第09話 昔の話だ…
予告通り暁視点です。途中で蔵乃さんの視点が入りますがおおよそ問題はないはずです。
俺は蔵乃と一緒に飲みに来ていた。
酔っていたんだろう。俺は、昔の話を蔵乃に話そうとしていた。
「昔の話だ。当然聞き流してくれてもかまわん」
「突然何言ってるんですか?暁さんもうしかして酔ってます」
「さあな、つか聞いとけ。俺が昔のことを話してやろうってんだ。静かに聞くのが道理ってもんだろ~?」
俺にとっての昔の話は黄昏に関するものだ。正直、誰にも話すわけにはいかないような内容だってないわけじゃない。だが、俺はこいつを信頼しているからこそ話そうと思ったのかも知れんな。
「あれは、俺たちの両親がまだ生きていたころだ…」
( - _ - ) ウ ー ム
俺たちは父に母、俺と弟の黄昏の四人家族だった。姉弟の年齢が少し離れていること以外は少しも変なところもない平凡だが、優しくいい家族だったな。
で、黄昏がまだ小学校に上がる前だったかな?両親が事故で亡くなってな。俺はその時、高校2年でまさかと思ったよ。
死因は交通事故だ。トラックの運転手の居眠り運転が原因だったそうだ。ふざけるなって話だが終わったことだったしそれ以上のことはできるわけもなかった。
両親の通夜とか告別式なんかは父の兄である人が仕切ってくれたよ。もちろん父に似て性格も温厚いい人だったよ。遺産は全部私が相続することで方を付けてくれたのも伯父さんだったね。
告別式の日だ。黄昏が俺にこう聞いてきた。
『ねえ、お姉ちゃん。パパとママにはもう会えないの?』
小学生に上がる前だとしてもちょっと理解しすぎなんじゃないかと思ったね。でも、俺は包み隠さず答えたよ。嘘を言って嫌われるのも嫌だったしな。
『ああ、もう二度と会えない。死んだんだからな』
小学生に上がる前の子供には酷だっただろうな。いまだに俺はそう思っているさ。
それを聞いた黄昏は大泣きしたよ。それから一日くらい泣いてたと思うな。
そして、黄昏は泣きやんだ後、感情をすべてなくしていたよ。
Σ ( ゜ 口 ゜ ;
僕は暁さんの話を静かに聞いていた。
僕は暁さんの片腕としてこの何年かやってきた。だけどこの人は一度すら弱み等を吐いたことはないし常に前を向いていた。正直に言って、暁さんは僕の憧れであり、目標なのだ。
その暁さんが自分のことを話しだした。ハッキリ言って聞きたい気持ちもあったけど、この人にそういった何かを話させてはいけないと思った。
でも、暁さんの目を見て僕は話を聞くことにした。酔っているのにその目にはしっかりとした決意見たいなものが見て取れたから。
「それでだな。あいつは、感情をなくしちまったわけなんだよ。どうすればいいかもわかんねぇし、俺は姉弟だけで生きていくって伯父さんに啖呵を切っちまってたしな。とりあえず、黄昏を病院に連れてったんだ」
多分この話の先に暁さんがなぜ、あそこまでゲームによる幸せに固執するのかが分かるかもしれない。
。゜゜(´□`。)°゜。ワーン!!
黄昏は泣き終わった後、感情を無くしていたよ。俺には何が何だかわからなかったしどうしていいのかもわからなかった。
伯父さんに啖呵を切ってたわけだし助けてとも言い辛かった。まあ、だから俺は困った時は病院だそう思って病院に黄昏を連れてった。
診療を受けることになったのは小児科じゃなくて精神科だったよ。つまり、黄昏はそれほど深刻なほどだったのかもな。
簡単に言うと、黄昏は両親の死を受け止めきれなくて感情を殺したもしくは脳内に封印してしまっているようだとのことだった。
無理もないだろうな。俺は包み隠さず真実を言っちまったし、何よりあいつはものすごく両親に懐いていた。だからこそ、受け止めきれなかったんだろうな。
正直、後悔したな。何であの時正直に真実を言ってしまったんだろうってな。まあ、後の祭りだがな。結果、医者はさじを投げよ。
その後は大変だったさ。保育園に通わせられるほどの状態ならよかったがとてもじゃないけど無理そうだったしな。
昼休みの度に家に帰って黄昏にご飯を食わせたな。学校をいまさらやめられないし、大学行って将来稼がないとな黄昏の為にというきもちもあったしな。
で、俺はどうにかして黄昏の感情を戻してやろうと画策した。まあ、いろいろやったが失敗しまくってたがな。
それで、ある日俺は黄昏にゲームをやらせたんだ。結果は散々だったけど淡々とやっていはしたんだよ。
そこでだ。俺は黄昏にネットゲームをやらせた。正直に言うと俺はあまりネットゲームにいい印象を持ってなかったからやらせたくはなかった。だけど、いろいろ試してみるってことだったから仕方なくやらせたさ。
やらせたのは、一般的なMMORPG形式のものだったよ。最初はただ淡々と一人で狩りをしてレベルを上げてるだけだったよ。
で、それが一週間くらい続いたある日だ。パーティーに誘われたみたいだった。もちろん黄昏はキーボードからのチャットは全くしなかったし喋らないってことで、そのパーティーに誘ってくれた人も呆れ返っていたみたいだな。
まあ、当然あちらは溜息をついていたよ。そんな時だった。黄昏が俺に声をかけてきた。
『ねえ、これどうすればしゃべれるの…』
聞いた時は正直嘘かと思ったよ。俺はすぐさまやり方を教えると黄昏は誘ってくれていた人たちに向ってこう言った。
『はなすのなれてない。さそってくれてありがと。いれてもらえるとうれしい』
誘ってくれていた人がいい人でよかったと思ったよ。その人は怒りもせずに黄昏のキャラクターをパーティーに入れてくれたよ。
その後も黄昏はたどたどしくもゆっくりとキーボードを打ちこみながらゲームを楽しんだよ。
それからだ。黄昏はちょっとづつ感情を取り戻していった。
それを見ていた俺は決意したんだ。黄昏のためにゲームを作ってやろうってな。それが俺の原点だろうな。
それから、俺は猛勉強して国立の大学に特待生として入学。卒業後にこの会社に入ったよ。
ヾ ( - - ; )
「まあ、ハッキリ言って俺がこの会社に入ったのは黄昏のためにあいつが楽しめるゲームを作るためだ。動機としてはちょっと言えんな。みんなに楽しんでもらいたいのもないとは言わんが、俺にとってゲーム作りは黄昏のためといっても過言じゃないんだ」
俺は話をかなり省略しながら蔵乃に話していた。
「そうなんですか…。でもやっとわかりましたよ。なんで、暁さんがあそこまでゲームにこだわるのか」
「そうかい」
「ところでなんですが、犯人はやっぱりチーム内の人だと思いますか?」
蔵乃が訊いてきた。
「ああ、間違いなくな。しかも、プログラムを書き換えられるほどの知識を持ってる」
「グラフィックとかじゃそれは無理ですね。じゃあやっぱり…」
「十中八九、プログラミングを担当したチームだろうな。だが、誰だ一体。何のためにこんなことをしたんだろうな…」
その晩、俺は酔いつぶれて蔵乃に部屋まで送られた。まあ、あいつのことは信頼してるし、俺もあいつのことはそれなりに気にしてるから問題ないっちゃ問題ない。
早く犯人を見つけて、みんなを解放しないとな…。




