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第8話:地を拓く者たち

翌朝、モールのロビーには朝日が差し込む前から独特の緊張感が漂っていた。


昨日までのような浮かれた空気は一切ない。


手には錆びた鎌や鉄槍。


人々は、自分たちの平穏を自分たちの手で奪いに行くための「道具」を整えていた。


「……開けるぞ」


門番のリーダーが重い声で告げ、シャッターのボルトを外した。


――ガガガ、ガラガラ……ッ!!


沈黙を切り裂く金属音が響き、ゆっくりと外の世界が露わになる。


一斉に差し込む青白い朝の光に、誰もが目を細めながら、獲物を構え直した。


まずは見張り番達が扇状に広がり、草むらの奥に「牙」が潜んでいないか、鋭い視線を走らせる。


「……よし、異常なし。マルタ、やれ!」


マルタが短く頷き、一歩を踏み出した。


それに続く作業班の足取りは、見えない泥濘を行くように重い。


昨日まで「光」だと思っていた太陽の下には、今や明確な死の気配が混じっていた。


「……入り口の、すぐ横からよ」


マルタが掠れた声で指示を出す。膝を突き、震える手で鎌を握り直した。


ザシュッ……。


最初のひと振りが湿った草を断ち切った。


その音が静寂に波紋を広げると、背後の作業班が一斉に肩を跳ねさせた。


誰かが草を刈るたびに、別の誰かが慌てて背後を振り返る。


鳥の羽ばたきや遠くの葉擦れ、そのすべてに人々は敏感に反応し、作業はたびたび中断した。


作業班が腰を落とせば、その周りで見張り番達がで槍を突き出す。


「……はぁ、はぁ……」


痩せた男が、数本刈っただけで激しく肩で息を吐いた。


「ダメだ……。屈むと草に囲まれて周りが見えねぇ。すぐ後ろに、あいつらが来てる気がするんだ」


実体がないからこそ恐怖は人々の精神を執拗に削っていく。


カイは少し離れた場所で、右手の熱を抑えながら草原を凝視していた。


誰もが戦っていたのは「牙」ではなく、自分自身の想像力が生み出す影だった。


何かが現れるのを待つだけの時間が、ただ徒に緊張を強いていく。


太陽が傾き始める頃、ようやく入り口の周囲に、ある程度の「剥き出しの地面」が姿を現した。


引き抜かれた草の青臭さと、掘り返された土の匂いが衣服にべったりと染み付いている。


「今日は……ここまでよ」


マルタが鎌を置き、泥のついた手で顔を拭った。


緊張で指が曲がったまま固まり、感覚が失われている。


モールの中へ逃げ込むように撤収し、再びシャッターが閉じられた時、ロビーに広がったのは「生還」の安堵を塗りつぶすほどの重い疲労だった。


費やした時間に対して、手にしたのはわずかな視界だけ。


けれど、人々はその場に身体を横たえながら、泥の味と筋肉の痛みを通して、自分たちが確かに外の世界を削り取ったことを実感していた。

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