第27話:緑の静脈
第4ポイントの静かな池を背に、一行はじいちゃんの地図が示す「第1ポイント」へ歩みを進めた。
一歩踏み込むごとに、頭上の樹冠は幾重にも重なり、陽光は鋭い「光の針」となって湿った地表のとこどころを刺している。
草原の生温かい風は途絶え、そこにあるのは、巨大なシダ植物が吐き出す濃密な酸素と湿った場腐葉土か醸し出す湿気だけだった。
「……空気が、重いな」
レイジが小声を漏らし、革の小手を巻いた左腕で行く手を阻む巨大な葉を押し退けた。
しなった葉の裏側から、親指ほどもある極彩色の虫が数匹、音もなく這い出していく。
かつての世界の常識では考えられないほど肥大化した虫たちは、人間を恐れる様子もなくただゆっくりと樹皮の奥へと消えていった。
「……レン、足元に気をつけろ。根が浮いてる」
カイが注意を促す。
そこには締め上げるようにつらなった太い木の根が血管のごとく地表をのたうっていた。
「……ねぇカイ、見て。この木……削られてる」
レンが立ち止まり、一本の巨木の幹を指差した。
見上げるほどの高さにある樹皮が、何かに激しく抉り取られたように剥き出しになっている。
その傷口からは、琥珀色をした粘り気のある樹液が、涙のようにじわりと溢れ出していた。
カイはその傷に手を触れようとして、思い止まっ
た。
空気が微かな、しかし鋭い「警告」を伝えてきている。
「……新しい。ついさっき、何かがここを通った跡だ」
「牙」の鋭い爪跡ではない。もっと重く、破壊的な、力任せの蹂躙。
第4ポイントでは見られなかった、大型の獣がこの先に潜んでいることを、真新しい傷跡が雄弁に語っていた。
一行はさらに歩みを進める。
次第に、周囲の樹木の種類が変わり始めた。
細い幹の木々は淘汰され、代わって現れたのは、幾重にも蔦を巻き付けた、古の守護者のような巨樹の群れだ。
その枝には、発酵して熟れすぎた果実が重そうにぶら下がり、時折「ボトッ」と、静寂を切り裂くような重い音を立てて地面に落ちる。
その匂いは甘ったるく強烈なものだった。
「……第1ポイントが、近いよ」
レンの言葉に、レイジが槍を低く構え直し、カイが鉈の柄を握り締める。
鳥のさえずりさえ聞こえなくなったその場所で、彼らは自分たちの心臓の鼓動が、かつてないほど激しく刻まれているのを感じていた。
第1ポイント。
とこどころ光が刺す回廊の先に、じいちゃんが「最も危険で、最も豊かな場所」と呼んだ入口が、黒い口を開けて待ち構えていた。




