第22話 僕は……
「決断しろよ、俺。姉さんやルナを守れるだけ強くなるのか、此処で俺に倒されて俺と役者を変わるかをな。さあ、どうするんだ?」
僕は迷っていました。いや違います……。その言葉があまりにも的を得ていすぎました。
もう一人の僕が言うように僕は自分のことを弱いと思っています。
家で何かをするにしても基本的には姉さん頼りだし、学校でもルナさんがいなければ孤立していたと思います。
だからこそ、僕は自分は何もできない軟弱ものであり、人に助けてもらって初めて何かできるのが当たり前と思い込んでいんでしょう。
結局のところ、僕は逃げているんだと思います。何もできない。何をやってもうまくいかない。やる必要がない、出来ないのだから。そんな弱音ばかりをまるで呪詛のように自分へと植えつけています。
事実僕は、こういったネットのゲームでは有名になるくらいすごいのです。やればできるはずなのです。
なのに逃げています。であれば、もう一人の自分に説教されて当然なのでしょう。
自分のことなのに無性に腹が立ちます。何故でしょう?
原因はわかりません。ですが、これは今まで僕自身が目を背けてきた思いそのものなのでしょう。
「僕は……。僕は…………」
どうしたいのだろう……。
でも……
「強くなりたい……。強くなって守れるものを守りたい……!」
「よく言った!さあ、立って向かってこい!もう一度だ。鍛えてやるよ」
もう一人の僕が言う。もう僕は逃げるわけにはいかない。
だって、ここで逃げれば僕は自分自身に嘘をつく。何もできないと呪詛をまた植えつけることになる。
そんなのは嫌だ。もううんざりだ。
もう自分の気持ちに嘘はつかない。目も背けない。ちゃんと正面から向き合って生きていく!
(  ̄ ー  ̄ )
俺は安心した。もう一人の俺の素直な……正直な一言を聞いて。
『強くなりたい……。強くなって守れるものを守りたい……!』
言葉だけなら簡単だ。だけど、こいつの言葉にはちゃんと意志が込められていた。
再び剣を交えながら思う。
俺は、こいつの中にいてずっとこいつを見てきた。何をするにも自分を卑下し、自分を下にする。
そんなこいつのことが俺は大嫌いだった。だが、それも立派な俺なのだ。
だから、こんな機会を与えてくれたあいつには感謝をしている。
この世界に入った時から意識の片隅にいた俺を見つけ出し、俺とこの計画を練ってきた。
こいつを強くする。まあ、肉体的にではなく精神的にだが。
それも、もうすぐ終わる。
剣戟は続く。音は鳴り響き、世界に充満する。
そんな中俺は自分が少しずつ溶けていく感覚に気付いた。
あいつの言っていた通り、俺は間違いなくもう一人の水無月黄昏の中に溶けて消えるだろう。
だが、こいつはもう弱くはない。だから、安心できる。
なあ、俺。もう、任せて大丈夫なんだよな?