第11話 君は誰だ……?
「君は誰だ……?」
私は思わず言葉を漏らした。私のことを見た黄昏君の様子が全く違って見えたのだ。
何というのかな、普段の丁寧というかへりくだった感じが全くしない。むしろ、学校にいる普通の男子よりも少し勇ましく感じる気配があったのだ。あれは黄昏君の持つ気配じゃない。
だが、そんな言葉は聞こえていないかのごとく黄昏君(?)は話を始めた。
「よう、てめぇら。よくも俺の大事な人を傷つけてくれたなぁ。ゆるさねぇから覚悟しろ」
口調すら黄昏君とは似ても似つかぬものだった。しかし、そこにいたのは間違いなくPC“Twilight”であり、黄昏君であるはずなのだ。じゃあ、あの人は何なんだ。いや、此処に来た時はアレは黄昏君の持つ気配を発していたはずだ。ここに着いた時から違う気配になったのだ。
よく分からない。
始まったPK達との戦闘に目を向ける。私などにかまっている暇はないのだろう。私の周りには誰一人いない。何故なら、黄昏君(?)の戦闘はすさまじいものだったからだ。
まさに鬼神。敵の攻撃などかすりもせず、的確に攻撃を加える。しかも、相手一人につき10秒もかかっていないだろう。まさに鬼神のごとき戦いだ。
そして数分後には、HPゲージを限界ギリギリまで減らし、動けなくなったPK達と一のダメージも負っていない黄昏君(?)がその場にあった。
あり得ないものを見たと思った。普段の黄昏君は決して怒りを見せないし、まして汚い言葉は使わない。怒るにしてもやんわりと怒る。だから、私が見たのは何かの間違いなのかとも思ったようだが違うようだ。
すべてのPKを倒し終えた黄昏君(?)は私の方に近付いてきた。そして私を拘束していたロープをすべて切った。
「大丈夫だったか?」
「ええ。大丈夫です……」
そう言うと笑みを浮かべる黄昏君(?)。
疑問に思った私はやはり聞こうと思い口を開いた。
「あなたは誰なんですか?」
「俺か?俺は水無月黄昏だが、なんかちがうか?」
「はい。普段の黄昏君とは似ても似つきません」
「まあ、そうだろうな。俺とあいつは全くの別人といっても過言じゃないからな」
言っている意味がよくわかりませんでした。だから私は再度質問します。
「あなたは誰なんですか?」
「言うなれば、水無月黄昏の本来の人格だな」
私は絶句した。ということはあの黄昏君の方が偽物?
「勘違いしてるみたいだが少し違うな。俺は、消されたはずの人格だな。違うな。まあ、知りたいなら説明してやるか。今日の夜に話してやる。一度もとの人格を出すが、俺のことはごまかしてくれ。あいつにはまだ知らせない方がいい。そのうち、俺の方からアプローチをかけるからな」
「分りました。では、今晩」
そう言うと、黄昏君(?)は倒れました。その後すぐに起き上がると、
「あれ?ルナさん?」
「ああ、そうだよ?」
「あれ?僕この人たちを倒しましたっけ?」
正確には倒していないんだろうが、私は彼との約束を守るため嘘をつく。
「ああ、君が倒したんだ。格好良かったよ?」
「そうですか……。良かったです、無事で」
「ああ、そうだな……」
こうして、私の救出作戦は見事に成功した。
ちなみにPK達はプレイヤーの中で女王様と呼ばれているプレイヤーに預けられ、調教もとい更生させられたそうだ。
( 。 - ` ω - ) ン ー
その晩、私は黄昏君が寝静まるのを待ち、起き上がると静かにソファーに座り、黄昏君(?)が起き上がってくるのを静かに待った。しばらくすると黄昏君(?)はちゃんと起き上がってきて私の対面にある椅子へと座った。
「すまん。待たせたか?」
「いいえ。少ししか待っていません」
「そこは、『いいえ、私も今起きたところです』と言ってくれ。まあ、いいんだがな」
「正直、正体不明のあなたにそこまで心を開けません」
「そうかい。まあ、いいさ。で、何が聞きたい?」
「もちろん、あなたのことですよ」
「言っただろ、俺も間違いなく水無月黄昏だって」
「違います。そう言うことではありません。あなたが何者なのかではなく、あなたがどういう存在なのかが聞きたいんです」
「鋭いな。さすが、俺が惚れているだけのことはある」
「なっ!」
その言葉に私は真っ赤に赤面した。黄昏君が私に惚れている?どういう冗談だ。
「冗談じゃないぜ?まあ、本人は全く自覚していないが確実にお前に惚れているよ。まあ、これも口外しないでくれると助かるがな」
「は、はい。分っています。で、では、話をお願いします」
「おうよ。
まず、俺の存在についてなんだが、これについては正直話したくないな。これを言うってことは俺、つまりこいつの過去を話すことになる」
自らの体を指さしながら話を続ける。
「だが、今更それを言わないわけにもいかないか……。まあ、さっきの話同様に、口外禁止だぜ?」
「はい、わかりました」
私の同意を確認すると、彼は話し始めました。
「俺、水無月黄昏はな、小さい時に両親を失った。それは知っているか?」
「はい。聞かされています。今は姉と二人暮らしだと聞いています」
「まあ、そう言うことなんだが、小さかった俺は両親の死を受け入れるには心が弱すぎたんだ。
結果から言うと、俺は完全に心を閉ざして、自分の人格を封印した。そして、その上に作られた人格がお前のよく知る水無月黄昏だよ」
「どういうことなんですか?」
「簡単に言うと、今の水無月黄昏の人格は姉さんである水無月暁が必死に作り上げた新しい人格だ。で、俺の人格は心の中で封印されてたはずだったんだがな。
今日の一件で封印が緩んだんだろう。あいつはお前がいたぶられている姿を見て、見たくないと思ったんだろうな。助けたいはずの相手の痛々しい姿をみたいなんて思わんだろ?で、結果、封印は解けた。で、あいつが拒否したもんだから俺が前に出てやったってわけだ」
そうだったのか……。
「そう言うわけだ。後、俺の心はあいつの心と繋がっていて、思うことや好きなことそう言ったものは全部同じだ。だから、こいつがお前に惚れてるのは真実だ」
「そ、それは言わないでくれ。恥ずかしい……」
「つうか、お前はこいつに惚れてるんだろ?」
「そ、そうだ。問題あるか?」
「無い。むしろ、お前みたいのが相手でよかったよ」
そうか……。
「ああ、後、このゲームだがな。たぶん、クリアする頃には脱出できるはずだぜ」
「は?」
何を言い出すんだこいつ?
「まあ、理由は話せないが、それは間違いないぜ。信じてくれると嬉しい程度だ」
「良いだろう、信じておこう」
「助かる。じゃあ、今話したこと全部くれぐれも内密にな。姉さんにも伝えるのは勘弁してくれよ?」
「分っているよ。では、何かあったら夜に起こしてくれれば話につきあう」
「お、それは助かるぜ。じゃあな」
そう言って、黄昏君(?)はベットに横になって寝てしまった。
彼の話が本当なのかどうなのかはまるで分らないが信じていいと思っていた。彼もまた水無月黄昏なのだからな。
私も寝よう。明日こそちゃんと狩りに行けるといいな。
何でしょう?何かおかしい気がしてならない……。
とりあえず、次回は話をまた少し飛ばします。完結は九月以内にできるといいな……。