002:伊織の催眠術
スピンオフ第二弾!今回は伊織君です。
あ、R15です。たぶん・・・。
「いっ、伊織クン?!」
夏休み、寝苦しい夜に起き出した零はバルコニーに出て思わず声を上げた。
校門から寮へ続く路を歩いてくる伊織はタキシードで正装し、シルクハットを小脇に抱えている。折りしも、満月で妖艶とも言える雰囲気を纏った伊織はいつだったか彼が言っていた様に、彼がヴァンパイアなのではないかと錯覚するほどだ。
校門をくぐった俺は、その場所から寮の零の部屋を見上げて内心苦笑する。いつの間にか習慣になってしまったその仕草。部屋に明かりがついていると少し、安心してしまう。さすがにこの時間では眠っているだろうと思ったが・・・。
「・・・零?」
バルコニーに佇む少女の姿を認めた伊織は小さく呟いてから大きく溜息を付いた。あまり見られたくない姿を見られたかもしれない、と思う。まぁこれも本当の姿なんだけど、と心の中で思いながら大股に中庭を横切って寮に入る。一階の自分の部屋へ向かいかけて足を止め、しばらく逡巡した後階段を上って零の部屋のドアをノックした。
「・・・はい、」
小さな返事と共にドアの隙間から零が顔をのぞかせる。こんな時間の訪問者に驚きもせず警戒もせずドアを開ける辺り、零らいしな、と思いながらドアの隙間に足を挟んでみる。
「話がある、入るぞ。」
「えっ、ちょ、ちょっと!」
強引な態度を見せるとすぐに慌てて少し警戒する様が面白くてついついからかってしまう。
・・・一瞬、貴族みたいって思った私がバカだったかも・・・。
内心零は思いながら、それでも伊織を部屋に招き入れる。
「失礼、お嬢さん。」
優雅に一礼して部屋に入ってくる伊織にやっぱり貴族かも、と零は思う。御曹司、ならそう言う立ち居振る舞いは自然と身についているのだろう。普段が普段なだけにギャップが激しすぎてついていけない。
「こんな夜更けにお招き頂いて光栄です。」
「ま、招いてなんかないよ。伊織君が勝手に・・・」
言いかけた零の言葉を遮って、伊織はじっと零の瞳を見つめる。
「催眠術、かけてやろうか、」
「なっ、何急に言い出すの?!」
「ドイツには好きな女に催眠術をかけて落とすってウラワザがあるのさ。」
ニヤリ、と伊織は笑って驚いている零を捕まえて額の中心を中指で触れる。
《 Meine Puppe《俺の人形》 》
耳元で囁く。たった、それだけ。
瞬間にふっと力の抜けた零の身体を抱きとめる。
「零?」
「・・・・・?」
呼びかけると、ゆっくりと顔を上げて俺の顔を見る。こんなにも簡単に上手くいくとは思わなかった。
「キスしてごらん?」
優しく微笑みかけると、零は背伸びをして俺の頬にキスをする。眩暈がしそうなほど従順な零は本当に人形のようだ。美しく、完成されたオートマータ。
「お前は俺の望みを叶えてくれるんだろ?」
優しく髪を撫でると、子犬の様に目を細めて胸に顔を埋めてくる。催眠術とわかっていてもドキドキしてしまう自分が悲しい。
「こっちへおいで、」
零の部屋のローソファーに座って手招きすると零はちょこんと膝の上に座って首に腕を絡めてくる。すりすりと耳元に顔をすり寄せて身体を丸め俺の胸の中におさまってしまうと満足げに微笑んで大人しくなった。
「零、キスは?」
チュッ、と頬に唇が触れる。やわらかくて温かい唇は俺の心をかき乱す凶器のようだ。
「そこじゃダメだ。」
間近にある零の瞳を覗き込むと、零は恥らうように俯いてしまう。
「ちゃんとできたらご褒美をあげるから、ちゃんとキスしてごらん?」
優しく微笑むと、零は潤んだ瞳でしばらく俺を見つめ、それから瞳を閉じてゆっくりと俺の唇にやわらかい唇を重ねる。その一部始終をずっと眺めていた俺は甘い香りのする麻薬のような零の唇が重なると同時に自分の中の理性が消えていくのを感じていた。
「・・・・ッんっ」
俺の首に回されている零の手を掴んでソファーに押し倒し、激しく零に口付ける。
「零、舌出して、」
睫毛が触れるほど近い距離で零に囁くと、零は言われるままに小さく口を開いて舌を出す。俺はためらわずに零の口中で舌を絡める。
「・・・んぅっ、ん・・」
苦しいのか、キスに感じているのか、零が腕の中で小さく喘ぐ。
・・・麻薬みたいだな、ホントに。
伊織は甘い香りのする零の唾液に頭の奥が痺れるような、記憶を奪われるような錯覚を覚える。どれだけ深く口付けても足りなくて、深く、深く舌を絡める。そしてふと、零のパジャマのすそがめくれ、胸の下辺りまで肌蹴ている事に気付くと片手を零の素肌に這わせた。
「・・・!」
ウエストの辺りから零の身体を辿る俺の手にビクン、と零の身体が震える。俺は零の唾液の味を楽しみながら、ゆっくりと零の胸に手を這わせる。
「・・・これは反則だろ、」
マシュマロの様にやわらかい零の胸。小さくてかわいらしい容貌とは裏腹に手に余るそのふくらみは男の願望をそのまま形にしたような柔らかさで俺を惑わせる。
「お前は、本当にカンペキだな。」
呟いて、その膨らみに口付けて強く吸うと、零の白い肌に赤い痣が残る。
・・・ここにも、残しておくか、
心の中で呟いて、零の首筋に唇をつける。髪で隠れない、明らかに誰からも見える場所を選んで、赤い痣をつけた。
「・・・俺は、こう見えても紳士だから、この先は、また、今度、な。」
このまま暴走してしまいたい心と身体を必死になだめて、俺はくったりとソファーの上に倒れている零を抱き上げて、ロフトの上に寝かせる。
《 Haben Sie gute gute Nacht bitte einen Traum.《お休み、いい夢を。 》
耳元で囁くと、穏やかな寝息が返って来る。
明日の朝になれば、きっと全て忘れているだろう。俺の残した痣だけが俺の罪を知っている。
この続きができるのは、いつになるんだろう。そう思うと、少し自分の理性を恨みたくなった。
翌朝、朝食のためにいつも通りかおるに連れられて食堂に姿を現した零に俺もいつも通りにちょっかいを出す。席に着いた零を背中から抱きしめて、首筋に顔を寄せる。
「この痣、どうしたんだ?」
「・・・わかんないんだけど、朝起きたら痣になってたの。こんなトコどこで打ったんだろう・・・」
目立つよね、と肩を落とす零。いつもなら放して、と真っ赤になって騒ぐのに今日はやけに大人しい。
「ヴァンパイアに噛まれたんじゃねーの?お前、無防備だから。」
耳元で囁くと、ハッとなった零が真っ赤になる。
「伊織、零ちゃんから離れろ、」
明らかに怒りを含んだかおるの声。
「はいはい、わかりましたよナイト様。お前の愛しい姫君が夜中にヴァンパイアに噛まれたらしいぜ?ナイトのクセに、そんな事許していいのか?」
俺の意味深な言葉に、かおるの表情が変わる。鋭く俺を睨み、次いできょとんとしている零に視線を投げる。
「深読みすんなよ、俺だって、一応紳士だからな。」
かおるの肩を叩いてその場を立ち去りながら、昨夜の麻薬のような零の唇を思い出して体の芯が熱くなった。
R15って、どこまで許されるんだろう・・・。いちお、もっとやっちゃってもいいんだよね・・・。