話をする2人③ ヨシコさんの謎の目的
ある高校の図書室の談話スペース。
高校2年生の僕、深水静海はイスに座って本を読んでいる。
対面には幼馴染の鹿屋夏乃が座っていて本を読んでいる。
夏乃は読んでいた本『遊びと人間』を閉じて丸テーブルの上に置く。
「ねえ静海、ちょっといい」
声をかけられた僕は本を開いたまま答える。
「僕は今『半日村』を読んでいる。みんなで力を合わせている熱い場面だ。読み終わるまで待ってくれ、夏乃」
「なんで静海はいつも絵本読んでるの?」
「……」
僕は無視する。
「ねえ、なんでなんで?」
僕は絵本を閉じる。
「……なんでだと思う?」
「漢字読めない馬鹿なんでしょ」
「そんなわけないだろ」
「じゃあなんで?」
「僕は小学1年生のいとこと一緒に住んでいる。彼は友達をつくらない。だから友達の大切さを知ってもらうために僕は彼に絵本を読み聞かせている」
「へーえらいじゃん、どんな子なの?」
「苗字は僕と同じで、深水激竜と言う」
「げきりゅう?」
「激しい竜と書く。彼は激竜とは英語でデンジャラスドラゴン、DDだぜと自称している。あとカッコいいものが大好きで、竜の指輪をつけて竜のネックレスを首にかけている」
「小学1年生で中2病なの!?」
「それだけなら可愛いものだがな。親の言うことは聞かないし、わがままばかりで困る」
「気になるからその子の話してよ」
「この前なんて算数にキレてたぞ、すごい視点からキレてた。彼を納得させるのが大変だった」
「静海、あなた高校生でしょ。数学じゃなくて算数にキレるなんてやめなさいよ恥ずかしい」
「僕じゃねえよ、激竜君がキレてたんだよ」
「算数の何にキレるの?」
「じゃあその時の話するか」
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1週間前、深水家。
「何だこの問題! 意味わからねえぞ」
居間の机で宿題をしている小学1年生の激竜君がわめていている。
「おい、サイレントシー、来てくれ!」
彼は叫ぶが僕はサイレントシーではないので無視する。
「サイレントシー! 静かな海でサイレントシー、おい無視するな! 静海君来てくれ」
名前を呼ばれたので僕はしぶしぶ向かう。
「静海君! この問題がおかしんだよ」
激竜君が宿題のプリントを僕に渡してきたので読んでみる。
そこにはイラストが描かれている。
アイスクリーム屋さんがあり、子どもたちが並んでいる。
問題文にはこう書かれている。
『アイスクリームやさんに子どもたちがならんでいます。
ヨシコさんのまえには5人います。
ヨシコさんのうしろには5人います。
ならんでいる子どもたちはぜんいんでなん人でしょう?』
僕は考える。
うーん。
これって1年生の算数の問題にしては難しくないか?
だってこれひっかけ問題だろ。
ヨシコさんの前と後ろに5人だから、足して10人と答えると間違えだ。
ヨシコさん自身も数に含めないといけないから答は11人になる。
「激竜君、この問題のどこがおかしいんだ?」
「ヨシコさんがおかしい!」
「ん? どこがおかしい?」
「ヨシコさんは自分の後ろの人数を数えている!」
「そうだな」
「なんでヨシコさんは自分の後ろの人の数を数えるんだ! 俺は前の人は数えるけど後ろの人を数えたことが無い、意味ねえだろ!」
意味がない?
「……あっ、確かに!」
よくそんなことに気づくものだ、と僕は感心した。
前の人数を知れば待ち時間の推測をできるが、後ろの人数を数えることには意味がない。
激竜君の言っていることは正しいのだ。
そんな彼の疑問に対して、細かいことは気にするな勉強なんてそんなもんだと拒否することは簡単だ。
だが本気で怒っている彼を納得させようとする努力はすべきかもしれない。
それで納得しなくてもいいが、子どもの真剣な問いに向き合って努力したことが大切なのだ。
僕はプリントを彼に返す。
「激竜君、僕は変なことをしたヨシコさんの気持ちを考えてみようと思う」
「静海君、できるの?」
「僕は男だ、だから女のヨシコさんの気持ちを理解するのは難しい。だが僕には性格の悪い女友達がいてよく会話している。だからわかるかもしれない。少し時間をもらうぞ」
そして、僕は考える。
まず人間は基本的には損得勘定で行動する。
ヨシコさんの行動には何らかの得があるのだ。
アイスクリーム屋。
自分の後ろの人数を数える意味。
それは金にはならない。
感情的に得?
喜びを感じる?
……。
そうか、わかったぞ。
「激竜君、僕の考えを言う」
「うん」
「このアイスクリーム屋さんには1日に数10個しか販売しない限定の大人気アイスがあり、1人1個までしか買えない。
列に並んでいるヨシコさんはそれが残り6個であることが見えた。前の5人と自分が買えばちょうど売り切れる。自分より後ろに並んでいる子どもたちはみんな買えなくてくやしい思いをする。
『くやしい思いをする子どもは何人かな、ぐへへへ』と気になったから後ろの人数を数えたんだ」
「す、すげえ! ヨシコさん性格悪い」
「おそらくこれが答えだ」
「静海君、なんでわかったの?」
「僕には性格の悪い女友達がいるからな。彼女の思考を考えたらわかった」
「すげえ」
「これで友達の重要性がわかっただろ、性格の悪い人ともある程度仲良くしておくんだ。そうする意味がある」
「俺、静海君の友達のその女の人に会いたい!」
「えっ? まあ機会があったらね」
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回想終了。
「という話があったんだ」
僕は夏乃に話した。
「小学生を納得させるなんてやるじゃん、静海」
「ああ、なんとか閃いたからな。それで激竜君が夏乃に会いたがってるから、今度僕の家行かないか?」
「激竜君が会いたいのは性格の悪い女でしょ? 私が行っても意味ないでしょ」
「えっ?」
「えっ?」




