エピソード2-14:禁忌の同期、あるいは個の意志
深夜、王宮の一画にあるアリスの隠れ家。魔導端末の微かな駆動音と、冷却水の流れる音だけが静寂を満たしていた。
ヴィオラは音もなく部屋に入り、モニターを見つめるアリスの背後に立った。
「……アリス。一つ、技術的な相談があります」
アリスは視線を動かさず、平坦な声で応じた。
「データの整理中よ。簡潔に。……それと、背後に立つのはやめて。反射的に撃ちそうになるわ」
ヴィオラは一歩下がり、目的を告げた。
「個体名『零』との戦闘データを再演算しました。現状の私の出力では、アリア様を護衛しつつ目標を沈黙させる確率は、 12\% 以下です」
「……妥当な数字ね。あれは規格外よ」
「肯定。……そのため、私の深層回路に封印されている『リミッター解除・オーバーロック』の物理的強制開放を依頼します」
アリスの手が止まった。彼女は椅子を回転させ、ヴィオラの無機質な瞳を真正面から見据えた。
アリスは手元の端末を操作し、ヴィオラの内部構造図を空中に投影した。
「……オーバーロック。アンバー・ノアが実験体。最終局面にのみ想定した、自食型のブースト機能ね。……知っているはずよ。これを起動すれば、魔力経路は焼き切れ、脳殻は熱暴走を起こす。……使用後の生存率は 0.5\% 以下。……ただの自爆回路よ」
「……理解しています」
「なら、なぜ。……あなたはもう、組織の道具じゃない。死ぬ必要なんてないわ」
ヴィオラは視線を落とし、自身の白く冷たい指先を見つめた。そこには、先日ミリアから教わった「温かいスープ」の感覚が、記憶の断片として記録されている。
「……アリア様は、私を『ヴィオラ』と呼びました。ただの型番ではなく、一つの個体として、居場所を与えてくれました。……これは、演算に基づいた行動ではありません。……私が、私として出した結論です」
アリスはしばらく無言でヴィオラを観察した。その瞳に宿る、静かだが揺るぎない光。それはアリス自身が、そしてリリィやシフォンが持っている「不合理な強さ」と同質のものだった。
「……リリィに叱られるわね。……後で彼女に文句を言われるのは私なのよ」
アリスは溜息をつき、作業用のコンソールを立ち上げた。
「……調整を開始するわ。ただし、完全な開放ではなく、私の外部演算機で遠隔制御するわ。……負荷が 90\% を超えたら、強制的にシャットダウンさせる。……いいわね?」
「……感謝します、アリス」
ヴィオラは調整台に横たわり、意識のバイパスをアリスの端末へと繋いだ。
「……調整完了まで、三時間。……神経を直接弄るわ。……感覚遮断はしない。……耐えなさい」
「……了解。……痛覚も、私が私であるための、大切なログですから」
アリスの指先が鍵盤を叩き、ヴィオラの深層に隠された漆黒の領域を抉り出していく。
暗闇の中で、ヴィオラは静かに決意を固めていた。
次にあの『零』が現れた時。自分を、そして自分を救ってくれた温かな日常を壊させはしない。
それは、機械仕掛けの少女が初めて手に入れた、何よりも重く、尊い「わがまま」だっ




