第23話 じゃあな!
2人の剣戟が続く。その姿はまるで舞を舞っているようで……
「綺麗ですね……」
「だね。まあ、どちらも等しく黄昏君なわけだしこうしたらこうするってわかってるからこそかもね」
「そうなのかな?」
「たぶんね。でも、時間がそんなにないんだよね」
「じゃあ……」
「後、10分が限界かな?」
後、10分でもう一人の黄昏君は消える。いや、融けて消える。
「そう言えば、外の時間はどうなってるの?」
「止まってる?ん~ん、時間の流れがこの空間がさっきまでいた空間の数百倍は早いのかな」
「と、言うことは止まっているわけではないのだね?」
「うん。だって、時間停止なんて新米の神様には無理だもん。というか、古くからいる神様でも難しいんじゃないかな」
私は2人の戦いを見守った。
( ) b
俺はだんだん消えていく自分の感覚を感じていた。
消えるの自体は怖くない。消えるといっても俺はこいつの中に溶ける。だから、こいつは俺が消えた後さらに強くなれることだろう。
「どうだ?」
「何が!」
「楽しいかって聞いてるんだよ」
「……」
剣を打ち合う。これは戦いじゃくて修行だ。
俺は自分を削り、こいつが俺から吸収する。
「うん、楽しいね。絶対に出来ないことだからね」
「お前口調も変わったな」
「君に言われたからね。強くなれって」
そう言い笑う。そしてこんな質問を投げかけてきた。
「もし、僕が君に託すって言ってたらどうしたのかな?」
「何だそんなことか」
俺が言えるのは一言だけだ。
「断るよ。お前が強くなきゃ意味がねぇんだよ」
そう……
「たとえ、お前がそれを望まなくったってそうしなきゃならねんだよ」
何故なら……
「俺はもう消えるからな」
「……え?」
声が聞こえた。驚きの声なのだろう。
「本来ないはずの肉体(まあ、本物ではないけどな)を得てるんだ。そのくらいのリスクはあるだろ」
「じゃあ、君は……」
「お前になる。いや、お前の中に溶ける。お前は俺を吸収してる」
そうだ。こいつがすべて俺を吸い尽くす前に話さないとな。
「そういや、ルナの気持ちに気付いてるか?」
シリアスな話を続けても意味はない。こいつが気にするようなことじゃねぇがぜってぇ気にするからな。
「?」
「お前さんのことが好きだそうだ」
「え?」
「もちろん、お前もルナにこと好きなんだろ?」
「///」
まあ、わかっちゃいたけどな……。
「幸せにしてやれよ?」
「……君は?」
「関係ないな。それによく考えてみろよ。俺はお前なんだ。お前がいるってことは俺もいるってことだ。悲しむな」
やばいな。段々と意識が薄れてきやがった。
剣を打ち合いながら俺は言葉を紡ぐ。
「姉さんやルナを頼む」
「うん」
「お前は強いんだ。なんだってできるさ」
「うん」
涙目になるな、全く。
もう一人の俺の剣が俺を押し始めた。そりゃそうだろう。だって俺はもうほとんど意識を保てていないんだからな。
まあ、意地ってやつだ。最後まで見せなきゃな。
そして……
「俺の負けだ」
俺は負けた。最初からこの結末になるのは決まっていたんだ。
そして、間違いなくこいつは強くなれた。だから、悔いはない。この眼から流れ出していく涙は涙じゃなく汗なんだきっと。
「ほんとに頼む」
俺はかすれた声で言う。
汗をぬぐい立ち上がる。
「うん」
握手をする。そして俺は背を向けた。
「じゃあな!もう会うことはないが負けんじゃねえぞ!」
俺は消えゆく中で最後の言葉を発した。