第14話:鉄の掟と勝利の矜持
ロビーに敷かれたビニールシート。
そこに横たわる二頭の「牙」を前に、師匠は一筋の妥協も許さぬ厳しい眼差しを向けていた。
「……始めるぞ」
師匠の合図で、凄絶な解体作業が始まった。
本来なら仕留めてすぐに血を抜くべきだが、今回はクマの打撃とレイジの槍が図らずも急所を捉えていたため、放血は奇跡的に進んでいた。
師匠はそれを「運がいい」と一蹴したが、そこから先はまさに生き地獄だった。
一瞬の油断も許されない内臓の摘出や、特有の脂に阻まれ力任せにはできない皮剥ぎ、そして鮮度を落とさぬよう迅速に剥ぎ取っていく肉の切り分けなど、神経を研ぎ澄ます繊細な作業の連続は、若者の精神をじりじりと削っていった。
それはもはや単純な作業ではなく、一滴の血、一欠片の軟骨すら何一つとして無駄にしない。
敵を「資源」として活用し、徹底的に解明する、人類が勝つための矜持を叩き込まれていたのだった。
解体が終わる頃には、ロビーの外はすっかり帳が下りていた。
代わって満たされたのは、かつて嗅いだことのない、野性味の強い、けれど食欲を激しく刺激する肉の焼ける匂いだ。
即席のコンロの上で、少量の塩だけで味付けされた肉片がじゅうじゅうと音を立てている。
「……毒袋はどこにも見当たらなかった。それに、さっき捕まえたネズミに端肉はぎれを食わせたが、ピンピンしてやがる。他にもいくつか試したが、この肉に毒はない。……だが、ひどく硬いぞ。覚悟しておけ」
師匠が、焼き上がった最初のひと切れを皿に乗せた。
最初に名乗りを上げたのは、提案者のレイジだった。
過酷な解体作業で完全に生気を吸い取られ、虚脱したような瞳をしていたが、彼は震える手で箸を取り、その肉を口に運び、何度も、何度も、頑強な顎を動かしてその「未知」を噛み締めた。
「……どうだ、レイジ」
兄のゼロが、硬い声で尋ねる。
レイジはゴクリと重く喉を鳴らして飲み込むと、大きく目を見開いて、一言だけ絞り出した。
「…………力が、出る」
その言葉は、どんな「美味い」よりも重く響いた。
「美味いとかじゃない。……体が、これを欲しがってたんだって、わかる」
レイジの瞳に、確かな生気が宿る。
それを見たクマさんが、大鍋の蓋を取った。
「よし、全員分あるぞ! 牙を喰らって、明日への活力に変えろ!」
その日の夕食は、祝祭のようだった。
これまでも巨猪や怪鳥、木の実で命を繋いできた。
だが、自分たちを脅かしてきた「死」そのものである牙を自らの肉体へと変えたこの瞬間、彼らの中に芽生えたのは、恐怖に抗うための新たな誇りだった。




