第11話:泥臭い勝利の品
その日のロビーは、昨日までの沈痛な空気ではなく、戦い抜いた者たちだけが共有する、熱い興奮に包まれていた。
熱狂するロビーの中、兄のゼロは弟のレイジと一緒に、槍に着いた血を拭いながら静かにカイの右腕を見つめていた。
「……なぁ、カイ」
ゼロが、低く落ち着いた声で口を開いた。
「さっきは……助かった。あんたが駆けつけてくれなきゃ、俺たちもあいつを仕留める余裕はなかった。……礼を言う」
「俺は何もしてない。……不発だった」
カイが自嘲気味に呟くと、弟のレイジが身を乗り出した。
「そんなの関係ねぇよ! お前が前に出たから、俺たちは一歩も引かずに済んだんだ。……でもよ、正直、心臓が止まるかと思った。槍一本じゃ、あいつらの牙を止めるには細すぎる」
「確かに…そうだな」
「おいっ!どっかにもっと使えそうな物がないのか」
「クソっ!見当たらねぇ…」
「地下はどぉだ」
「確かに!何かありそうだ行ってみるぞ!」
次々と議論と盛り上がる中、レイジが槍を拭く手を止め、ひょっとした顔で指を指して言った。
「……なぁ。ところでさ。あいつら、意外と肉付き良かったよな」
一瞬、周囲の会話が止まった。
レイジは少し気まずそうに、だが好奇心を隠さずに言葉を続けた。
「いや……不謹慎かもしれないけどさ。あいつら、俺たちが地下で食ってる干からびた肉より、よっぽど良いもん食って走ってるだろ? 毎日スープに浮いてる出所不明の脂身より……あいつらを『食料』にできないかなって」
「……あいつらを、食うのか!?」
誰かが絶句する。
「だってよ、あいつらは俺たちを食うつもりで来てるんだ。だったら、返り討ちにして俺たちが食っちまったって、バチは当たらないだろ。もしあれが食えるなら……俺たちの食料問題、一気に解決するんじゃないか?」
レイジの突拍子もない、けれど極限状態においてはあまりに合理的な提案に、人々は顔を見合わせた。
視線が、料理の主であるクマさんへと集まる。
クマさんは、バットを傍らに置き、顎に手を当てて「ふーむ」と唸った。
「……牙の肉、か。捌いたことはねぇが、筋肉の質を見る限り、相当にタフだぞ。だが……」
クマさんが、少しだけ口角を上げた。
「……毒さえなけりゃ、俺が一番旨い食い方を見つけてやる。……ゼロ、お前はどう思う?」
振られた兄のゼロは、少しの間、入り口の向こうにある死骸の影に目を向け、それから弟とカイを見た。
「……リスクはある。だが、ただ草を刈るだけじゃ腹は膨らまない。明日、死骸を中に運び込んで調べてみる価値はあるだろうな。ついでに、あの硬い骨や皮も……何かに使えるかもしれない」




