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エピソード2ー1 見えない買収、琥珀の予兆

 

 

 王都の平穏を脅かす「食」の異変。シフォンとアリアは、それぞれの得意分野と人脈を活かし、二面から調査を開始しました。

 

 シフォンが向かったのは、活気溢れる中央広場から外れた、薄暗い路地裏だった。そこには、彼女が定期的にサトウキビを買い求めている馴染みの露天商、バーンズが店を構えている。

 

「……おじさん。いつもの」

 

 シフォンが声をかけると、バーンズは深いため息をつきながら、細く痩せたサトウキビの束を差し出した。

 

「……細い。……甘くないの?」

「すまねぇな、お嬢ちゃん。これでもマシな方なんだ。最近、質のいいサトウキビから順に、商人ギルドの連中が根こそぎ買い占めていくんだよ。言い値でいいから全部寄こせ、断るならここでの商売を保証しない、なんて脅し文句付きでな」

 

 シフォンは受け取ったサトウキビを一本、無造作にかじった。微かな甘みと共に、どこか不自然な「苦み」が混じっている。

 

「……これ、味が変。……少し、琥珀の匂いがする」

「琥珀? 何の話だ?」

「……分からない。……でも、不自然。……買い占めてる商人、どこに運んでるの?」

「北門の大きな倉庫街だよ。あそこは最近、商人ギルドの私兵が見張ってて、俺たち小作人は近づくこともできねぇ」

 

 シフォンはサトウキビを齧りながら、北の空を見つめた。死神の嗅覚が、金銭の欲を超えた「未知の魔力」の残滓を捉えていた。

 

 一方、アリアは王都郊外に広大な領地を持つ侯爵家を訪れていた。そこに嫁いでいる実の姉、エレナを頼るためだ。エレナは王国内でも屈指の農業経営の才を持つ女性として知られている。

 

「アリア、久しぶりね。急に来るなんて、あの苺の件かしら?」

 

 エレナは優雅に紅茶を啜りながら、妹の不安を見透かしたように言った。彼女の領地は、王都へ蜜苺を供給する最大の拠点の一つだ。

 

「お姉様、やはり農園でも何かが起きているのですか?」

「ええ。奇妙なのはね、アリア。『不作ではない』ということよ。今年の収穫量は例年通り、いえ、例年以上の豊作だったわ」

 

 アリアは目を見開いた。

 

「では、なぜ市場から消えているのですか?」

「出荷の直前、商人ギルドの上層部が王室の特別徴収だと偽った書面を持って現れ、全量を差し押さえていったの。後で調べたら、そんな命令は王宮から出ていなかった。彼らは農家に法外な違約金を突きつけ、口を封じているわ」

 

 エレナは表情を曇らせ、一粒の蜜苺をテーブルに置いた。それは表面が不自然に硬質化し、琥珀色の斑点が浮き出ていた。

 

「この蜜苺は食べられないわけじゃないけれど、原因は不明だけど石のように硬くなっている。商人たちはこれを『新種の保存食』として、裏で高値で売買しているという噂よ」

 

 夕暮れ時、アリアの邸宅に戻った二人は、得られた情報を突き合わせた。

 

 • シフォンの情報: 商人ギルドが物理的に食料を独占し、倉庫街を私兵で封鎖している。サトウキビには不自然な苦みと変質の兆候がある。

 • アリアの情報: 不作は偽装。商人ギルドは公文書を偽造して組織的に食料を強奪している。農作物が「琥珀化」するという怪現象が起きている。

 

「……おじさんのサトウキビも、お姉さんの苺も、琥珀になってる」

 

 シフォンが呟く。

 

「単なる利益追求ではありません。商人ギルドの裏に、もっと強大で、恐ろしい力を持つ『何か』が潜んでいます。彼らは王都の胃袋を掴み、この国を根底から作り替えようとしている……」

 

 アリアの言葉に、シフォンは静かに槍を召喚した。銀の穂先が、夕闇の中で鋭く光る。

 

「……お菓子の恨み。……そろそろ、本気で掃除する」

 

 二人の視線の先には、闇に沈む北の倉庫街があった。そこには、カイルやカルデナスさえも利用していた、あるいは彼らをも操っていたかもしれない「闇の大組織」の影が蠢き始めていた。

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