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Beat Drop Love

掲載日:2026/06/22

【Beat Drop★Love】

第1期 第12話「あの日の振付師と、隠しきれない才能」


 発表会から一週間後。


 サークルに外部の練習コーチが視察に来るという知らせが届いた。業界で名を知られた振付師——奏太の過去を知っている人物だった。


「……まずい」


 奏太は頭を抱えた。


 もし正体がバレれば、これまで「普通の部員」として積み上げてきた関係が変わってしまう。距離ができる。余計な遠慮が生まれる。


(でも——隠し続けることにも、限界がある)


 視察当日。コーチが練習を見るなか、奏太は極力目立たないようにしていた。


 しかし、そこにハプニングが起きた。


 なつきの動きが突然止まった。床に膝をついて、「ごめんなさい」と呟いた。


 後で聞けば、家庭のことで昨日も眠れていなかったらしい。


 指導コーチが困ったように立ち止まり、メンバーも動揺した。


 奏太はなつきの前に進み出て、静かに言った。


「なつき、立てる?」


「……立てます」


「じゃあ、一緒に最初から踊ろう」


 音楽が流れ始める。奏太となつきが、真正面で向き合って踊り始めた。


 奏太は、普段「普通に」抑えていた自分の動きを——少しだけ、解放した。


 場が静まり返った。


 外部コーチが息を飲む気配がした。


 踊り終えると、ひなたが奏太の背後から静かに言った。


「……奏太くん」


「……うん」


「プロ、だったんですか」


 奏太は振り返って、全員の顔を見渡した。


「……ごめん。隠してた」


 沈黙。


 最初に口を開いたのは——あかりだった。


「……で、それがどうした」


「え?」


「別に変わんないでしょ。今まで一緒に踊ってきたんだし」


 ゆずが「そうそう!」と続けた。「奏太くんは奏太くんじゃん!」


 リリカが「むしろ私の振付すごい人に作ってもらってたってこと!? テンション上がる!」と叫んだ。


 さくらが「……まあ、知ってた」と澄ました顔で言い、つかさが「私も」と頷いた。


 なつきが奏太を見上げて、小さく言った。


「……ありがとう、さっき」


 ゆずきが「そやな」と関西弁で頷いた。ことのが静かに微笑んだ。


 ひなたはしばらく奏太を見ていた。それから、また「楽しんで踊りましょう」と言ったときの笑顔で、言った。


「……続けてください」


「……何を?」


「ここでの時間を」


 奏太は小さく頷いた。


 胸の中が、温かかった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第12話「あの日の振付師と、隠しきれない才能」 了

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◆ 第1期 後編(第13話〜第24話)へ続く ◆

【Beat Drop★Love】

第1期 第24話(最終話)「ビートはまだ、鳴り続ける」


 コンペの翌週。PRISMは通常の練習に戻っていた。


 みんな少し変わっていた。


 あかりはまだ口が悪いが、練習が終わると「……今日もお疲れ」と言うようになった。ゆずはコンペの映像を繰り返し見て「次はもっと上手く踊る」と宣言した。リリカは「笑うみたいに踊る」の意味が少しわかってきた、と言った。なつきは自分から「今日も一緒に練習していいですか」と声をかけてくれるようになった。さくらは練習中に笑顔を「作る」のではなく、踊っているうちに自然に出るようになってきた。ゆずきは「次こそもっとかっこよく踊ったるわ」と関西弁全開で言った。ことのは、夜の練習後に「今日も楽しかったです」と言えるようになった。つかさは、奏太に「来期もよろしく」と短く言った。


 ひなたは変わらず凛としていたが——たまに、奏太のほうを見て、少しだけ笑うようになった。


  ◇


 夜の練習室。奏太がひとり残って鏡の前に立っていると、ひなたが戻ってきた。


「……また残ってた」


「また来てくれた」


「……見回りです」


「毎日来てる?」


「……来ています」


 ひなたは鏡の前に並んで立った。


「奏太くん」


「うん」


「来年も——PRISMに、いてくれますか」


 奏太は少し間を置いてから言った。


「当然でしょ」


「……当然?」


「みんなの踊り、まだ全然見足りない。ひなたさんの踊りも」


 ひなたは奏太を見た。その目に、何かが揺れていた。


「……私の踊りを」


「特に」


 ひなたは少しだけ、鏡から目を逸らした。


「……そういうこと、さらっと言うんですね」


「嘘じゃないから」


「……知ってます」


 少しの沈黙。


「では——来年も、よろしくお願いします」


 ひなたが差し出した手を、奏太は握った。


「こちらこそ」


 鏡の中に、ふたりが映っていた。


 それから奏太は——鏡の中の自分に、久しぶりに「振付師」の顔を見た気がした。怖くなかった。


(また、踊れる。また、作れる)


 外から練習室の窓越しに、街の明かりが見えた。夜はまだ続いている。ビートは、まだ鳴り続けている。


  ◇


 翌日の練習室。全員が揃ったとき、ゆずが叫んだ。


「来年のコンペ、今度は優勝するよ!!」


「当然」とあかり。


「やったるわ!!」とゆずき。


「楽しみましょう」とリリカ。


「……参加します」となつき。


「まあいいか」とさくら。


「次こそ」とことの。


「やるか」とつかさ。


「みなさん——楽しんで踊りましょう」とひなた。


 全員の視線が奏太に集まった。


 奏太は笑って言った。


「——じゃあ、振付始めようか」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第24話「ビートはまだ、鳴り続ける」 了

◆ Beat Drop★Love 第1期 完 ◆

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