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一章 第2話

 ジュワキから流れるイアンさんの声で我に返る。いけない、少し考え事をしていたようだ。どれくらい黙っていたのだろうかと心配になる。

『ソフィア? 大丈夫か?』

「あ……はい」

『いきなり黙るから驚いた……で、話は聞いてたのか?』

「あ、あの……その、すいません」

 思わずしどろもどろになって答える、相変わらずだ。強く生きよう、と決めたならまずはこの性格を直さなければ、と思うのだが、こればかりはどうしようもない。性格だから受け入れるしかないのかもしれない。

『そんなことだろうと思った……いいか、もう一回言うぞ』

 イアンさんは再び短いため息をついて言う。怒っているのか呆れているのか、あたしには見当もつかない。あまり感情を顔や声に出さない人は苦手だ。

『ファルスピアとディルガーナが手を組んだ……つまり、2対1だ。今はまだいいが、停戦協定が破られたらまずいことになる』

 我がエリクシア王国とかのディルガーナ帝国は現在、停戦協定を結んでいる。あたしの管轄であるこの陣地こそ、その停戦ラインを見張る役目を果たしているのだ。高台にあるこの部屋の窓からも、森の中にそびえ立つ巨大な壁が見える。

『単純な兵力だけじゃない、挟み撃ちになる。北部はいいとしても、まさか南部に兵なんて送ってない』

 北部、つまりディルガーナとの国境。停戦中とはいえ、警備には細心の注意を払っている。だから7つもの国境警備隊が基地を展開しているわけで、あたしはこうして警備隊長の職に就いていられるのだ。

 皮肉な話だと思う。敵のおかげで自分の生活の安定が約束されている、なんて。

 ――また負のサイクルに陥りそうになる思考を無理やりに引き戻して、考える。イアンさんの話だと、この北部戦線の警備体制はまあ整っているとしても、南部――ファルスピアとの国境に兵力をほとんど割いていない、ということだ。ファルスピアが敵にまわった今、それが非常に危険な状況であることは明らかだろう。

 でも、と思う。それがあたしに何の関係がある? 確かに重要な情報だ。けれど、陸軍のトップがわざわざ、それも北部のあたしに連絡を入れてくるほどだろうか。今すぐ開戦、というわけでもないのに。

『よく考えてみろ。半年前に停戦協定を結んだのは、泥沼で戦争が進展せず、両国の兵や資本がただ失われていく一方になったからだ。しかし、ファルスピアという強大な見方を得た今、ディルガーナが停戦を守り続ける意味はない』

 と、イアンさんの声。その声からは怒りも焦りも感じられない。なぜいつも、あれほど冷静でいられるのだろう。

『つまりだな、いつそこの壁が破られてもおかしくない、ということだ』

 不意打ち。

 あたしの脳裏にそんな単語がよぎる。正々堂々と戦うならまだしも、何の対策もしていないところに攻め込まれたらあたしたちに勝ち目はない。

 あたしは思わず森の壁の方を見る。ディルガーナ兵の姿はまだないが、一刻も早く体制を整えなければならない。

「えっ……と、それじゃあ、早く兵隊さんに言いに行かなきゃ」

 だから、そう言ってデンワを切ろうとした。言いに行くといっても、副隊長さんに代わりに頼むだけだ。停戦後にこの地位に就いたあたしには勝手がよくわからない。

『そうなんだが、ちょっと……その前に、頼みたいことがある』

「……え?」

 デンワを元に戻そうとする手が止まる。――頼みたいこと?

『くれぐれも内密に願いたいんだが』

 イアンさんが少し、囁くような声になって言う。中央司令部かどこかからかけているのだろう、後ろで別の声がしている。

『――あるものの回収を頼みたいんだ』

「……はあ」

 停戦ラインにそびえ立つ壁の方に注意を払いながら、あたしは答える。あるものとはいかに。

『具体的に言うと……“日記”だ』

「日記?」

 あたしは思わず、部屋の隅に置かれた机に視線を向ける。その上には、黒いカバーの日記があった。言うまでもなくあたしのものである。

「日記って、その……今日あったこととかを書いていく、そういうの、ですよね」

『そうだが、ただの日記じゃない』

「……」

 日記は日記だと思うのだが、どうだろうか。

「それで、その……どこにあるんでしょうか」

 再び、窓から見える壁を見ながら訊く。まだ、動きはない。

『“魔法都市”だ』

「……魔法?」

 少し呆れたような声を、出してしまってから後悔した。……それより魔法など、そんな非現実的なものがあるはずがない。

『変な新興宗教か何かだろう……おおかた、魔法とかうまいこと言って信者から金を巻き上げてるような』

 ああ、とあたしは納得する。ある兵隊さんから聞いた話だが、東の方にエルマンという街があって、なんとか教祖を名乗る老人が横暴しているらしい。そのときに“魔法”という単語を耳にした気がする。

『とにかく、その“魔法都市”に行って“日記”を回収してほしい』

「……了解、しました。兵隊さんを数人、送っておきます」

『頼んだぞ、と言いたいところだが、それじゃダメなんだ。ソフィア、お前自身が来い』

「……は?」

 念のために。魔法は出ませんので、すいません。文中のはインチキですよ。

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