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2 異能者

彗星の如く現れた少女、佐藤世理朱。


彼女は転校初日にすさまじい勢いで俺、筒神明夫にアタック?してきた。


初めて会ったばかりでお互いのことも全然知らない。


いや、彼女とても可愛いんですよ?可愛いんですが…なんていうか、勢いがすさまじいのですよ。

なんか次々と弾丸を吐き出して来ましてですね…


それでもって、現在昼休み、ジャスト正午。世理朱に屋上へ来るように言われた。大事な話があるんだとか。真剣そう…というかまぁ、世理朱は常に表情とテンションが一定なので判断しにくいのだが、雰囲気で、呼び出されたのだ。


屋上のドアを押してやる。ノブがいかれてるから押せば開くのだ。


ひゅうと、風が顔を撫でる。

5月といえど屋上で吹く風はまだ冷たい。


雲の隙間から覗く日差しに目を細めながら彼女の姿を探す。

「……あ、来てくれましたか」


風になびく髪を押さえながら言う。


「あぁ。それで、話って?」


「はい。…あのですね、ちょっとばかし、信じてもらいにくいことなんですが…」


「…?」


「明夫さんは、言霊をご存知ですか?」


「言霊?それって、あれか?言葉に宿ると言われている霊力のことか?」


うろ覚えな知識を引っ張りだして答える。


「はい、それで合ってます」


「おぉ、そうか…それで?」


話の先を促す。


「はい。それでですね…言霊ってのは、生まれながらにして人間が持つ、実在する力なんです」


「……どういうこと?」


「つまりですね、人が話す言葉には、言霊が宿り多かれ少なかれ周りに影響を与えるんです。例えば今みたいに、あたしの言葉で明夫さんは困惑してますよね?」


「ま、まぁ…」


「それこそが、言霊の力なんです」


表情こそ変わらないものの、まとう空気は真剣そのもの。


嘘を言ってはいないようだ。


だが…


「…それって、普通のことだよな?言い方がスピリチュアルなだけで、事実言葉には色々な作用があるだろ?喧嘩の原因だったり…」


「まぁ、そうなんですけど…言葉一つとっても、それで癒される人もいれば、傷付く人もいる。言霊の力はとても不安定で、普通の人は良いように扱えないんです」


「まぁ…そりゃそうだ。言えば従ってくれる訳じゃないしな。むしろ自分の意図とは違うように解釈されることもある」


「はい、その通りです。…ですが、もしその言霊の力が非常に強かったら…?」


「…強かったら?」


「…なんでも思い通りになる」


変わらなかった表情を少し険しくしながら、世理朱は言い放った。


「ちょ、待てって。それは飛躍しすぎじゃないか?周りに影響を与えるって言ったって、思い通りになるっていうのは…」


「違わないですよ?だって、人の言葉には、常に自分の願望が含まれているんですよ?さっきの明夫さんの言葉だって、そうあって欲しくない、信じたくない、信じない、ありえない…自分の世界を基準にしか物事を捉えられない。なにも悪いとは言ってないですよ?人間は元来そういう生き物です。他人の見ている世界は知ることができません」



抑揚なく語られる言葉に、俺は鳥肌が立ってきた。


「…話が脱線しましたね、すみません。それで…えー。思い通りになるってところでしたね。普通の人が持つ言霊の力は、弱く不安定だというのはさっき明夫さんがおっしゃった例でもわかっていることですよね?自分の提案が完全に否定されたり、なんとなく提案した方向に進んだり…この違いが力の強さの違いなんです」


「…ん?でもその話だと、一番合理的で良い案が採用されるのは当たり前であって、言霊とかそういう話では……いや、違う、な。そういったことができる奴こそが、言霊の力が強い奴、と。そう言いたいんだな?」


整理しながら話す。


「はい、その通りです。さすが明夫さん、カッコいいです素敵です…」



…ここはスルーだな。


「ふふ…話しを続けますね。そうなんです、言霊の力が強いと言うことは、つまりそういうことです。様々な観点から見てもっとも理に叶ったことに強い言霊が宿るのです」


「あー…けっこう尺をとったわりに最後は軽くまとめるんだな」


「あ、いえ。これは前戯です」


「前戯!?」


「すみません間違えました、前戯です」


「一字一句違わねぇ!」


なんだ急にボケだして!


ちょっとシリアスした俺の緊張を返せ!


「…やっぱり、ですね」


落ち着かない俺とは逆に、冷静に何かを分析していた世理朱。


「やっぱりってなんだよ…」


「いえ、ただ、やはり明夫さんは影響を受けないみたいですね」


「…?…影響?」


「はい、わたしの言霊の影響です」


「あぁ、さっきのなが~い説明にあったアレか?理に叶った発言こそがーって奴。今の会話にはそんな要素ないだろ」


「んー、そうですね…では、本題に入りますか」



「まだ続くのか…もう30分は経ったぜ?昼休み終わるぞ」


「え?そんな訳ないじゃないですか。『まだまだ昼休みはありますよ?』」


「…っ!?」


世理朱が言ったとたんに、強いなにかを感じた。


そして、そうすることが決められているかのように、俺の首は屋上入り口の扉上、時計に向いた。


「…は?」


その時計の針は、正午を、12時を示していた。


「『世界の理を朱く染める』なんて名前ですが…朱く染めるなんてことはできません。無理を通すくらいしか、できません」


ゾクッと、した。


だが俺は。


その発言に対し、俺は。


「…お前は、なにを言っている…?こんなことある訳ないだろ…?時間を戻すだと?お前は…」




なぜかツッコまなきゃいけない気がして。


「お前は…!暁美ほ○らかぁぁぁあっ!」


ギリギリ(アウト?)なツッコミを入れる。


すると、目線の先のほむほ…違った、世理朱がふと微笑み。


「さすがです、明夫さん。あなたは世界の救世主さまですね。わたしの言霊を消し去りました。世界のバランスは保たれた、と」


なにか、よくわからない発言をした。


「…どういうこと、だ?」

まだ脳が追いついて来ない。見かねた世理朱は説明口調で。


「はい、わたしは理を無視して言霊の力が発現してしまう異能者。そして明夫さん、あなたは…正しい理で言霊の力に干渉できる調停者なのです」


…さらによくわからないことを言ってのけた。


そして鳴り響くチャイム。12時30分…昼休みの終わりを時計は示していた。


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