第25話:初めての壁と森の恵み
ロビーの喧騒の中、カイはじいちゃんの車椅子の横に立ち、集まった人々を見渡した。
「……班を分ける。バリケード班と、狩り班だ」
カイが古びた簡易な地図を指差す。
「狩り班は、機動力と索敵を重視する。小回りが利いて、いち早く異変に気づけるレン、お前が先導だ」
「わかった! 牙の気配、絶対に見逃さないよ」
レンが身軽な体躯を躍らせ、ナイフの柄を軽く叩く。
「それと、接近戦での守りに長けたゼロとレイジ。お前たちが狩り班の盾になってくれれば、森の中でも戦える」
カイの言葉に、二人は無言で拳を固める。
だがそこで、マルタが鋭い声を上げた。
「ちょっと待ちなさいッ! こっちの設営中に牙が来たらどうするのよ。バリケード班の護衛と、パニックを抑える冷静な頭が必要だわッ!」
カイはマルタの言い分を認め、ゼロの方を向いた。
「……ゼロ、残ってくれ。あんたの冷静な眼と頭があれば、奴らが近づく前に異変に気づける。バリケード班の安全を、あんたに預けたい」
ゼロは、一瞬だけ草原の先を見たが、短く頷いた。
「……承知した。死角は作らせない」
班分けが決まり、それぞれご出発の準備が整えている。
その時資材の影から、一人の女性が静かな足取りで歩み寄ってきた。
「……レイジさん」
女性は俯き、指先を震わせながら小さな包みを差し出した。
「これ……昨日レイジさんが作った小手の切れ端が、余っていたから……。春の香草を詰めて、御守りを作りました。……どうか、ご無事で」
カイは黙ってその様子を見届け、レイジの肩を軽く叩いた。
「……行くぞ、レイジ」
レイジは不器用な手つきでそれを受け取り、首にかけた。
「……あぁ。大事にする。ありがとな、サキ」
「……じいちゃん、行ってくる」
「あぁ。無理はするなよ。その力は、拓くためにあるんじゃからな」
「……行くぞ」
レンを先頭に、カイ、レイジ、そして数人の志願者がモールを後にした。
背後からはマルタの的確な指示のもと、バリケードの杭を打ち付ける「ゴンッ、ゴンッ」という一定の槌音が響いている。
膝まである草むらの中、レンが先頭に立って泳ぐように進んでいく。
「カイ、こっち。牙の足跡を避けて、森へ繋がる獣道を見つけたよ」
レンは身を屈め、わずかな草の揺れや折れた茎から、敵の気配を巧みに回避していく。
「レン、あっちの茂み、少し不自然に揺れてる。左から回ろう」
「わかったよ、レイジ!」
「俺が右を固める。カイは左を頼む。レンは前に集中しろ」
レイジがサキの御守りを革小手越しに握り、油断なく周囲を警戒する。
やがて、一行の前に圧倒的な緑の壁――「森」が姿を現した。
サバンナの明るい緑が途切れ、そこから先は光を吸い込むような薄暗い闇が支配している。
「……あそこからが、本番だ」
カイが呟く。
風が止まり、草原とは明らかに違う、湿った土と古い樹液の匂いが鼻を突いた。
森の深淵で、何かが自分たちを待っている――。




