第24話:危機との対峙
蔦との格闘を終えた昼下がり。
空気はまだ湿り気を帯びていた。
カイたちは、開拓の境界線で足を止めていた。
ゼロが泥のついた膝をつき、低く唸る。
「……一頭じゃない。三頭、いや、四頭だ。足跡が新しい」
レイジが、自ら作った牙の皮の小手を叩いた。
「冗談じゃねぇ……。俺たちが蔦とやり合ってるのを、あいつら、すぐそこで見てやがったのか」
カイは右手の拍動を抑え込みながら、陽光に照らされ始めた草原の奥を凝視した。
「……雨上がりの混乱を狙って、様子を伺いに来たんだ。俺たちがどこまで動けるか、値踏みされてたんだよ」
レンが、千切れた蔦の残骸を見つめる。
「僕たちがこいつを倒したことも……全部、見られてたのかな」
四人の間に、重い沈黙が流れる。
太陽が顔を出したというのに、草原の奥からは冷たい視線を感じていた。
モールへ戻ると、人々が不安と期待の混じった表情で集まってきた。
「カイ、蔦は片付いたんだな! 助かったよ。これで少しは安心できるのか?」
一人の男性が安堵したように声をかける。
「お兄ちゃん、もうお外行ける? またお花見つけたいよ……」
子供たちが、カイの服の裾を期待を込めて引いた。
「……悪い。今日はまだ、出さないほうがいい。牙の足跡があった」
カイが重い口を開くと、ロビーの空気が一変した。
「牙か……。せっかく雨が上がって、春の光が出てきたってのに」
一人の女性が、抱えていた洗濯物をぎゅっと握りしめる。
「またあのカビ臭い闇の中で、シャッターを閉めて過ごすしかないのかい……?」
マルタが、鎌を肩に担いで一歩前へ出た。
「あんたたち、情けない声出しなさんなッ! 牙が来てるなら、来られないようにすりゃいいだけの話じゃないッ!」
マルタの言葉に、レイジが即座に呼応した。
「そうだ。閉じ込もるんじゃねぇ、追い出すんだよ!」
レイジはモールの隅から鉄柵を引きずり出してきた。
「カイ、ただ待ってても奴らは消えねぇ。だったら、俺たちが刈り取った『庭』の周りに、物理的に壁を作っちまおう。バリケードだ」
「資材はどうする」
「あるもんでやるんだよ! 廃材でも鉄屑でもな。あいつらが飛び越えるのに一瞬迷う、その『隙』を作る。その間に、俺たちがぶっ叩く。そうだろ?」
マルタが鼻で笑った。
「いいじゃないッ! やってやろうじゃないの! 待ってるだけじゃ、洗濯物も一生乾かないわよッ!」
「……おう、俺も手伝うよ」
レイジの勢いに押されるように、男たちが立ち上がった。
だが、そこに「クマさん」が巨大な鍋を持って現れた。
「……壁を作るのもいいが、腹が減っては何もできんぞ」
クマさんが指差したのは、底が見え始めた干し肉の袋だった。
「保存食が尽きかけている。これからもっと体を動かすなら、この量じゃ数日しかもたん」
「……巨猪か」
「あぁ。森の近くまで行かなければ、あの肉は手に入らん。それに、そろそろ春の木の実も実る頃だ。食料を確保するなら、今動くしかない」
外には「牙」、内には「飢え」。
「庭」を自分たちのものにするための、本当の戦いが始まろうとしていた。




