第15話:胎動するモール
牙を喰らった翌朝、モールの空気は重く沈滞していた昨日までとは明らかに違っていた。
朝日が差し込むロビーでは、すでにマルタの声が響き、それぞれのチームが動き出し始めていた。
【草刈りチーム(リーダー:マルタ)】
「いいかい、今日は昨日より一歩先まで踏み込むよ。視界を遮るものはすべて刈り取る。私たちの『庭』を、自分たちの手に取り戻すんだ」
マルタの号令の下、十数人の住民たちが鎌や鍬を手に取る。
数年放置され、凶暴なまでに根を張った藪に立ち向かう彼らの足取りには、昨日までにはなかった確かな力が宿っていた。
【護衛チーム(ゼロ、レイジ、他数名)】
その草刈りチームを囲むように配置されたのは、ゼロやレイジを含む護衛の面々だ。
まだ特定のリーダーは決まっていないが、実力のある者が自然と外側に立ち、周囲を警戒している。
ゼロは手入れの行き届いた槍を構え、冷徹に森の動揺を伺う。
その後ろで、レイジが昨夜の解体で得た「牙」の硬い皮を急ごしらえの防具として腕に巻き、静かに前方に目を向けていた。
【遠見チーム(まとめ役:カイ、門番の男たち)】
屋上の入り口付近では、平地で監視を続ける門番たちからの報告を、カイがまとめ上げていた。
「……北西、怪鳥の群れは移動したみたいだ。今日は視界がいい」
カイは双眼鏡を覗き込み、高い視点から広範囲の異変を察知しては、下の門番たちへ指示を飛ばす。
門番の男は、隣に立つ少年の横顔に、昨日までにはなかった鋭さを感じていた。
時折、カイが右手をきつく握りしめ、痛みを堪えるような仕草を見せる。
【調理チーム(主導:クマさん、指導:師匠、他数名)】
そしてロビーの奥、調理場ではクマさんが巨大な体で大鍋をかき回し、数人の手伝いに指示を出していた。
「火を絶やすな! 灰汁あくは丁寧に取り除くんだ!」
その横で、師匠が時折鍋を覗き込んでは、鋭いツッコミを飛ばす。
「クマ! 骨の周りの端肉を無駄にするなと言っただろうが! 削ぎ落とせ、一欠片も残すな!」
「へい! 師匠!」
師匠の厳しい指導を受けながらも、クマさんの返声には迷いがなく、解体された牙の部位が、次々と住民たちの明日を支える活力へと姿を変えていく。
昨日までは、ただ食われるのを待つ獲物だった。
だが今、モールは一つの生き物のように脈動し、静かに牙を研ぎ始めていた。




