空の闘い 2
オレの雄たけびを聞いたハチクマは、目を細めながら言う。
「へへっ、アントって奴は、誰だかよく分からんが……お前にとって大切な奴なんだな?」
「そうだ!」
分かっているのなら、早く離してほしいのだが……。
「兄ちゃんの気力は、大したもんだぜ。……なんだか、お前を解放してやりたくなってきたなぁ」
「ならとっとと離せぇっ!」
このチャンスを逃さんばかりに、オレは羽ばたきを一層強くした。とはいえ、さっきより体力はかなり落ちいてる……。羽音にも力強さがない。
ブブッ、ブブッと、短く小さいオレの羽音が、消えそうになりながらそれでも音を保っているのが分かった。
「くっそぉ……おいコラ、離してくれんだろっ? 早くしろっ!」
いきり立ったオレが怒鳴ると、ハチクマは「おいおい」と言いながら苦笑した。
なっ……なんだよ。まさか、「あれは冗談に決まってるだろ」とか言い出すつもりじゃあるまいな……。
「う、嘘とか言ったら承知しねぇかんな!」
「嘘じゃねーよ。俺は本気で、お前を諦めようとした。だがな……」
ハチクマはそこで一拍置いて、わざとらしく喉を鳴らしてから……得意のニヤリとした不気味な笑みを浮かべて、ゆ~っくりと続きを口にした。
「だが俺の腹は、もう限界だ。この際、蜂じゃなくても喰いたくなるくらいにな」
「っ……! こっ、このっ……!」
かなりの身の危険を感じたオレは、体を四方八方に動かし、力づくでもハチクマから逃れようとした。しかし、そんなんで大切な獲物を手放すような奴じゃない。
ハチクマはくちしばしを器用に使い、オレを丸のみしようとする、が……。
「全く、うるさい兄ちゃんだな。こうしてやらないと納まらねぇのか?」
オレのほとんどを口内に入れたところで、丁度頭に当たっていたくちばしを、そのままそこに叩きこんできた。
オレの頭に、強力な一撃が送られる。
「がっ……!」
オレは一瞬にして意識を失い、動けなくなってしまった。
いや……完全に気を失ったわけではないらしい。まだぼんやりと、周りの様子が見える。こうやって、頭で何かを考えることもできる。
あぁ……ついにオレは、ここで死ぬのか……。
ここまで来て……何やってんだよ、オレ。
アントを助けるんじゃ、なかったのかよ……。
みんなのところに、二匹で戻るんじゃ、なかったのかよ……。
なのに……もう、アントどころじゃなぇな、こりゃ……。
自分一匹で帰ることもできねぇ……。
情けない、なんて情けないんだ……。
これでも、オレは男なのかよ。
あぁ、でも、もう……さすがに意識がとんでいく……。
もう、生きる気力もねぇよ……。
ついにここで、死ぬのか……?
ここまで来て……? ここまで頑張ってきたのに……?
あっけなく、ハチクマなんかの食料になって……いいのか?
いや、ダメだよな、絶対に、ダメだ。
オレは決めたんだ、決めたんだ、決めたんだ!
オレは決めたんだ――!
「オレは決めたんだ! アントを見つけるまでは死なねぇって、決めたんだ―――――――――っ!」
「う、うおぉっ?」
強く、長く、オレは叫んだ。
オレの意識が途切れていないことに驚いたハチクマは、一瞬だがくちばしに込めていた力を緩める。
よし、今だ!
こんどこそ本当のチャンスを掴んだオレは、ブバッ! と音をたてながら、勢いよくハチクマのくちばしから逃げ出した。
「に、兄ちゃん……待て!」
こんなこと、ハチクマも予想していなかったのだろう。もちろん、オレも予想なんてしてない。
奇跡って、本当にあるもんなんだな……。
オレは奇跡にふっと微笑むと、こちらを睨んでいるハチクマに、笑顔を向けた。
「おいハチクマ! オレを喰おうったって無理だぜ! オレはお前に何度捕らえられても、何度でも抜け出してやるからな!」
「こ、この野郎……!」
ハチクマがオレを視線だけで殺そうとしてきたが、オレはそうはならなかった。




