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001:健の妄想

『いつも君がいた』からのスピンオフです。第一話は本編では報われていないたける君の妄想です。


 本当に作りものの人形のようにどこから見ても、完璧に美しくて可愛いヒトを生まれて初めて見た。たとえるなら、ルネサンス時代の絵画のように繊細で掴もうとするとフッと消えてしまいそうな儚さをまとった不思議な子。ものすごく完成された美しさがあるにもかかわらず少し怯えたような瞳をしていて捕まえようとしてもすぐに逃げてしまう子ウサギを連想させる。

 初めて会った瞬間に、この子を守りたいと思ってしまった。ずっとそばにいて、一緒に笑っていられたらどんなにいいだろうと。そんな風に思ったのは、これが初めてだ。

 正直、自分に言いよってくる女は多い。この高校での人気ランキングは入学以来ずっと上位だったし、自分でもモテる方だと思う。でも、いくらモテても、自分が好きな子が振り向いてくれなければ、何の意味もない。


 たけるは寮の部屋でいつも通り筋トレをしながら溜息をつく。脳裏に浮かぶのは昨日、雨の中で濡れたまま立ち尽くしていた、れいの姿。かおるから、体育祭の時に一般教養棟の女子から酷い陰口を聞かされた事やタチの悪い男子生徒に絡まれた事などを聞かされて、自分が零が塞ぎ込む事になった原因を作ったのではないか、と思うとこれまで感じた事のない痛みが胸に広がる。


《謝ったって、零ちゃんは俺のせいじゃない、って言うんだろうな》

部屋の真ん中に寝転んだまま健は思う。いつもそうだ、零は絶対に人のせいにしたりしない。いつも人の事ばかり心配して、自分のことは全然見えていない。だから余計に、気になって、守りたくて。

 

 目を閉じて、零を笑顔にするためにはどうすればいいか、考えてみる。あの日みたいに、街へ買い物に行こうか?可愛いものがたくさん売っている雑貨屋へ行けば、少しは笑ってくれるかな。。。




 ・・・・・


 街外れにある見晴らしのいい公園を二人で歩きながら、久しぶりのデートが晴れてよかった、健は思う。

「零ちゃん、こっちおいでよ。あんまり離れんなって、」

少し前を歩く零の腕を捕まえて引き寄せると、身体の小さな零は少しよろめいて腕の中に納まる。少し赤い顔をして、それでも肩を抱いた健の腕を振りほどこうとはせずに隣を歩く。

「・・・健君、優しいね、」

ポツリ、と零が呟く。そうさ、俺はいつだって、零ちゃんのためならなんだってするよ、といいかけた言葉を飲み込み、その代わりに肩を抱く手に力を込める。

「私ね、ずっと思ってたんだ。健君がいつもそばにいてくれたらいつも笑っていられるのに、って。」

「え・・?」

「今日は、ありがとう。」

にっこり、と笑う零の笑顔に健の理性は簡単に崩れ落ちた。

辺りは夕焼けのオレンジの光が満ちて、初夏の風が心地よく二人の間を吹き抜ける。

「零ちゃん、」

ぎゅっと、零を抱きしめる。小さくて、しなやかな零の身体は子猫を抱いているようで抱きしめているのに目の前から消えてしまいそうで思わず抱きしめる腕に力が入る。

「零ちゃん・・好きだ。俺のそばで、ずっと笑っててくれよ。俺、零ちゃんがずっと笑顔でいられるように何だってするから。」

「健くん・・・」

腕の中の零が身じろぎして健を見上げる。夕焼けに染められた肌がピンク色に染まり、少しうるんでいるように見える瞳が閉じられる。

「・・・・・」

痛いほどに暴れる鼓動を抑えられないまま、健は零の頬に触れる。こんなにも小さくて、こんなにも繊細な天使が、自分の腕の中にいると思うだけで加速度を上げて心臓が暴れ出す。

「好きだ、」

もう一度呟いて、零の唇に自分の唇を重ねる。キスは初めてではないけれど、震えるほど苦しくなる。零の柔らかい唇は麻薬のように甘い香りがして、健は何度も何度も、ついばむようにキスを繰り返す。抱きしめた腕を、触れた唇を放すのが辛くて、それでも今いる場所が公園の真ん中だと思いだして、健は零から離れる。

「ごっ、ごめん、あ・・・あっち、あっち行こうぜ?」

自分の顔が赤くなっているのを夕焼けのせいにして、零の手を取って歩き出す。高台の公園からは夕焼けの空が綺麗に見える。ふと気がつくと、手をつないで歩く恋人たちが足を止めて空を見上げている。

「・・・私たちも、恋人みたいに見えてるのかな、」

隣の零がポツリ、と呟く。

「恋人、だろ?」

「・・・・うん、」

ぎゅっと、つなぐ手に力を込めると、恥ずかしそうに頷いて零が笑う。抱きしめたくなる衝動を必死に抑えて手をつないだままゆっくりと歩く。ただそれだけの事が嬉しくて、心臓が音を立てて高鳴る。

 街を見下ろせる公園。少し高めに設計された柵越しに見える景色は夕焼けに染まる空と家路に急ぐ人々のざわめく街。背の低い零は柵が邪魔、と少し不満げにすねた顔をしている。

「・・・零、」

「・・・・!」

健は柵越しに夕焼けの空を見つめていた零を後ろから抱きしめる。すっぽりと腕の中に収まってしまう零を抱きしめると甘い香りがする。

「好きだ、」

何度言っても足りないくらい、好きすぎておかしくなりそうだ、と思う。他の男と話しているのを見るだけでも心が痛くなる。自分がこんなにも人の事を好きになれるとは知らなかった。零のためならどんなことでも耐えられると思う。零の笑顔を守るためならたとえ誰かを傷つけてもいいと思ってしまう。

「・・・苦しいよ、」

強く抱きしめた腕の中で零が呟く。

「ご・・ごめん、」

「・・・ううん、平気、」

「放したくない。」

もう一度、抱きしめる腕に力を込める。

「・・・放さないで、」

聞き取れないほど小さな声で呟かれた零の言葉に、健は後ろから抱きしめていた零の身体を腕の中で180度回転させる。

「離れるなよ、」

目が合うと、照れてしまう。照れ隠しにそう言うと、零は小さくうなずく。まっすぐに自分を見つめる瞳に魅入られそうになりながら、そっと零の頬に触れる。

「ずっと、一緒にいよう。」

顔を近づけると、潤んだ零の瞳がそっと閉じられる。長いまつげにピンク色の唇、目を閉じてしまうのがもったいないと思ってしまう完成された美しさに見とれながら、健を受け入れるようにうっすらと開いた零の唇に深く、深く口づけた。



「あーーーーーーっ!もう無理だっつーの!!」

ガバッと勢いよく起き上って健は叫ぶ。考えただけで体中が熱く火照っている。本人を目の前にすると本音どころかまっすぐに目を見る事さえできない自分のふがいなさに健はがっくりと肩を落としたのだった。 

以上、健の妄想でしたっ!一話目なので軽めにしてみましたー。本編に疲れたらたまにこっちで息抜きします。。。本編とは無関係に作者の欲望のままにイロイロしますので・・・。どうぞお付き合いくださいませ☆

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