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一章 第3話

 さっそくお気に入り登録やポイント送信などしていただいたようで、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。これからもがんばっていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!

 ……文章はますます読みづらくなってるような気が。

『聞こえなかったか? ソフィア、お前自身に“日記”の回収に向かってほしい』

「……でも」

 あたしは一応ここの隊長だ。何もわからない役立たずでも、突然いなくなることはためらわれる。停戦後に隊長になったあたしには勝手がよくわからないのだ。

『確かにそうだがソフィア、お前じゃないとダメなんだ。そっちは副隊長に任せておけば大丈夫だろう』

 そう来ると言い返せない。副隊長さんは16歳の男の子なのだが、あたしと同い年とは思えないほどすばらしい仕事をする。指揮にしろ統制にしろ、彼に任せておけば問題ないだろう――イアンさんがそう言うのにも頷ける。

 ただ、問題はそこじゃない。

「……なんで、あたしじゃないとダメなんですか」

 なんとなく、答は予想できた。

『悪いが、それは言えない』

 イアンさんは答えてくれないだろう、と。どうしても、と言っても無駄だと思う。彼女がダメだと言うならあたしはそれに従うしかないのだ。

「……そう、ですか」

『すまない』

 相変わらず感情のこもらない声でイアンさんが謝る。本当に謝罪の気持ちがあるのだろうか。あたしをただの道具か何かと思っているのではないだろうか。

『まあ、用件はそんなところだ』

 いやいや、と。あたしは首を振って思考を振り払った。イアンさんを疑うなんて、どうかしてる。

「……じゃあ、切りますね」

 やっぱり少し疲れているのかもしれない。変な夢は見るし――副隊長さんにお願いしたら、もう一度寝るとしよう。

『あ……』

「……どうしました?」

 まだ何かあるのだろうか。森の壁に視線を向けながら、あたしは訊く。

『……いや、変わったな、と思っただけだ』

「? ……何がですか」

『ソフィア、お前だよ』

 そんなセリフには到底似合わない無機質な声がジュワキから響く。もう少し、こう……感傷に浸るような、懐かしむような声になってもいいのに。

『昔はもっとその、何だ……陰気というか』

「……昔の話です」

『だから“昔は”と』

 フフッ、と。イアンさんが笑った――もちろん感情のない笑い声で――ような気がする。つられてあたしも笑い出しそうになってしまった。

 ――そうだ、と。あたしは一つ、大事なことを思い出す。今しかない。

『とにかく、健闘を祈る』

「……はい。イアンさんも、お元気で」

 どうして。

『では

「あっ……あの」

 どうしてそんなに、感情を隠していられるんですか、と。

 そう訊こうとしたのに、言葉が続かない。またあたしは黙り込んでしまう。

『どうした?』

「……いえ、何でもありません」

 あたしは何かから逃げるようにジュワキを耳から離し、

『そうか』

 そのまま通話を切る。ジュワキを戻してから後悔したが、もう遅い。なぜ訊けなかったのかと自問しても、答は返ってこなかった。

 ――後悔はしたくないのに。いつか、日記にそう書いた覚えがある。

 結局あたしはちっとも進歩していないのだと、そう思うと余計に気分が悪くなった。


     *


 どんよりとした雨雲が、空一面に広がっていた。

 今にも雨が降り出しそうな中、あたしは副隊長さんのもとへ急ぐ。ろくに舗装もされていないでこぼこの道に何度も足を取られそうになり、その度にしばらく立ち止まってしまう。

 ――ファルスピアが、ディルガーナと手を結んだらしい。

 ――ファルスピアという強大な味方を得た今、ディルガーナが停戦を守り続ける意味はない。

 もしあの情報が事実なら、いつディルガーナ兵が攻め込んできてもおかしくない。一刻も早く体勢を整える必要がある。しかしあたしには勝手がよくわからないので、代わりに副隊長さんにお願いしに行く――まとめるとこんなところだ。実際は“日記”の回収に旅立たなければならない、という事情があるのだが。

 あたしの部屋というか部屋もこの道も、少し高台になったところにあるため、帝国――ディルガーナとの停戦ラインを見下ろすかたちになる。いや、見下ろすために高台にあると言うべきか。ここからなら相手の動きがよく見える上に、相手の弾はここまで届かない。

 ただ、念のために手には銃を抱えてきた。あたしの部屋の壁に立てかけられていたものだ。ついでに言うと、腰に付けた黒いポーチの中には、同じ色のカバーの日記が入っている。誰かに見られたらと思うと、置いて部屋を出ることなど到底できそうになかったのだ。

 ――しばらく歩いていると、広場のような場所に出た。円形に草が刈り取られ、その上からレンガが敷かれている。端の方には街から運んできたであろう武器や食料、日用品が置かれていた。乱雑に積み上げられたそれらの前に、あたしの探している人影があった。向こうを向いているが間違いない。

「……フェイ、くん」

 思い切って、大きな声で。彼の名前を呼ぶと、すぐに振り向いてくれた。

「あ、隊長じゃないですか」

 そう言いながら近づいてくるのは、フェイ=ドロテア。我が第7国境警備隊の副隊長だ。中尉相当の地位であることを示す緑色の軍服、それに身を包んだ彼はあたしより少し背が高い。ちなみにあたしのは赤色で、少佐相当である。

 普通の黒いショートヘアに、カッコイイというよりはカワイイ系の顔。前述の通り、年はあたしと同じ16だ。

「わざわざこんなところまで来るなんて、どうしたんですか?」

 ニッコリと微笑みながら、やや高めの声で彼は訊いた。服と同じ、緑色の瞳があたしを見つめている。「えっと、その、あの……ちょっと、お願いしたいことがあって」

 まただ。隊長がこんな調子ではいけないのはわかっている。わかっていても、この性格は治りそうにないが。

「ぼくにできることなら、何でもしますよ」

 イアンさんとは違い、感情がこもっている。とても人間味のある声だ。ずいぶん久しぶりにフェイくんの声を聞いた気がする。

 ――彼なら、ここを安心して任せられる。そう、あたしの直感は告げた。

「……隊長、代わってくれないかな」


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