第28話:豊穣の祭壇
第1ポイントの入口を抜けると、そこには他とは違う濃密な生命の熱気が溜まっていた。
広場の中央、数本の巨樹が天を隠すほどに太い枝を絡ませ、巨大な屋根を作っている。
その根元には、じいちゃんの地図に記された通り、人の頭ほどもある果実が熟しきり、地面を埋め尽くしていた。
樹冠の隙間から差し込む光の筋が、発酵した果実から立ち上る霧を淡く照らしている。
「……いたぞ」
カイが声を押し殺して告げる。
果実の山の向こう、湿った土を大きく抉った窪みに、それはいた。
山のような巨躯。
鋼の針を並べたような剛毛に覆われ、左右に突き出した牙は、朽ち果てた建物の鉄骨のように太く、ねじ曲がっている。
この肥沃なポイントを占拠する「巨猪」だ。
奴は無造作に果実を噛み砕き、骨を砕くような咀嚼音を周囲に響かせていた。
カイ達に迷いはない。
カイは無言で指先を動かす。
レンと数名はそれだけで頷くと、音もなく影に溶けて背後へと回り込んだ。
「……レイジ、あいつを右の立木へ誘い込め。深追いはするな」
「わかってる。……一気にいくぜ」
レイジは槍を握り直し、腰を落として獲物の視界の端へと潜り込んだ。
数分後、背後の茂みからレンが鋭い口笛を鳴らす。
同時に、あらかじめ用意していた「腐った木の実」を詰めた袋を、巨猪の鼻先へ投げつけた。
鼻を突く悪臭が、縄張り意識の強い獣を激昂させる。
「グォォォォォッ!!」
突如として食事を汚されたことに激昂し、巨猪が咆哮した。
赤い瞳が獲物を求めて周囲をなぎ払い、正面の物陰に姿を晒したレイジを捉える。
巨猪が地を削り、猛然と突進を開始した。
「……来いよ、デカブツ!!」
レイジは正面から当たる直前、狙いすました角度で槍の石突きを地面の根に固定した。
衝突の瞬間、穂先が巨猪の肩口を深く抉る。
凄まじい質量に槍の柄が悲鳴を上げ、レイジの体は衝撃で横へ弾き飛ばされたが、巨猪の突進は大きく右へと逸れた。
「――今だ、カイ!」
レイジの声に応えるように、カイ達が立木の陰から飛び出した。
勢いを殺しきれず、右足の踏み込みが甘くなった巨猪の脚元へ、カイは手にした鉈の背を叩き込む。
関節を狙った正確な打撃と、濡れた苔に足を取られたことが重なり、巨猪の巨体が地響きを立てて横転した。
泥を跳ね上げ、もがく巨猪。
カイはその隙を逃さず、ひっくり返りかけた巨猪の剥き出しの喉元へ、一気に鉈の刃を突き立てた。
「ブヒィィィィィィィ!」
激しい痙攣のあと、山のような巨体が泥の上に沈んだ。
カイは肩で息をしながら、返り血を拭う。
レイジが折れかけた槍を拾い上げ、レンが茂みから姿を現す。
「……やったね、二人とも」
「ああ。……レン、周囲を頼む。レイジ、今のうちに処理を始めるぞ」
カイが言い、数名は手際よく腰のナイフを抜いた。
広場には、倒れた獲物から溢れ出した濃厚な血の匂いと、熟した果実の甘い香りが混ざり合い、奇妙な静けさが漂っていた。




