第19話:掌の宝物と、憧れの背中
昼食のスープを飲み終えた子供たちは、自分たちの「戦利品」を大人たちに見せようと、広くなった庭へ一斉に散っていった。
〜ゼロ・レイジと子供たち〜
「ねえ見て、ゼロさん! この石、すっごく尖ってるよ! 槍の先に付けられるかな?」
一人の少年が、三角形の鋭い石を突き出した。
ゼロは槍の手入れを止め、冷ややかな視線をその石に向けた。
「……石か。研げば刺さるだろうが、一突きで砕けるぞ。俺は石より、この鋼の穂先を信じる」
「ちぇー、ゼロさんは相変わらず厳しいなぁ。じゃあレイジさん、これは? 綺麗な青いネジだよ!」
「おっ、見せてみろ。……おう、いい色だな。大事に持ってな。いづれ何かに使えるかもな。この『牙』の皮のようにな。」
レイジが誇らしげに腕の防具を叩いて見せると、子供たちが興味津々で指でつつく。
「うわ、本当だ! 岩みたいに硬い!」
「だろ? ……痛てっ、あんまり強く押すなよ。これ、まだ馴染んでねぇんだから……」
レイジは苦笑いしながら、そっと腕を引いた。
〜マルタ・痩せた男と子供たち〜
一方、マルタたちの元にも別の子供たちが駆け寄っていた。
「マルタさん! 見て、瓦礫の下から変なバネが出てきたよ!」
「あら、本当ね。……これ、懐かしいわ。昔、私がまだ小さかった頃、家の椅子が壊れた時に中からこんなのが飛び出してきたことがあったのよ」
マルタが目を細めて、錆びたバネを指先で揺らした。
隣に座る痩せた男が、珍しそうにそれを覗き込む。
「へぇ、椅子の中にこんなもんが入ってたのか。……これだけ弾力があれば、工夫次第で何か吊るしたり、小さな獲物を捕る仕掛けに使えたりするかもな」
「本当!? これでお肉捕まえられるの?」
「ははは、まだアイデアの段階だけどな。まずは、このバネを綺麗に磨くところから始めてみようか」
「やった! 僕が磨くよ!」
〜カイとタクト・ミナ〜
そんな賑やかさを遠くに聞きながら、タクトとミナは屋上へと続く階段を上っていた。
屋上の入り口で双眼鏡を覗いていたカイが、控えめな足音に気づいて振り返った。
「……タクト、ミナ。どうしたんだ?」
「あの、カイさん! これ……」
タクトが少し照れくさそうに差し出したのは、泥を丁寧に拭った、透き通った琥珀色の石だった。
「これ、さっき見つけたんだ。夕焼けみたいで、すごく綺麗だから……カイさんにあげるよ。いつも、上から僕らを守ってくれてるから」
カイは一瞬驚いたように目を細め、その石をゆっくりと受け取った。掌に乗せると、陽光を透かして温かな色が広がった。
「……ありがとう。大切にするよ」
カイがそう言って微笑むと、タクトの顔が一気に明るくなった。
隣でミナも、タクトからもらった青いガラス玉を大事そうに握りしめた。
「これはミナの宝物! このガラス玉は、タクトがくれたお守りなの!」
「そうか。素敵な宝物だな。ミナはもう大丈夫だな」
夕刻、作業終了の合図が響き、道具を担いだ人々がモールへと引き上げ始める。
「……ああー、やっぱりこの生皮、馴染まねぇな」
列を歩きながら、レイジが顔をしかめて腕の防具の隙間に指を差し込んだ。
「昼間、ガキどもに見栄張って叩いて見せたけどよ、実は裏側の縁が肌に食い込んで、歩くたびに削られてる気がするぜ。痛くてかなわねぇ」
「……当たり前だ、レイジ。鞣しもせず、脂も抜いていない皮だ。乾燥すれば歪み、角が立つ」
ゼロが前を見据えたまま、事もなげに返す。
「わかってるって。でもよ、この痛さは『安心感』より『不快感』の方が勝るぜ。マルタさん、どっかに皮を柔らかくする工夫とかねぇかな?」
「そんな都合のいいもの、この草原にあるわけないでしょ。戻ったら、まずは水で少し湿らせて、自分の手で根気よく揉んでみなさいよ。道具がないなら、自分の体を使うしかないわよ」
「へいへい、地道な作業だな……。ったく、強くなるのも楽じゃねぇぜ」
レイジはぼやきながらも、どこか誇らしげに硬い皮の感触を確かめ、沈みゆく夕日に照らされた「自分たちが広げた庭」を振り返った。




