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彼は寝ている  作者: 国見あや
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よく生きることは よく死ぬこと

 いつだったかある横浜市の秘蔵本の執筆に協力していると書いたことがある。

 

 山手の洋館についての歴史的文化的な内容を含む貴重な本の情報提供だ。というのも、私の父がむかし、今も現存するイギリス式洋館に戦争時代住んでいた。

 

 今、その家はだいぶむかしから富裕層に属する経営者が住んでいらっしゃるようだが価値でいうと300坪の敷地でもあるし、山手本通りに面していてざっと4億から6億円以上の価値があるのではないかと思う。


 父は父の親が交渉や経営者、事業家としての能力があったため、戦争中にその洋館を買った。戦争中の生活は当たり前だけど、皆貧しかった。配給所がその洋館だったので、支度をしている姉の様子を見計らってお腹を空かせていた父はこっそり余分に食べてしまって、近所中からクレームがきたこともあったそうだ。

 

 あるときは肥料のために干してあった馬糞もおはぎか何かと思って食べて、すぐ口から吐き出した父。毎日4時に起きて薪を割って、その後3時間かけて東京の小学校へ通っていた。往復にすると6時間の通学である。


 何をもってこの話を書きたくなったかというとだいぶ前に、そうは言っても今年のことだけど、山手の洋館に関する写真展が行われた。


 父が住んでいた家も裏のサンルームがとってある貴重なものだったので、ちょっと、私はその写真家の方にその飾ってある写真を1枚だけでもスマホで撮らせてもらえないか?と尋ねてみたのだ。もちろん、その写真家の本を買ったりもして御世辞をつくす行為とでもいうのでしょうか、ということもしたのですが写真家の方には渋い顔で断られました。


 まぁ、それも仕方ないことだな、と勿論引き下がりました。


 でも、最近、私は父から見せてもらった1949年のその洋館の写真を無償で横浜市の秘蔵本用に提供しています。



  ここで、自分が偉いんだ、ということを言っているのではなく、人生は決して思っているほど長くなく、お金も所有物も何一つ墓場まで、あるいは天国までもっていけない、ということを改めて考えさせられるのです。


 だから、自分の知識を渋ったり、他人に親切をすることができなかったりする人はその人生でとてもおしいことをしている気がします。もったいぶったりすることが後で自分の後悔に反映してくるかもしれいないし、自分自身が他人を幸福にすることによってまた同じように素晴らしい恩恵が受けれることを逃すことになるかもしれません。


 そういう私も昨日駅でリュックサックを一生懸命かかえようとかがんで四苦八苦して腕をリュックの空いたひもに通そうとしていたおばあさんを「あっ!たぶんしょいにくいんだな、手伝おうかな?」と思いつつ、足の速度は越え、通り過ぎてしまいました。今も頭に残ります。


 小さな親切は拒まれない限り、声をかけたり、行動に移すことができたら相手が自分の想像以上に喜んでくれたりします。それらが行える人は幸せです。それと反対に少しも他人との接触がなく愛情に飢え渇いている人がいるのも事実でそういう方々は孤独です。


 生きていることと死ぬことである。よく生きていることはよく死ぬことであると、トルストイも言っています。だから人間はよく死ぬように努めなければならない、と。


  

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