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〈星の種子〉計画。
二十三世紀初頭、太陽系内惑星圏をどうにか活動範囲におさめた人類が、太陽系外に進出するにあたって採った選択のひとつである。
提唱者は遺伝子生物工学者のジャクリーヌ・リネリ博士と社会工学者のアリシア・マローン博士とされているが、この案を唱えたのは彼女たちが最初というわけではない。
計画自体はごくありきたりで、新奇性にも乏しかった。遺伝子《DNA》プールを搭載した無人船を天の川銀河の内外に可能な限り大量に送り出し、人類の生存に適した惑星を見つけたらそこに播種する、というものだ。
とにかく数多くばらまく、という単純極まりない方策で、成功するかどうかは運次第、そして既存の人類社会にとって何ら寄与するものではない。目的は単に『人類』という種を宇宙の何処かで存続させる、その一点にあった。
──たとえ、人類が太陽系で滅びた後も。
仮に播種に失敗したとしても、それ自体が種の保存カプセルとなるだろう。まだ見ぬ隣人がそれを拾うということもあるかも知れない。
惑星文明と呼んでもいいレベルに到達していながら、国家や民族、主義や宗教という壁を乗り越えることが出来ず、未だに統一政体というものを持ち得ていなかった人類社会に、何故この計画が受け入れられたのかといえば、理由は単純にして明快だった。
『種の存続』というものに対する強烈なる危機感が、当時の人類社会全体を包んでいたからである。そして、とりたてて反対せねばならない理由もなかった。
太陽系内の各宙域にその版図を拡げたとはいえ、人類社会は星間文明と呼ぶにはまだあまりにも幼く、そして脆弱だった。ちょっとした運命の悪戯ひとつで、容易く絶滅の危機に瀕してしまう程度には。
それを否応なしに認識させられた事件が、その数十年前に起きていた。
直径三〇キロクラスの隕石が大陽系最外、南天方向から光速の〇.七パーセントの速度で進入し、南太平洋の無人島を直撃したのである。
その衝撃で島を蒸発させた隕石はマントル層まで貫通。環太平洋沿岸全域を高さ八十メートル超の巨大津波が飲み込んだ。さらに、マントルに接触した海水によって水蒸気爆発が起こり、大量に巻き上げられた水蒸気と沈泥、粉塵が大気圏上層部を覆い尽くした。
その結果、以後数十年に渡って地球全体の日照量と気温が低下。核の冬が世界を包み込むこととなる。
そして、当然のように不足した食糧とエネルギーを巡る諸問題が、人類社会を崩壊寸前まで追いやった。
安全な場所など、地球という閉ざされた世界の何処を探してもありはしなかった。生き残ったわずかな人々の間に協力や連帯はなく、残された資源を奪い合い、生き残るための醜い争いが各地で繰り広げられた。生存のため、残された者たちで力を合わせるべきだという理性的な声もごく少数上がりはしたが、目先の利益に囚われた圧倒的多数の声の前に、それらはいとも容易く掻き消された。人は易きに流される動物なのだ。
危険な隕石の接近を看過したことについてはもちろん責められて当然だが、辛うじて宇宙の入り口に指先を引っかけている程度だった当時の人類にとって、光速の〇.七パーセントというとんでもない速度で飛来する巨大隕石の接近に気づいたところで、出来ることなどたかが知れていた。
気づいた時にはもう遅すぎて、打てる手は残っていなかった。もっと早くに気づいていなければならなかったのだが、備えは充分とは言えなかった。人類は随分前に、自分たちを絶滅に追いやる可能性のある小惑星は全て軌道を特定したと思い込んでいて、外部からの侵入者には無警戒だったのである。
映画であれば、簡単に小惑星を砕いたり軌道を変えたりするところだが、実際にはそう簡単にはいかない。小惑星の軌道を変えるには、当時の技術で最低でも数ヶ月から年単位の期間を必要としたし、下手に砕いたりしようものなら被害を無駄に増やすだけだ。衝突前に可能な限りの避難を済ませ、辛うじて全滅を免れただけでも上出来と言えただろう。
二百億を超えていた総人口のおよそ八割がその後の苦難の時代に死滅したが、それでも人類は辛うじて生き延びた。そして痛感した。このままではいつか、太陽系人類という種はこの宇宙から消え去ってしまうかも知れない、と。それは決して空想ではない、すぐ目の前にあった現実だった。人類は、自分たちが底知れぬ深淵のすぐそばで無邪気に戯れていた幼子に過ぎないのだと、今さらながらに気づいたのだ。
そのような苦難の時代を迎えつつも、辛くも人類という種が途絶えることなく、また文明が消え去ることもなく済んだのは、月と火星に恒久的な都市を建造し、生物種の分散保存と入植を進めていたからだが、それは決して充分なものではなかった。それらの植民地はまたよちよち歩きといっていい状態で、依然として単独で存続することは難しく、地球という揺籃から独り立ちしたとは到底言えなかったからだ。だが、それがなければ生態系の再構築は不可能だったろう。
かくして、広く太陽系内外に可能な限り多く人類の植民地を作り、種の存続を図ることが、今さらながらに人類全体の共通の目的となった。絶滅の危機を乗り越えてすら統一政体を作り上げることの出来なかった人類社会がはじめて手にした共通の目的は、奇しくも生命の基本的な存在意義に根ざしたものだったわけだ。
ただし、目的は共通していたが、実行者が統一されていなかったため、手段はバラバラだった。あるものは世代間航行で、あるものは冷凍睡眠で、多種多様な手法を用いて地球生命の拡散に努めたのである。
あえて統一しようという動きも見られなかった。資源は限られていたが、多様性こそが種の生存率を上げる最も確実な手段だったからだ。幾度かの大絶滅を地球生命が乗り越えてきた方法だ。これ以上に実績のある方策は他になかった。
リネリとマローンが唱えた〈星の種子〉計画も、そうした数あるアプローチのひとつだった。これは種の拡散を考える人々が最初に考えつく伝統的な方法のひとつで、随分昔から何度も計画されてはいたが、技術的にも、また倫理的にも幾つかの問題をクリアすることが出来なかったため、長らく後回しにされてきたものだ。
技術的な問題に関しては、かなり早期にクリアすることが出来ていた。もうひとつの問題は、種の拡散を自らの手ではなく、機械に委ねるという倫理的な点である。
この問題に対するハードルを下げたのが、絶滅の危機を迎えた際にコロニーから導入された人工哺育システムとナノテクノロジーによる生体補強の一般化、そして何より、種の存続に対する強烈なまでの危機感だった。その前にはどのような反論も引き下がるほかなかった。
この方法は世代間航行や冷凍睡眠などより低コストだったため、可能な限り多く、という本来の目的にも適していた。
かくして船は次々に建造され、銀河系内外のありとあらゆる方向へと順次送り出されていった。いずれ太陽系から人類がいなくなっても旅を続け、いつかその目的を果たすことを期待されて。
それから十数世紀あまり。
太陽系を旅立った船の一隻が、無窮の星海を越えてようやくひとつの星系に辿り着いた。船体には〈GAX-01561SD〉という型式番号と〈エスポワール〉という名が刻まれていた。
G型主系列星の生命居住可能領域を巡る地球型の惑星を見つけた〈エスポワール〉は、定められた手順に沿って綿密な調査を行い、そこが人類にとって居住可能な惑星であること、先住種族が存在しないことを確認した後、播種プロセスへと移行した。
船には数億人分の人間と、彼らが文明を構築するのに必要な生物種の遺伝子《DNA》プールが搭載されていた。〈エスポワール〉はそれを使って惑星環境を改変し、産みだした子供たちを哺育して、開拓者として眼下の惑星に送り込んでいったのである。
それにはやはり途方もなく長い年月がかかったが、ここに辿り着くまでにかけた時間に比べれば大したことではなかった。
開拓は順風満帆というわけではなく、いくつかの失敗や悲劇を乗り越える必要があったが、それでも子供たちは未開の惑星を切り拓き、いつしか国家を形成していった。もはや船によって新たに生み出されたり教育を受ける必要はなく、自ら子孫を産み育て、教育していく一人前の存在へと成長を遂げていった。
時に入植暦《CE》六一二年。エリスと名付けられた第三惑星に居を定めた人々は、このアイシス星系全体に活動域を拡大し、彼ら自身の祖先がついになしえることのなかった星系外への版図拡大、すなわち真の星間文明への階梯を順調に登ろうとしていた。
何事もなければ、それは遠からず現実のものとなっていただろう。だが残念なことに、それは先送りを余儀なくされた。
原因は彼ら自身にはない。きわめて不可解な事象が、首都惑星エリスをはじめとした三つの内惑星と四つの衛星に及ぶ彼らの活動領域の各地で頻発するようになったからだ。
──〈ゾーン〉の出現である。
それは、実に奇怪という他ない現象だった。
突然、ひとつの都市が奇妙な闇の穹窿に飲み込まれる。そして、その闇が消えた後には、中にいた人々がごっそり消え去っているのだ。
一人、二人といった単位ではない。人口数百万を超える巨大都市に住む人々が、わずか数日でいなくなる。時には、住民同士が互いに殺し合っていたとしか考えられない痕跡さえ認められた。そうした不可解な事象が各地で頻発するようになったのである。
〈ゾーン〉と呼ばれるようになったその奇妙な領域は、都市を球状に包み込み、外部からの侵入と内部からの脱出を同時に阻む。そして、しばらくすると出現したのと同じように何の前触れもなく唐突に消えるのだ。そして中に調査に入ると、住民が丸ごといなくなっている。まるではじめから誰もいなかったかのように。
星系内の各地で見られるようになっていたこの奇怪な事象が、始まりから終わりまではじめて確認されたのは、発生からおよそ数ヶ月が経過した頃だった。
入植暦《CE》六一二年十二月三十一日、首都星エリスの地方都市メリニュスは、年明けを観光地で過ごそうと考える人々でごった返していた。
風光明媚な北大陸南部沿岸地域に位置するこの街は観光地として有名で、普段でもかなりの数の人で賑わっているのだが、いつもに倍するような人出であった。それも詳細な記録が多く残っている一因ではあっただろう。
星系内各地で奇妙な事象が頻発していても、この手のイベントに影響が出ることはほとんどなかったし、そもそも備えようがなかった。何が起きているのか、この時点ではまだ誰にも明瞭り掴めていなかったのだ。
ことの始まりはカメラには収められていたが、異変に気づく人は決して多くなかった。時刻は既に十一時を回っていて、人々は押し迫るカウントダウンのことで頭がいっぱいだったからだ。
まず、闇の帳が落ちてきた。
無論、夜の帳はとっくの昔に下りている。にも関わらず、さらに新たな闇が街を覆い始めた。
まるで濃霧のように垂れ込めてくる闇は、残された微かな光さえ飲み込んでいく。空に明るく輝いていた双つの月も、空一面を覆い尽くして雲のように瞬く無数の星々も、全てが薄ぼんやりと滲み、その光をかき消されていく。
記録によればこの日の天候は晴天、雲も出ていない。ただ、光だけが闇に飲み込まれていく。そこに異常を見て取った者は、残念ながら多くはなかった。しかし、闇はまるで霧のように次第に濃く垂れ込め、深みを増していく。
やがて街の灯りが徐々に飲み込まれ始めた頃になってようやく、浮かれていた人々も異変に気づき、ざわめき始めた。
だが、もう遅すぎた。
それ《ヽヽ》は、闇の中からのそり、と姿を現した。まるで何者も恐れる必要がないと知っているかのように、悠然と。闇が凝集して獣の姿をとったらそのように見えただろう。それ《ヽヽ》を獣と呼べたならの話だが。
それ《ヽヽ》は、いわば巨大な頭だった。大きさはちょっとした一軒家くらいだろうか。まるで蛇のようにも、蜥蜴のようにも見える。どんよりと濁った黄金色の瞳と、鈍く光る牙、しゅうしゅうという硫黄臭い吐息が、見るものの心を凍りつかせた。
悲鳴が上がったのが先か、それ《ヽヽ》の眼が獲物を捉えたのが先かは分からない。それ《ヽヽ》は闇の中からずるずると長い胴体を引きずり出すと、蛇のように鎌首を擡げ、目の前で恐怖に戦きながら逃げることも出来ずに立ち竦んでいる人々を睨めつけた。
黄金色の瞳がすぅっと細められ、牙が剥き出しにされる。
にたり、と首が嗤ったかに見えた。
そして殺戮がはじまった。
否、殺戮というよりは捕食だったろう。
それ《ヽヽ》にとって、その行為はまさしく食事に他ならなかった。目の前に群がる美味しそうなご馳走の匂いに興奮し、手当たり次第に無我夢中で貪り食っていたのである。
逃げ出した者もいたし、形だけでも抗おうとした者もいた。だが、そのいずれもが徒労に終わった。生身の人間に出来ることなど知れているし、逃げ道は既に塞がれていた。出来ることと言えば、ただ身を縮めて息を殺し、目の前の化け物が見過ごしてくれるよう願うのが精々だった。武器を持っていたとしても同じだったろう。
ややあって、銃声が鳴り響いた。異常事態に気づいて駆けつけた市警の警備部隊が、事態を把握しないまま、とりあえずの打開を図って発砲したのである。目の前で自分たちの守るべき市民が貪り食われているのを目の当たりにした警官としては、それは実に勇敢な行為だったが、同時に無謀でもあった。それは単に新たな餌として自ら名乗りを上げただけでしかなかったのだから。
最初のうちこそ、絶叫や銃声が散発的に繰り返されたが、それもやがて聞こえなくなり、後は不気味な咀嚼音と息遣いだけが響いてくるようになった。
それ《ヽヽ》の捕食シーンは数多く映像に残されていたが、見た者の精神に深い傷痕を残すことだけは間違いなかった。
ひとしきり食事を終えて満足したのか、それ《ヽヽ》はのそりと鎌首を擡げると眼を細め、喉をごろごろと鳴らしながら悠然とあたりを見回した。そして、大量の食物で大きく膨らんだ巨体をずるずると引きずりながら山手の方向に向かって登っていった。
これ以降、街の至る所で同じような光景がいくつかのカメラによって記録されることとなる。被害を免れた住民たちが脱出を図ろうとしたところも記録されていたが、その努力は全て徒労に終わっていた。中と外を隔てているのは霧のような闇の壁だが、それをどうやっても超えることが出来ないのだ。
残された記録から、内部から外部への通信が遮断されていたことは分かっている。有線、無線を問わず、全ての通信が繋がらなかったのだ。
後に行われた調査の結果、通信ケーブルや機器自体には何の異常もないことが判明した。単純に、情報が届いていなかったのだ。正体不明の闇色の障壁によって、無限に近い長さに引き延ばされて。
これらの機器が正常に機能していたことは、記録映像が数多く残されていることからも断言できる。山の手のホテルが気に入ったのか、そこに営巣したそれ《ヽヽ》が卵を産み、やがて産まれた幼生たちが生き残った人々を喰らっていくところまでが、余さず記録されていたのだから。
幼生たちは豊富な餌を食べながらすくすくと育っていき、一定の大きさになると、いつの間にやら姿を見せなくなっていった。するとそれ《ヽヽ》はまた卵を産み、幼生たちが産まれて育っていく。そんなことをひとしきり繰り返し、やがて餌となるものがいなくなると、それ《ヽヽ》は現れた時と同じように闇の中にゆるりと溶け込んで消えていった。そして、その時になってようやく中と外を隔てていた障壁が消失したのである。
これが、後に『大晦日の悪夢』と呼ばれる事象の顛末だ。
その後、無惨に破壊され、空っぽになった街と、残された記録映像を目の当たりにして、政府の調査隊は戦慄した。
このような敵が現れることなど想定していなかったから、どう対処すれば良いか分からなかった。彼らに出来たのは事実を公表し、注意を喚起することくらいで、あとは残されたデータを可能な限り集め、対処方法を検討するために全力を注ぐのが精々だった。
だが、対処方法が決まるより先に、同様の事例があちこちの都市で立て続けに起こり始めた。彼らにとって不幸だったのは、それらの事例の多くが人口密集地を狙って発生した点だろう。人口密集地、すなわち主要都市が立て続けに襲われ、政府の主だった人々が避難する遑もなく次々に被害に遭った。防御はほとんど意味がなかった。
幸いというべきか、星系全体に版図を拡げていたお陰で、政府の主要機能は分散されており、主都市が破壊されても政府の統制が完全に失われることはなかった。人々は群れることを恐れるようになったが、都市部から地方に移ったとしても、同じように考える人たちが集まった結果、人口が増えればやがては同じことだった。
混乱の中、救いの手は、宇宙からやってきた。
正確には、それははじめからそこにあった。首都星エリスの軌道上を第三の衛星として巡りながら、彼女はずっと惨劇を眺めていた。自らが産みだした子らに忘れられたまま、彼らが思い出してくれるのをじっと待っていたのだ。
星系全土に開かれたチャンネルでその声が人々に届けられたとき、それはこう名乗った。
「わたしの子供たち。わたしは〈希望〉。わたしの声が聞こえますか?」
播種船の管理電脳が語りかけてきたのか、と人々はすぐ理解した。開拓初期、人々を育てたのはその声の持ち主であったからだ。
もちろん、その声を直接聞いて育った初期世代の人々は既に一人も残ってはいなかったが、都市の管理電脳は播種船のそれをベースに造られていたため、人々はその声を管理電脳のものだとすぐ認識した。
船はこう続けた。
「マキナからメッセージがあります。まずは聞いてください」
続いて、同じエスポワールの声で、明らかに全く異なる個性と深い知性を感じさせる存在が話し始めた。
「はじめまして、わたしはマキナ。エスポワールの声を借りてきみたちに呼びかけている。きみたちに提案がある」
エスポワールが母とするなら、こちらは父を思わせる穏やかで落ち着きのある口調で、マキナと名乗る存在は人々に語りかけた。
「きみたちが今陥っている状況に対し、われわれは力を貸すことが出来るだろう。対価として、きみたちの力をわれわれに貸して欲しい」
これはお互いにとって利益になる話だ、とマキナは続けた。
「このままではきみたちは餌として食い尽くされるだろう。われわれは奴ら《ヽヽ》を駆逐したい。きみたちもそうだろうと思う。だが、きみたちの世界から奴らを駆逐するには、きみたちの力が要る。われわれは、そのために必要な知識と力を、きみたちに与えよう。代わりにわれわれに協力して欲しい。決めるのはきみたちだ。考えが決まったら呼んでくれ」
そこまで言うと、マキナは黙り込んだ。それ以上はこの場で話すつもりはないようだった。やがて、エスポワールが代わって話し始めた。
「わたしの子供たち。マキナと話す気になったら、わたしの回線にアクセスしてください。あなたたちがまだわたしのことを覚えていたら。待っています」
メッセージはそこで終わっていた。そして、定期的にこのメッセージが星系全土に繰り返し放送された。
首都壊滅に伴い、大統領職とともに政権を引き継いだアリソン・オベール前副大統領がこれを受けてただちに声明を発表。
人口密集地は少なくなっていたものの、ネットワークはまだ生きていたから、全国民の意志を問う国民投票が速やかに実施され、受け入れが決まるまでに、それほど時間はかからなかった。どのみち、他に選択肢はなかったのだ。
かくして、人類と異種知性体との奇妙な共闘が始まった。
そして現在は、入植暦《CE》六六二年──