Beat Drop Love
【Beat Drop★Love】
第1期 第12話「あの日の振付師と、隠しきれない才能」
発表会から一週間後。
サークルに外部の練習コーチが視察に来るという知らせが届いた。業界で名を知られた振付師——奏太の過去を知っている人物だった。
「……まずい」
奏太は頭を抱えた。
もし正体がバレれば、これまで「普通の部員」として積み上げてきた関係が変わってしまう。距離ができる。余計な遠慮が生まれる。
(でも——隠し続けることにも、限界がある)
視察当日。コーチが練習を見るなか、奏太は極力目立たないようにしていた。
しかし、そこにハプニングが起きた。
なつきの動きが突然止まった。床に膝をついて、「ごめんなさい」と呟いた。
後で聞けば、家庭のことで昨日も眠れていなかったらしい。
指導コーチが困ったように立ち止まり、メンバーも動揺した。
奏太はなつきの前に進み出て、静かに言った。
「なつき、立てる?」
「……立てます」
「じゃあ、一緒に最初から踊ろう」
音楽が流れ始める。奏太となつきが、真正面で向き合って踊り始めた。
奏太は、普段「普通に」抑えていた自分の動きを——少しだけ、解放した。
場が静まり返った。
外部コーチが息を飲む気配がした。
踊り終えると、ひなたが奏太の背後から静かに言った。
「……奏太くん」
「……うん」
「プロ、だったんですか」
奏太は振り返って、全員の顔を見渡した。
「……ごめん。隠してた」
沈黙。
最初に口を開いたのは——あかりだった。
「……で、それがどうした」
「え?」
「別に変わんないでしょ。今まで一緒に踊ってきたんだし」
ゆずが「そうそう!」と続けた。「奏太くんは奏太くんじゃん!」
リリカが「むしろ私の振付すごい人に作ってもらってたってこと!? テンション上がる!」と叫んだ。
さくらが「……まあ、知ってた」と澄ました顔で言い、つかさが「私も」と頷いた。
なつきが奏太を見上げて、小さく言った。
「……ありがとう、さっき」
ゆずきが「そやな」と関西弁で頷いた。ことのが静かに微笑んだ。
ひなたはしばらく奏太を見ていた。それから、また「楽しんで踊りましょう」と言ったときの笑顔で、言った。
「……続けてください」
「……何を?」
「ここでの時間を」
奏太は小さく頷いた。
胸の中が、温かかった。
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第12話「あの日の振付師と、隠しきれない才能」 了
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◆ 第1期 後編(第13話〜第24話)へ続く ◆
【Beat Drop★Love】
第1期 第24話(最終話)「ビートはまだ、鳴り続ける」
コンペの翌週。PRISMは通常の練習に戻っていた。
みんな少し変わっていた。
あかりはまだ口が悪いが、練習が終わると「……今日もお疲れ」と言うようになった。ゆずはコンペの映像を繰り返し見て「次はもっと上手く踊る」と宣言した。リリカは「笑うみたいに踊る」の意味が少しわかってきた、と言った。なつきは自分から「今日も一緒に練習していいですか」と声をかけてくれるようになった。さくらは練習中に笑顔を「作る」のではなく、踊っているうちに自然に出るようになってきた。ゆずきは「次こそもっとかっこよく踊ったるわ」と関西弁全開で言った。ことのは、夜の練習後に「今日も楽しかったです」と言えるようになった。つかさは、奏太に「来期もよろしく」と短く言った。
ひなたは変わらず凛としていたが——たまに、奏太のほうを見て、少しだけ笑うようになった。
◇
夜の練習室。奏太がひとり残って鏡の前に立っていると、ひなたが戻ってきた。
「……また残ってた」
「また来てくれた」
「……見回りです」
「毎日来てる?」
「……来ています」
ひなたは鏡の前に並んで立った。
「奏太くん」
「うん」
「来年も——PRISMに、いてくれますか」
奏太は少し間を置いてから言った。
「当然でしょ」
「……当然?」
「みんなの踊り、まだ全然見足りない。ひなたさんの踊りも」
ひなたは奏太を見た。その目に、何かが揺れていた。
「……私の踊りを」
「特に」
ひなたは少しだけ、鏡から目を逸らした。
「……そういうこと、さらっと言うんですね」
「嘘じゃないから」
「……知ってます」
少しの沈黙。
「では——来年も、よろしくお願いします」
ひなたが差し出した手を、奏太は握った。
「こちらこそ」
鏡の中に、ふたりが映っていた。
それから奏太は——鏡の中の自分に、久しぶりに「振付師」の顔を見た気がした。怖くなかった。
(また、踊れる。また、作れる)
外から練習室の窓越しに、街の明かりが見えた。夜はまだ続いている。ビートは、まだ鳴り続けている。
◇
翌日の練習室。全員が揃ったとき、ゆずが叫んだ。
「来年のコンペ、今度は優勝するよ!!」
「当然」とあかり。
「やったるわ!!」とゆずき。
「楽しみましょう」とリリカ。
「……参加します」となつき。
「まあいいか」とさくら。
「次こそ」とことの。
「やるか」とつかさ。
「みなさん——楽しんで踊りましょう」とひなた。
全員の視線が奏太に集まった。
奏太は笑って言った。
「——じゃあ、振付始めようか」
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第24話「ビートはまだ、鳴り続ける」 了
◆ Beat Drop★Love 第1期 完 ◆
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