でうるさい羽音が聞こえたら、誰だってひるむだろう。むろんハチクマも驚いたらしい。
ハチクマの意識する標的は、モースからフライルの羽音へと変わった――今だ!
「鷹さんゴメンねぇ~!」
「なっ――!」
その隙をついて、モースはハチクマの両目を覆うように羽を広げた。そして、その体制のまま体当たりする。
結果、ハチクマの視界は、モースの羽に遮られて真っ暗になった。
「ナイスだモース!」
オレはモースへと、親指をたてるジャスチャーを向けた。モースは首だけでオレの方を見て、同じようにジャスチャーを返す。
真っ暗な視界の中、ハチクマは何がどうなったのか分からないといった様子で、
「なっ、なっ……何だこれは!」
無意味に羽をばたつかせていた。オレはその様子を見て、ついつい噴き出してしまう。
だってさ、鷹が昆虫に襲われてんだぜ? 普通に生きてたら、あんまし見ない光景だよな!
「おいハチクマぁ、そろそろ降参したらどうだ?」
「ち、ちくしょう……」
耳元では羽音、目には羽が張り付いている……これはもう、いくらハチクマでも嫌になっちまうだろ。
オレはハチクマの降参を予想して、ニヤリと口角をつり上げ不敵な笑みを浮かべる。しかし……。
「こ、降参なんてするもんか!」
返事はこれだった。
そうだよな、そう簡単に諦めてくれるなんて、そんなはずがないよな。オレだって分かってるさ。
だから、ちゃ~んとそういう時のための次の攻撃方法も、考えてあるんだぜ?
「そうかそうか。なら、無理に降参しろとは言わねぇよ。ただ……」
オレはそこで言葉を切り、目だけでアントに指示を送った。
これはいつもやっている攻撃方法なので、アントもすぐに理解してくれた。
「ただ?」
ハチクマが短く尋ねて――、
「ただ、降参せざるをえなくなるけどな」
オレが超ドヤ顔でそう言った直後――、
「なっ、なん……ぎゃああああ――――――――――っ?」
ハチクマは悲鳴をあげて、体を大きく揺らした。その衝撃で、モースは半ば無理やり体をひきはがされる。
「うっ、うぅ……」
大いに騒いだハチクマは、今度は目をきつくつぶってその場から動かなくなってしまった。
ふふふ……作戦大成功だったな。
しばらく静かな時間が過ぎ、最初に口を開いたのはハチクマだった。
「くっそぉ……痛てぇ、降参だ……」
「ははは、そうだな。大人しく降参しておけ」
「言われなくてもそうするさ……。そうだ……最後に一ついいか?」
涙目のハチクマは、オレに質問を投げかけてきた。
「俺、すげぇ痛みを味わったんだが……頭を何かに刺されたみたいなんだ。どうせお前らの攻撃だろう? 誰だ? 誰がやったんだ?」
「ん? ああ、オレが一瞬でそっちまで移動して、お前の頭に針をぶっ刺したんだよ」
オレが得意気に答えてやると、ハチクマはオレの目を見据えてきてた。
……どうやら冗談は通じないようだな。
「それ……嘘だろ?」
「ほう、どうしてそう思うんだ?」
「お前が近づいてきたら羽音で分かるし、それに……オスの蜂は、針を持たないだろ?」
なんだよコイツ、鷹のくせして、蜂のことよく分かってんじゃん。
敵に感心させられるのはどうかと思うが、思わず「おぉ」と思ってしまった。
「すげぇな、そんなことまで知ってるなんてよ」
「たまたまだ。……で? 俺の頭に強烈な攻撃を食らわしたのは、一体どいつなんだ?」
ハチクマの問いに、
「ぼっ、ボクです!」
若干怯えながらも、アントが手をあげて答えた。
「ボクが噛みました。ボク……噛まれると痛いって、よく言われるので……」
「ほぅ……アントちゃんが、か」
ハチクマは感心したように一度頷くと、それ以上は何も言わずに踵を返した。自分の巣にでも戻るのだろう。
オレは背を向けて飛んでいくハチクマの姿を、自分でもよく分からないのだが……見えなくなるまで、ずっと目で追っていた。




