エピソード2-9:強襲の記録
王都北西に位置する旧式魔導発電所。アリスとリリエルは、Vー012の潜伏先とされる地下区画への侵入を開始した。アリスが先行し、配管の影を伝う。リリエルは液状化し、通気口を経由して内部へ浸透した。
地下広場の中央、Vー012は待機状態で静止していた。傍らにはハルバートが垂直に保持されている。アリスは距離100メートルを維持し、狙撃銃『ブラック・アイ』の照準をVー012の頭部に固定。即座に第一射を放った。
Vー012は視線を動かさず、左手の指先のみで弾丸の軌道を弾いた。金属音と共に、弾丸が壁面に埋没する。
「排除対象を識別。戦闘プロトコルを起動」
Vー012がハルバートを水平に構え、地を蹴った。アリスの視界からVー012の姿が消失し、次の瞬間、彼女の目前にハルバートの石突きが迫った。アリスは後方へ跳躍したが、石突きが地面を砕いた衝撃波により、平衡感覚が一時的に阻害された。
リリエルが体積を拡張し、粘性を持った触手でVー012の四肢を拘束しようとした。しかし、Vー012はハルバートを旋回させ、遠心力と魔力放出を組み合わせた物理破壊により、リリエルの体を数千の破片へと霧散させた。
「……出力が計算を上回っている。リリィの定格運用時の1.5倍以上。撤退を選択する」
アリスは魔法弾による牽制射撃を行ったが、Vー012はハルバートを回転させてすべての弾道を偏向、物理的に無効化した。Vー012の挙動には迷いがなく、ただ破壊のみを目的とした最適解が連続していた。
アリスの左肩をハルバートの刃が掠め、皮膚を掠めた。
リリエルは四散した破片を集約させ、Vー012の視覚センサーに張り付くことで視界を0.8秒間遮断。その隙にアリスが高密度煙幕弾を三発起動し、廃炉内の視界をゼロにした。
二人はあらかじめ設置していた脱出用ワイヤーを用いて地上へ帰還した。背後では、コンクリートが粉砕される音が断続的に響いていた。
数刻後、王宮内の一室。アリスは左肩の止血を終え、収集したデータをホログラムで投影した。
物理出力
3.2ギガ・パルス(推
定)
L-081の最大出力を凌駕
反応速度0.002秒以下
銃弾の直接偏向が可能
魔力特性
物理干涉型破壞魔力
魔導障壁を無効化
「……完敗。リリエルが肉壁にならなければ、生還は困難だった」
アリスの声は平坦だったが、報告書を持つ指先には僅かな震えがあった。
「……アリス、ごめんなさい。私のせいで」
リリィはアリスの負傷箇所を見つめ、淡々と、しかし以前よりも低い温度で謝罪を口にした。
「……いい。……あれは、お菓子を食べない。……ただの、ゴミ。……私が、噛み砕く」
シフォンが槍を床に立て、Vー012のデータを注視した。彼女の瞳には、感情を排した戦士としての殺意のみが宿っていた。
リリィは自らの二刀を強く握り、無機質な決意を述べた。
「……これ以上の被害は、非合理的です。Lー081としてではなく、リリィとして、あちらの個体を処理します」
アリアは報告書を閉じ、四人の顔を見渡した。
「データは揃いました。これより、Vー012の完全沈黙を目的とした最終作戦を策定します」




