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対外的シリーズ

対外的にイイ男の味方

作者: 嵯峨愁

『対外的に宜しくない男への嫌悪感』の最後のネタ明かしと続きです。

「と、言う訳です」

 目の前に座っているのは世間的には『イイオンナ』と言える相手だった。

 すらりとした肢体をぴったりとしたスーツで身を包み、出る所は出て、引き締まった所は引き締まっている身体を惜しげもなく晒している。

 しかもこの女性の好感度が持てる所は、目に宿っている光は知性的で、頭の栄養が胸に回ったバカ女とは違うという所だ。

 デキル男であれば、是非とも手に入れたいと考えるであろう、完璧な才女だ。

 その女の口の端に浮かんでいるのは嘲笑。

 ともすれば下品に見える赤い口紅が、女の表情とよく似合っていた。

「ありがとう」

「いえいえ、ドウイタシマシテ」

 すっと差し出された爪すら完璧なフォルムを描いている。

 化け物か、と幸村は苦笑する。

「全く・・・・あの男、実はバカなんじゃないですかね?もうバレッバレ」

「そんなに?」

 女―――藤緒には頼子、と呼ばれている友人は肩を竦めながら、差し出した物から手を離す。

 そこにあるのは一枚の写真。

 本当ならば見たくない。

 頼子がこっそりと仕込んだ、会社の給湯室での一枚だった。

 奥から入り口を写したそれは、中にいる人間が出口を見ていると全く顔が見えない角度で写っている。

 幸村がそれを拾い上げ、目を細める。

 男女が一組。

 男は、以前藤緒に告白した先輩と呼んでいる男。

 女は後ろ姿なので他の人間には誰だか判らないだろうが、写した本人の頼子と幸村には誰か判っている。

「あの飲み会からこっち、なりふり構わず藤緒を追い回してます。気持ち悪い」

 少し荒い画像だが、男の表情はよく判る。

 人のいい顔に隠したケダモノのそれ。

 藤緒も馬鹿ではないのでそれを判っている。

 しかし、男はしつこく未だに追い回していると。

「で、藤緒は無事?」

「今の所は無事です。藤緒自体がもう近寄らせない様にしてますから」

 ただ、それも時間の問題だろう。

 写真の男の顔だけでも、実は切羽詰まっているのは判る。

 近々、藤緒に手を出してくるだろう、と判る程に隠し切れていない男の欲求不満な姿。

 さらりと頼子の長い髪が揺れる。

 にやりと笑いながら、幸村の方へとテーブル越しに身を乗り出す。

「どうします?やるのなら、今日か明日ですけど」

 非常に楽しそうな女の表情。

 愉悦を絵にすれば、これがそうだとお手本になりそうな程に。

「明日、かな。今日はまだこれから撮影だから」

 今二人が会っているのも、ロケで使用しているホテルのラウンジだ。

 一流ホテルのラウンジは、秘密の話しをするにはうってつけなので、都合良かった。

 それでも二人は人目を惹いてしまうのだが、頼子の容姿ならば女優で、ドラマのなにかとその場にいる人間は殊更都合良く勘違いしてくれるだろう。

 例え、その話の一部が法律を犯しているとしても。

「判りました。藤緒には秘密、ですよね」

「よろしく頼むよ」

 穏やかに笑いながら幸村は衣装であるスーツの内ポケットから一枚の紙片を出す。

 頼子はそれを受け取って確認すると、にっこり笑った。

「本人には了承を得てるから」

「本当ですか?ありがとうございます」

 ふふふ、と笑いながら頼子はその紙を丁寧に胸ポケットへ仕舞う。

 その表情は先ほどとは違う、華がほころぶ様な笑顔。

「じゃあ、そろそろ時間なのでお暇しますね」

「うん、また何かあればよろしく」

 がっつり握手を交わす二人。

 そしてその場はそのまま何もなく別れたのだった。



 そして次の日。

 玄関前での騒ぎに頼子はくすりと笑う。

 騒ぎの中心は三人。

 情けない表情をしているのは、端から見れば半ばストーカーになりかけていたあの男。

「藤緒っ!」

 情けない声で自分の友人の名前を呼んでいる。

 出世頭が泣いてるわ、と呆れるしかない。

 呼ばれた藤緒は幸村の腕に抱かれていた。

 本人は藻掻いているが。

「何であんたがいるのよ」

「お前が望んだんだろう?ピンチになったら颯爽と駆けつけて助けてくれるのを」

 にやりと笑う顔は藤緒にしか見えてないだろう。

 声だけ聞けば蕩けそうな程甘く、彼女を労っている。

 ただ頼子にも藤緒が幸村を嫌悪する理由が判る。

 残念な事に、頼子も幸村はタイプではない。

「頼んでないわよ」

 そう言いながら、藤緒の身体は抵抗しながら幸村にもたれ掛かっている。

 長年からの関係性と無自覚の信頼にプラスα。

「それに・・・・大事な俺の女に余計な虫が付くのは・・・・酷く腹立たしい」

 そう言いながら幸村は冷たく男を睨み付ける。

 これは男も堪らないだろう。

 どう考えても男としての器量は幸村の方が数段上な上に、芸能人なので顔の善し悪しでは勝負になりようがない。

「勝手な事を・・・・」

 藤緒が幸村の言葉を止めようと振り返る。

 男がそれに同調しようとする前に、幸村が藤緒の顎を掴み上げる。

 ドラマかよ、と思わず頼子は呟いてしまう。

 幸村がした事はまんま、先週見たドラマのシーンだったからだ。

 でもでもと言い続ける女に、黙らせようと熱烈に濃いキスをする。

 周囲からは男女関係なく悲鳴じみた声が多数上がる。

「ぅ・・・・?!」

 幸村が角度を変えると、隙間から覗くのは赤い舌。

 耐えきれずに脱力した藤緒の身体を顔が見えない様にして抱き寄せる幸村の目には、藤緒を抱える腕の動作ほどの甘さはない。

「手、出すなよ」

 キスと抱き寄せる所作に見せかけた、情事の愛撫に似たそれを男に見せつけ、幸村は藤緒をお姫様抱っこをして会社から出て行く。

 水を打った様な静けさの後、受付から取引先の人間まで、一斉に騒ぎ出した。

 ある者はメールを。

 またある者は電話で。

 ここであった一部始終を報告している。

 そんな中、忘れ去られた男はふらふらとその場にへたり込んだ。

 頼子はこの騒ぎの中で、携帯を取り出し、男を写真で写す。

「ふふ、ざまぁみろ、ってね」

 くすくす笑いながら、頼子はエレベーターへと向かう。

 三人がこの場に揃ったのは頼子がそう仕組んだからだ。

 手はずとしてはとても簡単だが、効果だけは成功すればでかい。

 時間になったら懇意にしている受付嬢に一瞬だけ席を外して貰い、別々の用事で藤緒と男を呼ぶ。

 人の目がなければ、男は藤緒へ言い寄ると見たが、頼子の予想通りに勤務中にも関わらず、男は藤緒へプライベートな言い寄りを始めた。

 周りが見えなくなっていた男はそこで受付嬢が戻ってきている事にも気が付かず、会社の玄関の端へと藤緒を追い詰めた。

 そこへ頼子が近くに呼んでいた幸村へメールで連絡をして、危ない所を助ける。

 ただそれだけが、これだけの騒ぎになった。

「幸村透のネームバリューって凄いわね」

 くすくす笑いながら、頼子は昨日幸村から貰った紙片を眺める。

 そこに書いてあるのはただのメールアドレスと11桁の番号。

 しかし頼子にとっては『ただの』ではない。

「ごめんなさいね、藤緒。友人を売ってでもお近づきになりたいほど魅力的なモノなの、これ」

 うっとりと眺めながら、頼子は自分のSDカードに保存している写真をスマートフォンで引き出す。

 そこに写っているのは、不惑を越えても尚も精悍な男性の写真。

 幸村が頼子を取り込む為に餌にした芸能人だった。

 それを眺めながら、頼子は藤緒と幸村の行く末など関係なさそうに、自分の幸せの為だけにうっとりと笑っていた。

頼子さんは「男は40過ぎてから」の渋好みです。なので幸村はタイプじゃないしどうこうしようとすら思いません。

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