1 ツッコまれたガール
「ふふふ…」
「うぅうむ…」
隣で薄い笑みを浮かべながら視線を送ってくる女の子、佐藤世理朱。
転校の挨拶終了後、担任が「もうふたりで好きにして」と投げ出し彼女を俺の隣にしやがった。
いやまぁ、とんでもない美少女なんですがね?
嬉しくない訳がない、が。
「初めて会って、いきなり激しく突っ込んでくるんですから…もぅ」
表情を変えずに言ってのける。
「だから、いちいち誤解を招くような言い方するな!そしてこのやり取りはすでに4回目だ!何周したら気が済むんだ!」
「ヒロインの数だけ繰り返しプレイです。CGコンプしなきゃ、なんか気持ち悪いです」
「それは同感だが…」
HR終了からずっとこんな調子。
いい加減疲れちゃう、男の子だもん。
「お疲れですか、明夫さん?よろしければわたしの膝枕はいかが?なんでしたら胸に挟ま…」
「先が読めた!さっきから怒涛の下ネタ攻撃!なまじ美人なんだからなんか変な期待しちゃうよ!?ほら見て、あの辺の男子全員前屈みだよ!総勃ち!スタンディングオベーション!」
「んー…ごめんなさい、わたしは明夫さんにしか興味ないです」
これまた表情を変えずに答える世理朱。
「っ…な、なぁ…俺たち、初対面…だよ、な…?」
恐る恐る聞く明夫。
「はい、そうですよ?」
さらっと、世理朱。
「だ、だよな…じゃあさ、なんで初対面の俺にそんなこと言えるんだ…?」
「え?一目惚れです」
「「「なっ…!!」」」
クラス男子がざわつく。
「わたし、朝のやり取りでこんなに素敵なツッコミができる人がいるなんて…と感動したんです。なんでやねーんとかアホかーとか、知性の欠片もないツッコミではなく、何かに例えたり、説明っぽくてくどかったり、軽快に下ネタをかますツッコミに…惹かれました」
わずかにうつむき、上目遣いぎみにこちらを見る世理朱。
「っ…そ、それは、まぁ、その…ありがとう…て、そうじゃなくて!お互いまだ会ったばかりで全然知らないだろ?まだそういうのじゃないし学生だし、な?清く生きよう?」
「その点は安心して下さい。わたし、処女ですから」
「「「ざわっ!」」」
クラス男子がまたざわつく。
「男性とお付き合いなんてしたことないです。キスもなければ手をつないだこともありません。…あ、昔幼稚園のかごめかごめで手をつないでしまいました…なんてこと…」
軽く青ざめながら言う。
「なんの暴露話だ…てかお前の貞操観念どうなってんだよ…釘打てちゃうよ…」
「あ、そのツッコミはアレですね。凍ったバナナはガチガチに硬いって例えですね?ガチガチのバナナなんてそんな…明夫さん、とばしすぎです」
「説明するのやめてぇえ!恥ずかしいから!」
「そんなこと…わたしも、恥ずかしいんですよ…?」
声の調子も変えずに言う。
「…つ、疲れる…まだ朝のはずだよねこれ…?」
「ふふふ…朝からお盛んですね、明夫さん」
…今日は長い1日になりそうだ。