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一章 第6話

「……ラーマ族か」

 ランドさんが呟く。見れば、蹴られた腹を右手で押さえながら立ち上がる途中だった。

「そうだよ」

 手に持った銃とサングラスを見つめながら、男は答える。素顔を見て初めて気が付いたが、彼はかなり若い。二十歳かその少し上くらいだろう。

「やっぱり、みんなそういう反応をするんだよね……ラーマ族、ラーマ族、ラーマ族って。ぼくがどういう人間かろくに知りもしないで、種族でひとまとめにする」

「お前がどういう人間かなんてしりたくもないし、知る機会もニ度とない」

「アハハ、言ってくれるなあ」

 腰が抜けてしまっているミオさんを尻目に、男は笑う――もちろん、苦笑いだ。

「ラーマ族のなにが悪い? 赤目の何が悪い? 理由もなしに“自分と違うもの”を排斥するきみたちこそ

「黙れ! お前はこいつを殺した。村のみんなを殺した!」

 激昂するランドさん。普段の温和な性格からは想像もできないその状態に、あたしはどうすることもできない。

「……別に殺してなんかない。みんな急所は外してるつもりだし、出血多量とかショックとかにならない限り助かるはずだよ」

 その人もね、と。あたしの足元に転がる黒服の兵士さんを一瞥して男は言う。しゃがみ込んで確認してみると確かに息があった――まだ、助かる。

「だったらいいのか? 死ななきゃ何をしても許されるのか!? おれたちは生きてるか死んでるかだけの存在だと言いたいのか!?」

「きみたちよりマシだと思うんだけどなあ。いくら敵とはいえ、何のためらいもなく殺すんでしょ? それも、毎日毎日」

「だま


 ――パァン!!


 再び、耳をつんざくあの乾いた音。

 何が起きたのか、一瞬理解できなかった。音が鳴る直前、ランドさんが腰から片手銃を取り男の方に向けたような気がする。

「ランド!!」

 ミオさんが叫び、ランドさんの近くに駆け寄った。ポケットからハンカチのようなものを出したかと思うと、しゃがみ込んで彼の右腕の付け根をそれで縛る。腕を撃たれたらしいランドさんは、うめき声を上げながら尻もちをついていた。

「……邪魔する人は例外だって言ったのに」

 銃口から出る白い煙にフッと息を吹きかけ、男はあたしの方を見る。

「何を……」

「ぼくはきみたちに危害を加えに来たんじゃない」

 繰り返しそう言い、右手の銃を腰のホルダーに戻した。もう片方はミオさんに向けられている。

「きみに、伝えたいことがあるんだ」

 二つの紅い目があたしをとらえていた。なんとなくその目に心の奥底まで見透かされそうな気がして、思わず身震いする。

「伝えたいこと?」

「そう」

 男は深く頷いて言うと、銃を離した右手にまだ持っていたあのサングラスをかける。赤目が隠れたことにあたしは少し安心した。

「いい? よく聞いて――今すぐ、ここから逃げるんだ」

「……?」

「明日にはディルガーナが動く――それも、並の規模じゃない。やつらは2万の兵をこの村に送り込むつもりだよ。こっちも2万人用意できれば問題はないんだけど、ここの警備隊だけじゃ無理だ。中央司令部(セントラル)に援軍を頼む手もあるけど、間に合わない」

 男はそこまで一気に言い、一呼吸置く。エリクシア側の視点で話しているあたり、やはり王国内部の人間なのだろうか。

「だから上は、この村を棄てる計画を打ち出した」

 ――えっ? と。条件反射的に訊き返そうとしたあたしの口を彼が人差し指で封じる。とりあえず話を聞け、とでも言いたげな雰囲気がサングラスの奥から伝わってきた。目は口ほどにものを言う、たとえ無表情でも目をよく見れば相手の考えていることがわかる。

「きみさえ、逃げきれればいいんだ」

 もう、何が何だかよくわからない。

 まず、この男は誰だ?

 なぜこの男はディルガーナの動きを知っている?

 そして、“上”とはいったい何のことだ? “上”はなぜ、あたしだけでも生き残ることを望む?

 ――さまざまな疑問が頭の中を巡り、絡み合い、回路がショートする。男に訊こうにも、唇に当てられた人差し指が放つ強烈な威圧感がそれを許してくれない。

「だから、今すぐ逃げて――どこか、どこか遠くへ。できれば王国から出た方がいい」

「……っ」

「西の方に、カルパスという街があるんだ。そこにぼくの知り合いのルベルって女の人がいるから、彼女に会って


「――そこまでだ、殺人鬼」


 それにしても、今日は“突然”の多い日だ。突然、男の背後からさらに別の男の声がした――いや、男の子、というべきか。

「……あ」

 少し高めな声のその人は、あたしのよく知るあの人で。

「フェイ、くん」

 フェイ=ドロテア。普段とはまるで違う鬼の形相で、男の背中に長い(サーベル)を突き付けている。

「……だから、殺してないって言って

「黙れ。お前こそ、今すぐここを出ていけ」

「アハハ、きっついなあ」

 ハスキーボイスには到底不似合いなそんなセリフを放つと、フェイくんはこちら側に回り込んだ。あたしと男との間に割り込むと、唇に当てられている男の人差し指を腕ごと引き剥がし、あたしに背中を向けて立つ。

「もう一度だけ言う。出ていけ――次はない」

 男の喉元に改めて剣を突き付け、フェイくんは脅す。相変わらずその男は無表情で、冷や汗一つかいていない。その銃を降ろせ、とずっとミオさんの方に向けられていたそれを指差して言うと、彼はおとなしく地面に落とした。

 変なところで切ってすいません……

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