第18話:庭の活気
「わあ、すごい! 地面だ!」
「こっちに光る石があるぞ!」
門番の許可が出るなり、子供たちは弾かれたように「庭」へと飛び出していった。
昨日までは死の境界線だった場所が、今は最高の遊び場だ。
数年ぶりに浴びる遮るもののない太陽の下、子供たちは競い合うように駆け出した。
「おい、あんまり奥に行くなよ!」
「わかってるってば! 見てよ、この草の根っこ、すごく太い!」
賑やかな声が響き渡る中、ふとタクトが足を止めて振り返った。
エントランスの影、建物の柱をぎゅっと抱きしめたまま、ミナが一人で震えていた。
タクトは小さくため息をつくと、泥だらけの足でエントランスまで引き返した。
「……ミナ、何してんだよ。早く来いよ」
少しぶっきらぼうに、タクトが声をかける。
「……だって、あそこ、草が揺れてるもん。また、なにか来るかも……」
ミナの声は小さく震えていた。
タクトは頭をかくと、ポケットに手を突っ込み、ひとつの「宝物」を取り出した。
「大丈夫だって。ほら、これ」
タクトが差し出したのは、泥を拭ったばかりの小さなガラス玉だった。
かつて何かの装飾だったのか、あるいは玩具だったのか。
傷だらけだが、陽の光を吸い込んで鈍く青く輝いている。
「これ、さっきみつけておれの宝物にしよう思ってたけどあげる。きれいだろ。……ほら、持ってろよ」
タクトは半ば強引に、ミナの小さな手のひらにガラス玉を握らせた。
「……きれい。冷たいけど、なんだかあったかい」
「だろ? さあ、行こうぜ。みんな他にも色々見つけてるんだ」
タクトがミナの手を引く。
ひんやりとした建物の影から一歩踏み出すと、草の匂いと温かい陽光が二人を包み込んだ。
「あ! ミナが来た! 遅いぞー!」
「ミナ、見てこれ! 太陽にかざすと透ける石を見つけたんだ!」
先に遊んでいた子たちが、誇らしげに透明な石の欠片を掲げる。
「これ、飴玉みたいじゃない? キラキラしててさ」
「『アメダマ石』だね! 食べられないけど、すごく綺麗!」
「あはは、変な名前!」
ミナは片手にタクトのガラス玉を、もう片手にアメダマ石を握りしめ、ようやくその顔に柔らかな笑みを浮かべた。
「アメダマ石と、私のお守り……。うん、宝物がいっぱいだね!」
「あんまり遠くに行くんじゃないよ!」
マルタの声が響く。
「分かってるってば!」
「ミナ、こっちの石の下に変な虫がいるぞ! 逃げろー!」
無邪気な笑い声が庭を満たしていく。
その声を背中で聞きながら、大人たちは確かな手応えとともに鎌を振るった。
やがて昼食時。
ロビーに戻った面々を、クマさんたちが大鍋を前に迎えた。
「クマさん、師匠。上にいるのカイからの報告だ」
スープを受け取りながら、遠見チームの門番が切り出した。
「『牙』や怪鳥の他にも、この緑の海にはかなりの種類の生き物がいるらしい。北には跳ねるように動く群れ、東の枯れ木には鳥のような巣……どれも脅威じゃなさそうだが、数は多いそうだ」
クマさんは目を丸くし、スープを注ぐ手を止めた。
「……ほう。牙以外の肉か。あいつらを知れば、このスープの具材ももっと豪華にできるかもしれねぇな」
ロビーの隅で、ミナやタクトが拾った「宝物」を並べて見せ合っている。
それを見つめる大人たちの顔には、疲れの中にも、明日への小さな好奇心が灯り始めていた。




