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湿っぽい土と枯れかけた下生えを蹴立てて、弓夏は闇の中を疾駆していた。
視線に込められた殺意が背筋からうなじを這い上がってくる。
途中、何体か斬ったが、それに怯まず、敵集団は執拗に彼女を追ってくる。いつしか味方と離れてしまっていたが、それはいつものことなので気にしない。
ほっそりした彼女の躰を包んでいるのは、薄い茶色を基調にパターン迷彩を施した野戦服だ。体の各部に取り付けられたポーチやホルスターも必要最小限に留まり、それらが彼女の動きを阻害することはない。
丈夫さと軽さと快適性を兼ね備えた軍用のトレッキングブーツに包まれた足取りは軽く、彼女は風のように地を駆ける。首の後ろで簡単に束ね、無造作に背中に流された艶やかな黒髪が、彼女の動きに追随して踊っていた。
腰の剣帯に吊られた刀が微かな金属音を立てるのを片手で押さえつつ、弓夏は背の高い小麦の間を掻き分けるようにして駆け抜ける。闇の中から湧き出してくる異形の影が後を追って次々に畑に飛び込んでくるのを察知して、彼女は口許を僅かに緩めた。
敵の姿は明瞭りとは見えない。ゾーン内部は暗闇に覆われていて、遠くにぽつんと佇む街灯が弱々しい光をあたりに投げかけているだけだが、降下猟兵の視覚はその程度の明るさでも行動に支障はない。可視光以外の波長域を使えば済むからだ。
弓夏と同様、結界を纏っている〈影〉《ネルヴァ》は赤外線を外部に放出しないが、強化された視覚は周囲の赤外線や紫外線を捉える。それらを放出していないのに動き回っているものの姿がくっきりと、文字通り影のように浮かび上がるというわけだ。
それ以外にも、敵の存在を教えてくれるものはある。たとえ結界を纏っていても、それが物理的に存在している以上、周囲の何かを押し退けずに動くことは出来ないからだ。障害物が増えれば、それだけ得られる情報は増える。
大気の振動、空気の流れ、麦穂を押し除ける音、大地を踏みしめる足音。それらを強化された聴覚が捉え、拡張電脳によって各種センサーの情報と統合処理されて、敵の位置と姿を明瞭りとイメージさせてくれる。
猫科とも犬科とも判然としないが、何処かサーベルタイガーを髣髴とさせる巨獣だ。全長五メートルを優に超える巨大さで、一体何処の惑星の生き物の形状を取り込んだものかは定かではないが、長く鋭利な爪と牙は、その凶暴性を十分に伝えている。
獣どもが弓夏を追って畑に飛び込んだ時には、既に彼女は地を蹴って反転し、腰に佩いた刀を抜き放っていた。蒼銀色の燐光を全体に薄く纏わせた長い刀身を肩に担ぐようにして構え、体をぐっと低く沈める。
「はっ!」
鋭い呼気と共に仄蒼い弧を引いて勢いよく振り下ろされた刃が空中を一閃すると、虎とも獅子ともつかぬ巨大な牙と凶悪な爪を備えた獣どもの巨躯が全部で四体、刀の軌道に沿って見事に分断され、宙を舞った。絶命の声すら聞こえない。それほど見事な太刀筋だった。斬られたことすら気づかないだろう。
真っ二つに断たれたそれらはあたりに血飛沫の円弧を描きながら慣性の法則に従って撒き散らされていくが、その血飛沫も、そしてその肉体すらもが地面まで辿り着くことなく空中で結晶化していき、落下と同時に砕け散る涼やかな音色があたりに響いた。それらの破片はその場に降り積もることなく、そのまま虚空へと溶け消えていく。
闇から産まれ、後には何も残らない。それらが〈影〉《ネルヴァ》と呼ばれる所以のひとつだ。
「次、距離十メートル、十時、十二時、三時の方向。来るよ」
弓夏の顔のそばにふわりと舞い降りた桜色の花弁のような物体が闇の中で微かに閃き、警告の声を脳裏に送ってくる。同じく近接通信で短く「了解」と応えた弓夏は、刀を再び鞘に納めると、噎せ返るような草いきれの中、目を伏せたまま静かに身構えた。
数瞬後、目の前で闇が爆発したかのように、殺気が形を纏って飛び出してきた。大気を震わせる咆吼を放ちつつ、異形の獣どもは地を蹴立てて襲いかかる。
体重六百キロを優に超えていそうな巨体が軽々と宙を舞う。数は三つ。同時にではなく、微妙にタイミングをずらしての襲撃だ。一つは頭上から、二つは左右に分かれて。しかし狙いは一つしかないのだから、対応は難しくない。
「──シッ」
渦を巻いて襲いかかる爪先をわずかに身を引いて躱すと、弓夏は鋭い呼気とともに鞘から刀を抜き放ち、そのまま無造作に横薙ぎの斬撃を放った。刀尖に手応えを感じると同時に刀を振り抜く勢いを利用して躰を回転させ、刀の柄を両手でしっかりと握りしめつつ、さらに一歩踏み込む。息を鋭く吐きながら大地を力強く踏みしめ、刀を思い切り振り下ろした。結界同士が激しくぶつかり合う干渉光が閃く。
その二太刀で、襲いかかっていた三つの影のうち二つがあっさり両断され、中空でバラバラになりながら崩壊をはじめる。一体は首と胴を横薙ぎに払われ、もう一体は額から胴体までを兜割りにされていた。
残るは一体だけ。それもすでに飛びかかっている状態だから、その勢いを殺すことはもう出来ない。獲物の予想外の行動に驚愕していたとしても、対処する時間は残されていなかった。少女の首筋に食らいつこうとして大きく開いた口に、素早く引き戻されていた刀尖が鋭く突き出され、喉奥に深々と吸い込まれていく。
「……ふう」
濁った色の瞳が目の前で見開かれるのを見つめながら、弓夏は小さく息を吐く。激しく動き回っているはずなのに、その呼吸は乱れてすらいなかった。
「弓夏ちゃん、お疲れさま」
「ああ」
脳髄を貫かれたその巨体が、飛びかかってきた勢いそのままに押し寄せ、直前で弾かれてバラバラに崩壊し、構成因子に戻っていく。それを表情ひとつ変えずに見やって、弓夏は淡々とした声音で答えた。
ざあっ、と音を立てながら押し寄せる血色の結晶は空気中で溶け崩れていくが、弓夏の体には触れることも出来ない。
彼女の体の周囲を蒼銀の淡い燐光を放つ薄膜が包んでいて、押し寄せてくる結晶の奔流はそれを乗り越えることが出来ないからだ。それらは直前で容易く弓夏の結界に弾かれ、そのまま地面に落ちる前に蒸発して消えていく。
「近くにはもういないか?」
「敵影なし。そっちはもう全部片付いたみたい」
「そう。和の方は大丈夫?」
ゆっくりと立ち上がり、刀を鞘に収めながら未だに崩壊を続けている敵の残骸に背を向けた弓夏は、わずかに視線を動かしてあたりを見回した。声の主、日下和の言う通り、近くに敵の気配は感じられない。
「ん、ボクは大丈夫。こっちは当真くんが鶏舎の向こうで戦闘中。見たところあと五~六体かな。現時点でアルファは未確認。……ねぇ、ボクずっとナビしかしてないけど、ホントにいいのかなぁ」
「私には遠くにいる敵は上手く捉えられないから。和のお陰で助かってる」
「ホントに? ……ならいいけど」
「それより和の方が退屈してるんじゃないの?」
「んー、ちょっとだけね」
戦域全体に彼女の知覚を拡大する探索子を幾つも展開し、敵と味方の気配を察知してその動きを逐一伝えてくれる和の能力は、知覚系がそれほど強くない弓夏たちにとっては非常に有り難い。弓夏の場合は近接戦闘に特化しているからなおさらだ。
「それより、アルファは未確認って? 獣牙種なら群れの中にいるはずだけど」
基本的に〈影〉はクイーンの手足であり、口である。クイーンの意志を受けて動くが、その行動を逐一制御されているわけではなく、主に本能──食欲に従って行動する。獲物の生体反応を嗅ぎ分け、見つけ出し、喰らうのだ。
基本的にはそれで問題ないのだが、降下猟兵のような異物が領域に侵入してきた場合に対応出来ない。普通の獲物と違って彼らは反撃してくるし、戦闘力も高いので返り討ちに遭うことの方が多いからだ。そのために存在するのが小隊指揮官である。これらは他の個体よりも能力が確実に高く、クイーンとも常時リンクしていると考えられている。
このアルファが十~数十の個体を率い、場合によっては高度な戦術を弄してくるため、最優先で発見、撃破せよと授業では教えられていた。アルファを倒さない限り、クイーンはいくらでも援軍を送り込めるからだ。
「うん、まだ見つかってない。ひょっとすると別種なのかも」
アルファと配下で種が違う、という例はたまにある。別種の配下を圧倒的な力をもって支配しているということだから、用心してかかる必要がある。
「だとすれば厄介だな。群れの動きから居場所を特定できない?」
「やってみてはいるんだけど……」
そう答える和の声は重い。決して狭いとは言えない戦域内をこの短時間で走査し尽くすことが出来るほどには探索子の数は充分ではないし、逆に増やしすぎても彼女が制御しきれない。拡張電脳の補助があっても、同時に処理できる情報量には限度があるからだ。
「分かった、別の方法を考えよう」
それは弓夏も分かっているから、あまり無理は言わない。畑から農道の方に歩いて戻りながら、形の良い眉根を寄せて考え込む。
〈影〉の行動は基本的にベースとなったその形質に支配される。先ほど弓夏が倒した異形の獣は獣牙類と称されるカテゴリに属しているが、この種は群れで行動することが多く、通常ならアルファはその群れを率いているはずだ。
だが、現時点でまだアルファを発見出来ていない。アルファが群れを放置して逃げるとは考えにくい。何処かに伏兵を率いて潜んでいる可能性がある。
「当真の方は? 手伝いは要る?」
「今ちょっと動けないみたいだけど、大丈夫だと思う。お手伝いは要らないかな」
「なら、私はアルファを探しながらそっちに戻る」
「ん、分かった。見つけたら知らせるね」
気軽な口調で答えて、和と呼ばれた声の主は小さく笑う。
その笑い声の向こうで射撃音が響いた。わずかに遅れて銃声が弓夏のいるところにも届いてくる。狙撃兵の援護射撃だ。弓夏は僅かに首を傾げて訊いた。
「……新入りは役に立ってる?」
「リュードくん? うん、頑張ってるよー。今一匹やっつけた」
「そう」
ずっと三人きりで最少稼働単位を満たしていなかったこの斑隊を稼働させるため、定員割れを起こした別の斑隊から回されてきた彼のことはよく知らないが、既に実戦に出ている分、今回が初陣の彼女たちよりは経験豊富なはずだ。
他の同期生たちが慣熟訓練を終えて実戦に配備されていくのを指を咥えて見送ることしか出来ず、ずっと焦れていた弓夏にとって、彼の加入は朗報だった。彼のお陰でようやく実戦に出られるのだから、それが案山子だろうと文句はない。
背中を預けるつもりは毛頭ないが、足を引っ張りさえしなければそれで十分だった。和を護衛につけなければならない、という一点を除いては。
その点についても、和がナビに専念出来るのだから結果としては良しとしておく。
「ならいい」
さして興味もなさそうに言って、弓夏は背丈よりも高い小麦畑から一段高い農道に跳び上がると、ゆったりと左右を見回した。それほど広くはないが路面は一応踏み固められているし、農地より一段上がっている分だけ見晴らしがいい。街灯の明かりは決して充分とは言えないが、ないよりはマシだ。
さて、どちらへ向かったものか。弓夏は一瞬思案するように首を巡らせる。さして頼りにならない視覚に仮想画面上の地図を重ねてみる。
農道は南北にまっすぐ延びていて、右手の小麦畑はそれに沿うように延々と拡がっていた。何処まで続いているかはこの暗さでは分からない。北には待避所があるハイラル山が聳えている。近隣の住民はそこに避難しているはずだ。
農道は登山口へ至る一般道へと続いていたが、その途中に作業場や作業員宿舎らしい建物が並んでいる。その建物の向こうにハウスや鶏舎が並んでいて、そちらの方角から銃声が聞こえてくる。当真を示す光点がその近くに表示されていた。
銃声の方角を視線で追うと、鶏舎の向こうに作業用道路を挟んで三階建てのレストハウスが建っていて、和たちのアイコンがそこに重なるように表示されている。彼女たちは見晴らしの良い屋上に陣取っているのだ。この近くにはそれより高い建物はない。
レストハウスの裏手は駐車場になっているが、駐められている車は一台もない。人っ子一人おらず、がらんとした空間に物寂しげに街灯が瞬くだけだった。
幹線道路を挟んだその向こう、闇の中に白銀の艦体がぼうっと浮かび上がっている。
傷ついた〈メネラーオス〉がそこに停泊していた。
装甲板が熔融したり派手に捲れ上がった箇所や、真っ黒に焦げた痕など、その表面には戦闘の激しさを物語る傷痕が幾つも刻まれている。
弓夏たちを投下し、降下ポイントの安全を確保するよう命じた後、放牧地となっている丘の陰にその身を滑り込ませた〈メネラーオス〉は、全身に修理用のドローンを這い回らせて応急修理を行っていた。
本格的な修理はドックに戻ってからになるが、今は少しでも性能を回復させておきたい。こうして地上に降りてしまった以上、身動き出来ないならなおさらだ。
もう一基残った敵砲塔は、今のところ沈黙を守っている。攻撃の意志の有無や射程の問題はともかく、この位置では牛舎が並ぶ丘が遮蔽物となっており、直接砲撃出来ないのだろう。だが、艦が飛び立とうとすれば容赦なく撃ってくる可能性があった。
ちょこまかと忙しなく動き回ってはトーチの火花を散らしている修理ドローンたちの姿を遠目に眺めやりながら歩いていた弓夏は、不意に駐車場の方に目を向けた。
──何か、いる。
弓夏はすうっと目を細めた。
目一杯に視力を強化しても、弓夏の感覚では敵の姿を捉えることは出来ない。だが、何かがそこにいるのは分かる。
見えずとも、胸の奥に埋め込まれた魂核が敵の存在を告げていた。
「和、気づいてる? 何かいるよ。駐車場の方」
そう呼びかけながら、弓夏はレストハウスに向かって駆け出した。
背後からの銃撃が足元を掠め、飛びかかろうとしていた獣の足を止めた。
だが、それはあくまでも威嚇にしかならない。獣は喉奥から重苦しい唸り声を上げ、こちらを威嚇するように睨みつけてくる。
数は四体。弓夏が戦っていたものと同じ類種だ。剥き出しの牙から、だらだらと汚らしい色の唾液が地面に滴り落ちている。
濁った黄金色の瞳が向けられた先、ハウスに囲まれた狭い作業用道路の只中に、野戦服姿の青年が佇んでいた。右手には抜き身の太刀を提げている。
この薄闇の中でもひと目で解るくらい端整な顔立ちをしていた。長身でありながらすらりと均整のとれた体格をしている。切れ長の瞳、すっきりと通った鼻梁。貴族的な面差しに長い黒髪が良く似合っていた。引き締まった口許も凛々しい美丈夫っぷりだ。
「当真くん、そっちは大丈夫?」
「大丈夫だ。いいからお前らはアルファを探せ」
顔のそばに舞い降りた和の探索子に視線を向けることなく、有村当真は厳しい口調で言った。彼は斑隊長権限で部下の通信内容を全て把握している。当然、弓夏と和の会話も耳に入っていた。もちろん、彼の指示も全員に伝わるようになっている。
「こっちはすぐには動けん。リュード、援護はもういいから自分の背中を守れ」
喋りながら、じり、と僅かに歩を滑らせる。その動きに応じて敵の包囲網も僅かに動いたが、距離は変わらない。こちらが詰めようとすれば僅かに後退り、一定の距離を保ってこちらの攻撃半径には入ってこようとしない。
当真が佇むのは十字に交差した作業用道路の中央。周りはハウスに囲まれ、街灯の光は十分に届かない。
四方にはそれぞれ敵が一体ずつ。当真は十字路に対して四十五度斜めに立ち、手にした太刀を下段に構えて、視線をゆっくりと周囲に配る。敵が当真の背後に回り込みたくとも、建物が邪魔をして回り込むことが出来ない。その代わり、当真も動きを制限される。
先ほどまでは他の個体が四方から襲いかかっていたのだが、それを片っ端から斬り伏せているうちにこの位置に追い込まれていた。元々囮になって敵を引きつけるつもりだったとはいえ、いつの間にか弓夏と分断されている。
敵の方も残るは四体のみとなって互いに動けなくなったが、こうしているだけで彼らは当真という戦力を封じることが出来ている。
餌を目の前にしてお預けを食わされているという不満が敵個体にあるにせよ、それを抑え込むだけの力をアルファは持っているということだ。それも、自分はこの場に直接姿を見せることなく。
「いいんですか? あなたの背中ががら空きになりますよ」
狙撃手の冷静な声が脳内に響き渡る。つい先ほどまで何度か援護射撃を加えてきていたのだが、今はピタリと熄んでいた。
彼──リュード・マチスのいる位置からだと建物や当真の体が遮蔽物となっているため、撃つに撃てないからだ。もう少し明るければ、当真の目を借りて彼の方で補正することで建物越しに狙撃することも出来ただろうが、現状ではそれは困難だった。
当真も必要な感覚強化はしているが、それはあくまでも近接戦闘用だ。狙撃となると求められる精度はおのずと違ってくる。
(お前に背中を任せた覚えはないがな)
当真はそう言おうと思ったが、口にはしなかった。彼の斑隊に配属されて間もない狙撃手との間に信頼関係を構築するにはまだ時間が足りない。伎倆に関してはそれほど心配はしていないが、知り合ったばかりの相手と呼吸を合わせるのは困難だ。
それはリュードの方でもそうなのだろう。実際、彼が銃爪を引いたのは、当真から充分に離れた位置の敵に対してのみだった。射線が少しでも重なる恐れがある時は一度も撃っていない。援護としてはそれで十分だと当真も思っていたが。
「どのみち、お前の位置からでは撃てんのだろう?」
「それはそうなんですけどね」
当真の言葉に、リュードは僅かに苦笑気味に答えた。当真の動きを完全に把握していないので、彼に当たらないように撃つことを考えると怖くてなかなか銃爪を引けないのだ。本来なら狙撃後は速やかに移動するのが常だが、この場を離れずにいるのもそれが理由だった。
「俺の心配はいい。お前は自分と和の身を守ることに専念してろ。危ないのは俺じゃなくてお前らだ」
一向に攻めてくる様子のない敵の様子を眺めやりながら、当真は続けた。
「俺がやつ《アルファ》ならお前らを狙うぞ。自分の居場所を宣言してるようなものだからな。敵は俺と弓夏をお前らから引き離してるから、今ならガラ空きだ。狙わない理由がない」
「こっちを狙ってくるならすぐ分かるはずですが」
「だといいがな。ともかく自分の背中に気をつけとけ。上手くすれば弓夏が直前でやつと遭遇するかも知れんが──」
その言葉を言い終えるより先に、弓夏の警告の声が聞こえた。
「和、気づいてる? 何かいるよ。駐車場の方」
「ええ? なにかって何?」
「よく見えないけど、多分二本足のやつ。外壁を登ってる」
レストハウスに向かって走ってくる弓夏の声が割り込んでくる。同時に彼女が見ている映像が転送されてきた。一見すると猿のようなシルエットが、レストハウスの外壁に張りついている。体長は六メートルほどだろうか。両腕と胴体の間には飛膜があった。
もともと遠隔視には特化してないうえ、走りながらで距離もかなりある所為か、弓夏が送ってきた映像は情報に乏しく、それ以上のことは分からない。
「うわ、ホントだ……全然気づかなかったよー……」
壁を攀じ登ってくる敵にようやく自分でも気づいたのか、和が喉奥から呻き声を洩らした。探索範囲を拡げすぎて、自分の周囲への警戒が疎かになっていたこともあるし、建物に侵入されない限り屋上までは登って来られないと油断してもいたのだろう。
「ったく、壁登ってくるとかなんなのもう。そんなの気づくわけないじゃん」
「僕、近接攻撃は苦手なんですよね……」
(そんなことはハナから期待しちゃいないよ)
和がぶつくさ文句を言っている向こうでぼそりとリュードが呟くのを耳にして、当真は皮肉っぽく唇を歪めた。だから和を護衛につけておいたのだ。最悪の場合でも彼女《ヽヽ》がどうにかしてくれるだろうが、この段階ではなるべく避けたいところだった。
「和、多分そいつがアルファだ。なるべく早めにこいつらを片付けてそっちに行くつもりだが、間に合わないだろうから、そっちで何とかしてくれ」
「好きにやっていいの?」
「任せるが、ほどほどにな。あまり壊すな」
そう言って、当真は短く息を吸い込んだ。和たちの救援に向かうためには、一刻も早くこちらの敵を片付けるしかない。そう思い、意識を無理矢理切り替える。
敵はこちらの会話の内容を理解していないのだろう、特に反応はない。だが、当真をこの場に引きつけておこうという意志に変化はないようだ。アルファの指示を愚直に守っているのか、敵の作戦に変化がないのか。
(……あれを試すにはちょうどいいか)
連中はこちらに中距離攻撃のオプションがないと思っている。そう思いたいなら思わせてやろう。油断してくれる分には文句はない。
(こんなところで使うことになるとは思ってなかったが、まぁいい。クイーン相手にいきなり使うよりはマシだろう)
内心そう呟きながら、当真は仄蒼い光を湛えた双眸を敵に向けた。
頭の中で鋭い刃を思い描き、それをそのまま手にした太刀に重ねていく。
すると、当真の手に握られた太刀の刀身が紺碧の燐光をうっすらと纏い、淡く輝きはじめた。彼の全身を覆っている結界の色と同質だが、より白っぽく、輝きも強い。
当真の動きに異変を感じたのか、敵が警戒の唸り声を洩らす。
それに構わず、当真は下段に構えた太刀を無造作に切り上げた。
風が渦を巻き、刀身とほぼ同じ長さを持つ光刃が虚空を駆け抜ける。狙いは前方右手の個体だ。刃は一瞬で獣の目前まで迫る。
敵の意表を突いたのだろう、寸前まで敵は反応出来なかった。だが、音もなく飛来する光の線が危険だと本能的に察知したのだろう、咄嗟に躰を捻って回避行動に入る。
が、やや遅かった。光の刃が結界を破り、肩口に食い込んで血飛沫を散らした。衝撃を受け止めきれず、獣の巨体がその場でよろめく。だが、結界を破った段階で威力の大半を失っていたのか、致命傷には至らない。傷口はすぐに塞がってしまう。
「ちっ、浅い……!」
当真が使ったのは、刀身に自身の結界を纏わせ、剣圧に乗せて飛ばす中距離攻撃だ。基本原理は射撃系と同じで、それほど高度な攻撃方法ではないのだが、結界そのものを切り離すため、弾丸とは比べものにならない量のマナを一気に消費するうえ、収束させて密度を上げないと威力も飛距離も望めない。
マナの総量こそ多いものの、結界の制御があまり得意ではない当真は、この技の習得にいささか苦労した。だが、これが使えると使えないとでは大違いだ。中距離攻撃のオプションがひとつあるだけで戦術に幅が出る。
必死に修練を重ね、どうにか実戦に間に合わせたものの、まだまだ練習が足りないようだ。いきなり実戦で上手く出来るようにはなったりはしない。
(やはり弓夏みたいにはいかんか)
弓夏が簡単そうにやっているのを見様見真似で覚えた技でもあるのだが、彼女の域には遠く及ばない。まだまだ修練が必要なようだった。この程度の収束率では結界を破るのが精々で、致命傷は与えられない。だが、牽制に使う分には充分だ。
(要は使いようだな。さしあたってはこれくらいでも用は足りる)
刀を斬り上げた勢いそのままに躰を回転させながら再び太刀に光刃を纏わせ、反対側の敵に向けて横薙ぎに放つ。顔面に向かって飛んできた光刃を躱そうとして敵が体勢を崩した隙に、当真は地を蹴って踏み込んだ。そのまま敵の胴を薙ぎ、躰を反転させながら返す刀で背後から襲いかかってきたもう一体の首を斬り飛ばす。
視界の隅に残る二体が小路に入り込んでくるのが見える。当真を包囲していたことなどすっかり忘れて一斉に襲いかかってくる。
幅の狭い作業用道路に巨体が並ぶと動きが制限されるが、そんなことはお構いなしだ。クイーンやアルファの指示がなければ、それほど頭のいい個体ではない。
当真の先ほどの攻撃もちゃんとは見ていなかったか、あるいは対処する必要なしと判断したのだろう、中距離で迎撃されることを恐れてもいない様子だ。もっとも、当真の方も連続で放つほどには馴れていないので、二連撃が今のところは精々だ。
当真は滑るような足運びで逆に敵との距離を一気に詰め、長い刀身を軽々と振るった。白刃が闇を切り裂いて閃き、振り下ろされる敵の前肢が斬り飛ばされる。眼前に迫る牙を身を翻して躱しながら、弧を描いた刀尖を敵の首筋に叩き込む。
円を描くようなその動きには一切の無駄がなく、さながら舞いを舞っているようで、優雅ささえ漂わせていた。
勢いよく噴き上げる血潮を軽やかに避けつつ次のステップを踏む。鮮やかに躰を反転させ、胴を真っ二つに断ち割った。その背後で、頭部を切り離された敵の胴体がどさぁっ、と重々しい音を立てて地面に転がる。もう一体もそれに続き、地面をごろごろと転がりながら崩壊をはじめていた。
「間に合うといいが」
そう呟きながら太刀を鞘に収めて、当真はレストハウスの方を見上げた。
外壁を攀じ登っていたはずの敵の姿はもう見えない。
その時、銃声が立て続けに響き渡った。
それを聞いた当真は、唇を引き締めて駆けだしていた。
「リュードくんリュードくん、ちょっと相談なんだけど」
「はいはい何ですか、和さん」
レストハウスの屋上に二つの人影があった。
一人は小柄なアジア系の少女、もう一人は長身の白人少年だ。
少女の方は身長一四六センチほどと小さく、少年の方は一九〇センチ以上ある。ちょいちょいと手招きする少女のすぐそばに少年が身を屈めている。
少年の方は光学照準器付きの突撃銃を手にしている。二人とも野戦服姿だが、少年の方はその上から制式装備の外套を羽織り、鉄帽もきちんと身につけているお陰か、どうにか兵士らしく見えている。
一方、少女の方は武器らしいものを一切身につけていないということもあってか、うっかり戦場に迷い込んでしまった民間人にしか見えない。表情にも緊張感はなかった。
「今ちょっと忙しいんで、なるべく手短にお願いしますね」
少女の話を聞く気があるのかないのか、少年──リュードの方は作戦開始前に生成して圧縮しておいた予備弾倉を掌の中に呼び出し、装填しながら答えた。装弾数は十発。事前に用意しておいた弾倉にはまだ余裕があるが、通常の慣熟訓練ならともかく、先の見えないこの状況では、ここで全弾撃ち尽くしてしまうのは避けたい。
「ほら、ボクって接近戦しか出来ないじゃない? 属性攻撃得意じゃないし」
あらぬ方向へぶんぶんと腕を振り回しながら少女──和は言った。天然パーマのきついふわふわの茶髪をヘッドギアの中に無理矢理押し込んで、同じく茶色の瞳を忙しなく動かしている。コロコロと良く変わる表情が、天真爛漫な性格をそのままに表していた。
「はあ。属性攻撃の苦手な魔導師ってのが未だに理解できないですけど」
その場に膝をつき、ライフルを構えながらリュードは言った。光学照準器を覗き込み、近接射撃用に調整する。といっても、あくまでも気休めだ。
本来ならさっさと移動して距離をとるか隠れるかすべきだし、どうしてもここでやりあうというなら兵装を変更すべきところだが、今からではどちらも間に合わない。
「ところで、敵が今どの辺にいるか分かります?」
敵が外壁を攀じ登ってくるならそろそろ現れてもいい頃合いだが、彼の感覚では何も掴めなかった。彼より感覚の優れているはずの和に尋ねてみるが、彼女からの返答はない。そもそもこちらの言うことを聞いていないようだった。
「んでさ、さっきの敵って羽根あるっぽかったよね?」
「人の話全然聞いてないですよね。人のこと言えませんけど」
適当にあしらうようなリュードの態度を咎めるでもなく、またいつ襲ってくるか分からない敵を警戒するでもなく、和は緊張感のない口調で続ける。
リュードの知る限り、彼女はいつもこんな感じだ。
溜息をひとつ吐いて、リュードは先ほど送られてきた敵の姿を脳裏に思い浮かべる。
「あー、羽根っていうか、翼ですかね? 蝙蝠みたいな」
「そうそう。だからさ、もし相手が飛んだりするようならリュードくんが叩き落として。あとはボクがぶっ飛ばすから」
和はほんわかした外見からは想像もつかないことをサラッと口にする。魔導師のくせに属性攻撃が満足に使えず、近接格闘の方が得意だと聞いて最初は冗談かと思ったが、彼女の躰に触れることすら出来ずに何度も床に這わされた身しては受け入れるしかない。
和の護衛にリュードがついているのではない。リュードの護衛に和がついているのだ。信じがたい話だがそれが現実だった。
(まぁ当然そうなるでしょうねぇ。当たるかどうかは別として)
内心そう思いつつリュードは言葉の続きを待ったが、和はそのまま何も言葉を発することなく、彼の顔を無言で見つめてくるだけだった。
どうやら彼の返答を待っているらしい。
それに気づいて、リュードは愕然とした。
「──え、終わり? 相談今ので終わり?」
「ん? 何が?」
いきなり話が終わっていた。
思わずツッコミを入れてしまったリュードを和は不思議そうに見つめ返す。言うまでもない当たり前のことを言って、すっかり話を終えたつもりでいるのだろうか。
リュードは目の前にいる少女をまじまじと見つめた。
「相談ってそれだけですか?」
「そうだけど? 何かおかしかった?」
きょとんとした表情で和はちょこんと首を傾げる。その仕草は反則的なくらいに愛らしかったが、今はそれどころではない。
どうやら本気で言っているらしいと気づき、一瞬ぽかんと口を開けてから、リュードは小さく溜息を洩らした。この斑隊に配属されてからまだ日が浅いが、どう頑張っても彼らに馴染める気が微塵もしない。
「……いえ。分かりました。それでいきましょう」
正直、こいつと話してもしょうがないといういつもの諦めだったのだが、それが通じたのか否か、和はにっこりと屈託のない笑顔を浮かべる。
「うんっ。じゃ、よろしくねー」
「はいはい」
「はいは一回でいいから。ほら、きたよ。準備して」
「はいは──え?」
リュードが再び溜息を吐こうとした時、ばさぁっ、と翼の鳴る音が響いた。
その音に彼が空を仰ぎ見ると、両腕と胴体の間の飛膜を大きく拡げた猿のような巨体が闇灰色の穹窿をバックに浮かんでいた。
「ちょ、いきなり!?」
上半身が異様に大きく、下半身は頼りなさそうに見えるほど小さい。卵形の頭の隅に小さな耳があり、その脇から頭の外側に向かって下側に大きく捻れた角が生えている。口は頬あたりまで大きく裂けたように開いていて、浅黒い乱杭歯と長い舌が覗いていた。
拡げた飛膜から伸びた爪は三本。うち一本は異様なほどに長く、鋭く尖っている。明らかにモノを掴めるような形状の手ではない。
爛々と輝く黄金色の瞳が和たちを見据えてすうっと細められた。
「うわ……」
至近で目にした敵の姿に、リュードは思わず呻きを洩らした。背筋に怖気が走る。
自分たちを餌だとしか思っていない、そんな目だ。悍ましい外見より何より、それが一番恐ろしかった。
「くるよ」
両の拳を軽く握って身構えながら、呟くように和が告げる。その声に恐怖の色は微塵もない。実戦経験があるはずのリュードよりよほど落ち着いて見えた。
その声に、リュードは弾かれたように光学照準器を覗いて素早く照準を合わせ、銃爪を引く。だが、敵は翼を大きく羽搏かせて急上昇し、銃撃を回避した。見た目から想像するよりずっと素早い。
「くそっ、コイツ、速い!」
リュードは続けざまに銃弾を叩き込んだが、敵は空中で片翼をはためかせて軽く躰を捻り、攻撃を易々と躱した。敵の動きが早すぎて追随出来ない。掠めることが出来ても直撃には遠く及ばず、弾丸は敵の結界に虚しく弾かれた。
「ちっ、ダメか……!」
結界を中和しつつフルオートでばらまけば、ある程度は直撃弾を喰らわせることも可能だろう。だが、そんなことをしていたらあっという間に弾倉が空になる。
「リュードくん、ごめんっ!」
和の声が耳朶を打つ。一体何がごめんなのかと問い返すより先に躰の横から衝撃がきて、リュードはコンクリートで覆われた床をごろごろと転がった。そのすぐ後ろで凄まじい轟音が響き渡る。
「…な……?」
どうやら和に蹴り飛ばされたらしいと気づいてリュードが顔を上げると、先刻まで自分がいたはずのところに黒い影がめり込んでいた。飛膜で胴体と繋がったその細長い腕が真っ直ぐに伸び、分厚いコンクリートの建材を鋭い爪が深々と穿っている。一歩間違えれば串刺しにされていたのは自分なのかと思うと血の気が引いた。
「後はボクにまかせて。すぐ終わらせるから」
床に転がったままのリュードを庇うように立ちはだかって、和が言った。小柄な背中しか見えないが、その顔はいつものようにほんわりと笑っているように思えた。
「さあ、いっくよーっ!」
だんっ!
コンクリートの床を踏み砕く勢いで蹴って、和の小柄な躰が一気に飛び出した。敵が体勢を整えるまで待ってなどいない。途中で何度か空を蹴って再加速しつつ敵に肉薄し、猿のような横っ面に体重を乗せた拳を叩き込む。
ぐしゃり、と拳の下で頬骨が砕け、折れた歯が飛び散った。
どぉんっ!
和の数倍はありそうな巨体がその一撃で軽々と吹っ飛ばされ、低い壁に叩きつけられる。冗談のような光景だ。
「まだまだぁっ!」
だが、和の攻撃はそれで終わらない。吹っ飛んだ敵の後を追いかけて宙を舞い、頭上から回転しつつがら空きの腹部に両膝を叩き込む。巨体の下でコンクリートに亀裂が走った。
「ぎしゃあああああっ!」
獣が苦悶の声を上げ、涎を吹き散らす。膝の下で骨が砕け、内臓が破裂するのを感じながらふわりと跳び退って距離をとった和は、口許に笑みを浮かべた。
「ほら立って。まだ終わりじゃないよ。もう少し遊ぼう」
そう言いながら、ちょいちょい、と指先で挑発してみせる。その両手と両足に、桜色の燐光が纏わり付いていた。
和は武装していないのではない。彼女自身の体そのものが武器なのだ。鍛え抜かれた躰を技を結界で包み込み、強化しているのである。
「ぐるぅぅ……」
苦しげな唸りをあげながら、敵は巨体を起こして和を睨みつけた。先ほど見せた余裕は最早ない。油断ならない敵として目の前の少女を認識している。
「ぅるぅぁぁああああっ!」
コンクリートの破片を跳ね散らかしながら、敵は鋭い爪を振りかざして和に襲いかかった。直前で跳び上がり、頭上から体重を乗せて爪先を突き込んでくる。
「しゅっ」
短く息を吐いてその爪に軽く触れた和は、そこを支点にして躰を反転させ、敵の脳天に踵を叩き込んだ。
さらに床にめり込んだその咽喉をあっさりと踵で踏み抜き、角の先端を蹴って跳び退る。それでも敵は立ち上がったが、回復が追いついていないのは明らかだった。衝撃で脳をだいぶ揺さぶられたのだろう、目の焦点が合っていない。
「あ──…。うん、もういいや」
それを見て、和はややがっかりしたように溜息を吐いた。まるで物足りない、そう言いたげな横顔に、傍らで息を詰めて見つめていたリュードは慄然とする。
これが初めて実戦に出る兵士の戦い方だろうか。自分の初陣の時はこんな余裕など全くなかった。それは今でも変わらない。いつだって余裕なんかなかった。必死で平気なフリをしているだけだ。でも、彼らはそうではないのかも知れない。
「終わりにしてあげる」
吐き捨てるようにぼそりと呟いて、和が再び地を蹴った。
次の瞬間には、彼女の腕が肘まで巨獣の胸にめり込んでいた。
「っげぁあああああ……」
敵が力なく舌を伸ばし、涎を垂らす。くるりと身を翻しながら血塗れの腕を引き抜き、噴き出す鮮血を軽やかに躱してステップを踏むと、和は無造作に右手を振るった。
ぶんっ、という風切り音とともに、リュードの目の前を丸いモノが転がる。
それが吹き飛んだ頭部なのだと気づく前に、それはざらりと音を立てて崩れていった。
一瞬遅れて勢いよく血飛沫が噴き上がり、頭部を失った胴体が重々しい音を立てて床に倒れ込む。それはそのまま一気に崩壊していった。
「はい、おしまい」
ぱんぱん、と軽く手をはたいて、和はリュードに微笑みかけた。
リュードは半ば呆然として和を見つめ返すことしか出来なかった。