夏の日の思い出
1997年8月6日
夏の太陽が容赦なく照りつける中、晶太はすでにだいぶ前の方を走っているバスのテールランプを眺めていた。
「ああ、乗り過ごしてしまった。……どうしよう」
晶太の通う小学校から自宅までは、決して歩いて行けない距離ではない。
それでもめったに歩いて帰らない彼にとってその帰路は果てしなく遠く感じるものだった。
ましてやこの暑さである。帰る意欲は完全になくなっていた。
「うーん、次のバスは四時か……図書館にでも行くか……」
本が好きというわけではない。ただあの中を歩きたくなかっただけだ。
友人はいるにはいるが、あくまでも学校の中だけの付き合いで、こういう時に「じゃあ、遊ぼうか」と誘われる仲ではなかった。
これといった趣味もなく、次のバスが来るまでの時間が永遠にも思えるほど彼は暇を持て余していた。
図書館についてからも本を手に取るでもなく、棚を漫然と眺め、机の脇に荷物を置くとすぐにボーっとしていた。
どのくらいそうしていただろうか、自分より学年が下の男子数名が騒ぐ声で我に返るまでそうしていた。
その声は耳障りなほど甲高く、一刻も早くその場を離れたいと思うほどだった。
カウンターの時計に目をやると、まだ三時半。中途半端な時間……と心の中で舌打ちし、最低限のマナーを守っているだけ自分の方がましと、これまた心の中で毒づきながら図書館を後にする。
出たはいいがバスまではまだ三十分もある。
その間日陰とベンチしかないバス停で待つことが苦痛に思え、彼は歩いて帰ることにした。
いくらか日が陰ってきたので気休め程度意欲は戻ったものの、それでも足取りは重い。
バス停が見えなくなるころには自分の判断を呪いたくなった。バスの中ではアナウンスでしか聞かなかったバス停を五~六個ほど通り過ぎた時、先ほどまで晴れていた空が急に暗くなった。間をおかず遠くの方で雷の音がし、バケツをひっくり返したような雨が叩きつけるように降り出した。
「なんで、さっきまであんなに晴れてたのに」
恐怖すら感じる雨足と、雨粒がビスビスと頭や背中にあたった痛みから逃げ出すように、慌てて雨宿りできそうな軒先を探し、ある家の軒先に潜り込んだ。
「いつやむんだろう……そういえばここ、どこ?こんなところに家あったっけ……」
途方に暮れてぽつりと独り言を口にしたその時、すぐ隣で玄関の扉が開いた。
「あら、誰かいるの?」